広場のマスコット像
「エネルギーの独占反対!」
「供給価格を直ちに見直せ!」
数々の怒号がエネルギー会社のビル前広場に響きわたる。
ある会社のエネルギー市場の独占に反対する市民らがデモを起こしているのだ。
元々、前から価格を見直すべきだと言う声はほうぼうで上がっていたが、
誰かが本社前での抗議活動を始めたのをきっかけに、
民衆の怒りは加速し連日集会が行われるようになった。
エネルギー会社は無言の姿勢を貫いていたが、ある時変化が現れた。
反対集会が行われている広場の真ん中に大きな像が建てられたのだ。
その像はエネルギー会社のマスコットキャラクターの銅像となっており、
様々な動物がモチーフになった奇妙な生き物が満面の笑みで広場を見渡している。
「おい、あれ見ろよ。連中はどう言うつもりで置いたんだ。」
「気色の悪いデザインのキャラクターだな、
ニヤニヤ笑いやがって見てるだけでむかむかしてくるぜ。」
「俺らのことを挑発してるんじゃないのか。
いっそのこと押し倒してしまおうぜ、こんな像。」
「そうだな、これも俺らの意思表示の一環だ。」
怒れる民衆たちは力を合わせ、皆でその銅像を押す。
「なかなか重いな、ちょっとやそっとではビクともしない。」
「諦めるな。俺たちの怒りのエネルギーをとことんぶつけてやろう。」
皆で必死に像を押し続けると、やがて銅像は倒れた。
「やったぞ、かなり時間はかかったが、ざまあみろだ。」
倒れた銅像を確認して市民たちは満足げに帰路へついたが、
次の日広場に来てみると銅像は早くも元どおりに立ち直っていた。
「野郎、もう元に戻しやがった。」
「もう一回押し倒してやろう。
何度でも俺らの意思は揺るがないことを見せてやるんだ。」
「よし、せーので押すぞ。」
広場で皆が集まって銅像に向かって力を込めているのを、
ビルの上層階からエネルギー会社の社員が見守る。
「今日も懲りずにやってるな。結構倒すのも一苦労なはずなんだがな。」
「ああ。にしても、よく考えたもんだよな。銅像型の発電機なんて。」
「ほんとだよ、一定の力が加わるとそれを電気エネルギーに変換して倒れて、
日付が変わる頃にはまた自動的に起き上がる装置ってなもんだろ?」
「ああ、彼らの怒りのエネルギーを変換してるってわけだな。」
「そう考えると何とも皮肉なもんだな。あ、また倒れた。」
社員が指差す先では倒れた銅像を前に喜ぶ市民たちの姿があった。




