懺悔の部屋
「いままで誰にも言ったことなかったんですが、
昔から夫に黙って若い男に貢いでいて…」
小さな磨りガラス窓の向こう側に映る老人の影は黙ってうなずく。
「もちろん今はやめました。ただずっと誰かに告白したくてうずうずして…」
夫人はしばらく小窓に向かって過去の告白をし、
それを終えるとやがて満足した顔で部屋から出てきた。
それを博士は満足げな顔で見る。
「よしよし、順調にいっているようだ。
この『懺悔の部屋』も今や一つの新たなビジネスだな。」
博士が作ったこの部屋では、
中に何かを告白したり身のうちを吐露したい人が入ると、
彼が独自に研究した光と音が部屋中を満たし、中の人の懺悔を誘うのだ。
「人間誰しも誰かに聞いてほしい悩みや後ろめたい過去がある。
それに応えるべく、ただ告白を聞くだけの施設を作ってみたわけだが、
ここまで成功するとはな。」
小さな小窓の向こう側で利用者の話を聞く老人は、
施設のオープンにあたり博士が雇った知り合いの元カウンセラーだ。
ただ話を聞くだけとはいえ一人ひとりに感情を入れ込みすぎると、
しだいに気持ちがまいってしまう。
そこで人の話を聞くプロを雇ったわけだ。
オープンして以来、評判が評判を呼び施設には様々な人が来る様になった。
「この前のテストでカンニングしちゃって、
お母さんには褒められたけどすごく悪いことをしたって思っちゃうんだ。」
「会社の上司の陰口を本人に聞かれてしまいまして、
何も言われませんでしたがあの哀しそうな顔を思い出すと自分が情けなくて…」
「彼氏と喧嘩した時に大事にしていたギターを勝手に売っちゃって、
向こうが原因とはいえひどいことをしちゃったなって。」
老若男女問わず、皆思い思いに自分のもやもやを言葉にすると、
なんらかの落としどころを見つけて部屋を出て帰っていく。
誰がどんなことを言っても老人はいつも静かに耳を傾けうなずくのみで、
人々はお金を払って気兼ねなく小窓に向かって話し続けた。
博士はそんな老人を見てふと、
彼にも何か懺悔したい秘密があるのでは無いかという気になってきた。
老人を告白部屋に座らせ、
装置のスイッチを入れると特殊な光と音が発生し老人を刺激した。
「こんな特殊な仕事なんですから、
たまには日頃の悩みや鬱憤を晴らしてみてはどうですか。」
すると老人は申し訳なさそうな顔をして下を向いてしまった。
「どうしたのです、ここには私しかいないので気兼ねなくお話しください。」
博士が促すとようやく老人は静かに話し始めた。
「実は私、今まで部屋に入るたびにうとうとして、
毎回話を聞いてる途中で眠ってしまい…
一生懸命話されてる方には申し訳ないとは思っていながらも、
どうしても座りっぱなしだと眠くなってしまって…」




