国民総教育ロボ
ことのところ、隣の国の経済発展がめざましいらしい。
なんでも、噂によれば独自の政策で国民の平均学力が底上げされているとのことだ。
フリーのライターである私はその真相を確かめるべく、
密かに潜入捜査にあたっていた。
「特になんてことない、穏やかな国だな。」
この国に入ってからいろいろな場所を見て回ったが、
特に目立ったところはなかった。
私がこうして今歩いている公園の中でも、みな思い思いにくつろいでいる。
「所詮ただの噂だったか。」
そう言いながらベンチで一息ついたが、次の瞬間、
今まで聞いたことのない音のサイレンが公園中に鳴り響いた。
くつろいでいた国民たちの顔は皆強張り、
これから訪れる何かに備えているようだった。
私も何事かと思い公園を見渡すと、
どこからともなく大量のロボットが現れだしたのだ。
ロボットたちはそれぞれ国民一人一人の目の前に立つと、
何か質問をしているとようだった。
そして、私のところにも一台訪れ、機械的な音声で話しかけてきた。
「タイ王国の首都はどこですか。」
急になんなんだ。と私は戸惑ったがとりあえず答えた。
「バンコク、か。」
「正解です。では、14世紀イタリアで始まった、
古典復興の文化運動をフランス語で何と言う?」
「ルネサンス運動だな。」
「正解です。引き続き頑張ってください。」
そう言うとロボットは去っていった。
私の他のロボットたちも、同じくぞろぞろと去っていくのが見えた。
「なるほど、国全体で学力の抜き打ちテストが行われていると言うことか。」
確かに、公共の場で学のなさを晒すのは恥ずかしいことだ。
みなこのテストを乗り切るためにこまめに勉強することが習慣づいているようだ。
その後も、私は何度かロボットたちに遭遇し、
その度に簡単なクイズに正解していった。
そうしているうちに、私の中に1つの疑問が浮かんだ。
「もし答えを間違えたらどうなるのだろう。」
一度浮かんだ疑念と好奇心を抑えきれなくなった私は、
ロボットからの問いを外してみた。
「不正解です。勉強不足は国民の怠慢です。補講措置に移行します。」
するとロボットから強い電気ショックが放たれ、私は気を失ってしまった。
次に私が目を覚ますと、そこはどこかの施設のようだった。
「やぁ、新入りが起きたぞ。」
「最近また増えてきたな、どんなやつだ。」
ぞろぞろと周りに人が集まってきた。私は問いかける。
「ここはどこなのです。」
「政府が管理する補講施設だ。
自己研鑽をサボったやつはここに入れられて、
一定レベルの知性が身につくまで社会には戻れないのさ。」
「この国で暮らす奴はどいつもこいつも勤勉が板についちまってな、
こうして俺らみたいな怠け者は施設行きだ。」
「でもよ、毎日施設の外で抜き打ち試験に怯えるくらいなら、
こうしてここで怠け者の烙印を押されていた方がある意味気楽ってなもんだぜ…。」




