交番前での出来事
「つけられている感覚、ですか。」
「はい、なんだかここ数日ずっと胸騒ぎがしていまして。」
「とりあえず詳しくお聞かせ願いますか。」
小さな街の交番で警官は駆け込んできた男の話を聞く。
「先週あたりから、誰かにつけられていると思うんです。
とくに日中、外を歩いていると後ろに気配を感じるのですが、
振り返ると誰もいないのです。」
「こちらが気づくと向こうは物陰に隠れる、と。」
「いえ、私も最初はそう思っていたのですが、広い公園や空き地など、
隠れる場所がないようなところでもそう感じることがあるのです。」
警官は怪訝な顔をした。
「はぁ、では逆に今はどうでしょう。
誰かに狙われていると言った感じはありますか。」
「いえ。今は特に。部屋の中ではなんともないのです。」
「なるほど。外でのみ狙われている感じがすると。」
「なおかつ日中で、ですね。」
男が付け加えた。
警官は少し考えると、男に提案した。
「2人でいったん一緒に交番の外に出てみましょう。」
「はぁ、かまいませんが。」
2人は太陽の照りつける交番の前に立った。
「どうです、誰かにつけられている感じは。」
「は、はい。確かに誰かが私をじっとみている気がします。」
「はぁ、やはりそうですよね。」
警官は呆れてため息をつき男の足元を指差した。
「あなたの後をつけているのって、これじゃないんですかね。」
そこには強い太陽の光によって濃く浮き彫りになった男の影が。
「ちょっと、あなたは僕を馬鹿にしているんですか、良い加減にしてくださいよ。
真面目に取り合ってくれないならもう結構です。」
そう怒った男は背を向け帰ろうとすると、男の影はどんどん大きくなり、
背の高い人の形になると地面から起き上がり、影の主人である男を丸々呑み込んでしまった。
警官が驚いて腰を抜かしている間に、その影はどんどん姿を変え、
最後には黒いローブをかぶった死神に変身した。
「よく俺のことが見破れたな。
実行のその時まで気づかれない、良い隠れ場所を見つけたと思ったんだがな。
まあいい、俺は次の魂を回収しにいくとするか。じゃ、あばよ。」
そうして死神が消えていなくなると警官は一人取り残され、
今見た光景を誰かに相談するべきかどうか考え込んでしまった。