報われない魂
じめっとした空気が肌にまとわりつく。
いわく付きで有名な廃墟に足を踏み入れていた私は、ある実験の準備をしていた。
「理論上動くはずなのだが、自分でも胡散臭さを感じる代物だな。」
電磁波や磁場について研究をしていた私は、とある馬鹿げた仮説を思いつき、
とある装置を作っていたのだ。
「それにしても幽霊ねぇ…本当に装置が動いたところでなぁ。」
怪奇現象が発生する時に生まれる特定の磁場に目をつけた私は、
その磁場をもとに幽霊を実体化できる装置を設計したのだ。
といっても、実験の場にふさわしい場所もそう簡単に見つからなかったので、
こうしてへんぴなところまで足を運びに来ていたのだ。
「いざ起動するとなると少しためらうな。」
深く深呼吸をした私は、覚悟を決めスイッチを入れてみた。
するとホログラム装置が起動し、空中にぼやけた人の影が出てきた。
驚きながらも設定を調整すると、それははっきりとした落武者の姿になった。
「私が、見えるのですか…」
どんよりした落ち武者は私の目を見て言う。
「はい、見えています。あなたはなぜこんなところに。」
「昔はちょうどここが私の戦場でね。たいした活躍もできずにここで死んだら、
この土地に捕まって地縛霊になってしまったのさ。」
「なるほど。
ここの土地には死んだ者を引き離さない何かがあるのかも知れませんね。」
「早く解放されたいのですが、どうにも成仏が難しくてね…」
私は落武者と話しているうちに、だんだん彼の気の毒に思えていきた。
「それでは擬似的に戦で活躍してみたらどうですか。
ここに最新のゲーム機があります。」
私は暇つぶしに持ち歩いている、最新型の劇場型投影ゲーム機を起動すると、
2人の立っていた廃墟はホログラム映像によって、
あっという間に昔の戦場へと塗り替えられた。
「わぁすごい、昔のままだ。まるで魔法の様だ。」
「敵の強さは弱めにしてあるので、ひさしぶりに剣を奮ってみてはいかがですか。」
最初は怯えていた落ち武者だったが、じきに自信を取り戻したのか、
ばったばったとゲームの敵を倒していった。
「ああ、すっきりした。生前での無念が少し晴れた気がします。」
落ち武者は成仏したのか、満足げな顔で姿を消していった。
なんだか良いことをした気分になった私はしばらく余韻に浸っていると、
装置が再び反応して新たな影を投影した。
「ついさっき、ここの戦場で死んだのですが、
なんだかあの冴えない落ち武者にあっさり殺されたと思うと死ぬに死ねなくて…」
そこにいたのはたった今この地で死んだ、ゲームの中の兵士だった。




