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丘の上の診療所

私はコーヒーを飲みながら窓の外を眺める。

都会から遠く離れた、静かな丘の上のこの小さな診療所が私の仕事場だ。

患者はそこまで多くはないが、それなりに経営はうまくいっている。

今日もチャイムの音と共に患者がやってきた。


最初に来た患者はひどく疲れ切った様子で、顔がやつれている。

「最近緊張が続いてよく眠れないんです。 

仕事でここぞという時にも、手が震える様になってしまって…」

「そういう方はよくいらっしゃいます。

プレッシャーが続くと人間誰しも体に支障をきたします。

詳しく調べて、一番いい治療法を探していきましょう。」

「ありがとうございます…何卒よろしくお願いいたします…」

そうしてしばらく問診を続け、その患者には何度か通ってもらうことになった。


次の患者は、どこか不安げな顔で部屋に入って来た。

「どうにも最近動物に追われる夢を見る様になってしまいまして。

もともと動物が好きだったはずなのですが、いったいどういうことでしょう。」

「もしかすると仕事に追われていることへの焦りが、

動物と結びついて夢に現れているのかもしれません。」

「なるほど、確かにこのところは忙しくて参っていました。」

「知り合いに良い心理療法の権威がいます。紹介しましょうか。」

「はい、是非お願いします。ああ、同業者の紹介でここに来て正解だった…」

「そう言っていただけますと何よりです。」


最後の患者が来る頃にはすっかり日も暮れていた。

「自分が自分でない様な気がして落ち着きません。

街中で人を見てもその人じゃない様な感じがして…

私はおかしくなってしまったのでしょうか。」

顔立ちの整ったその患者は虚な目で訴えかける。

「実は、あなたと同じ様な方が前にいらっしゃいました。

少し休暇をとって一人で休むのが一番でしょう。

提携先の保養所を紹介しましょうか。」

「確かに人の顔を見るのも、もううんざりです。

お言葉に従って休暇を取ることにします…」


「ふぅ、今日も疲れたな。」

深夜になり、クリニックを閉めた私は新しく記録したカルテを見返す。

「エリート心臓外科医に忙しい獣医、モデル専門の整形外科医ときたか…」

山積みになっている他のカルテもほとんどが医者のものだ。

「都会を離れ、ひっそりここで診療所を開いたつもりが、

いつの間にか医者の駆け込み寺になってしまったな。

それにしても彼ら、私が医師免許を剥奪されてる無免許医だと知ったら、

はたしてどんな顔をするんだろう…」


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