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天気のセールスマン

その小さな村ではいつも雨が降っていた。

ある時、大きな雨雲が現れ、村をすっぽり覆ってしまったのだ。

貧乏なその村では、人々は暗い空の下静かに慎ましく暮らすほかなかったが、

ある日村の山に大きな鉱脈が見つかった。

日々掘り起こされる宝石の数々は村人の生活水準を引き上げ、潤した。

だが依然として雨は降り続ける一方で、

輝かしい村の成功と裏腹にどこか気持ちのすっきりしない日々が続いた。


「今日も降ってるな、雨。」

目の前に広がる豪華な料理たちをよそに、男の窓の外を見ながら言った。

「食事の時くらい外の天気は忘れましょう、ほら。」

「しかしこうも暗い天気ばかりだと、うんざりするな。」

「仕方ないですよ、この村に残ったおかげで今の豊かな生活があるわけですから。」

「ううん、それもそうなんだがなぁ。」

突如、暗い沈黙を切り裂くようにチャイムの音が食卓に鳴り響く。

「おや、こんな雨の中来客かな。」

ドアを開けると、玄関の外には傘をさしたにこやかなセールスマンが立っていた。


「突然すみません、私、天気のセールスマンでして。」

「天気?どういうことだ?」

「我が社はこのたび最新鋭の窓型スクリーンを開発しまして、そちらをご紹介に参ったわけです。」

「なるほど、詳しく聞かせてくれないか。」

「はい、こちらのスクリーンは肉眼に迫るほどの高精細なディスプレイとなっておりまして、そのリアルさは窓に近づいてもさながら本物の景色と区別がつかないほどです。

考えてみてください、この窓を家中に取り付ければ朝は太陽の光で気持ちよく目覚められるわけです。

さらに、夕方になると真っ赤な美しい夕日の光が家中に差し込み、夜には気持ちよく月明かりを浴びながら1日を終えることができるわけです。

さらに内臓のスピーカーからはリラックスできる自然の効果音が流れ、常に穏やかな気持ちで…」

「もうそのへんでかまわない、商品が素晴らしいのはわかった。

こんなにも暗い空ばかり見せられてるとしまいにはどうにかなりそうだ。

久しぶりに太陽の光を味わえるだけでも非常に魅力的な商品だ。

幸い金はある、ぜひ試しに1セット買わせてくれ。」

「ありがとうございます。決して後悔はさせません。それでは早速配送のお日にちですが…」

その後、男の家には窓型のスクリーンが導入された。

セールスマンの言った通り、その窓の効果は素晴らしく、連日映し出される鮮やかな外の景色は家の中にいる男の気持ちをみるみる晴れやかにした。

噂を聞いた他の村人たちも次々にこれに飛びつき、スクリーンは飛ぶように売れた。


本社の一室で、積み上げられた膨大な数の発注書を前に二人のセールスマンは話す。

「いやぁ、ここまで売れるとは思いませんでしたね」

「そうか?俺は当然の結果だと思うがな。考えてみろよ、あそこまでじめじめとした場所にいたら家の中でくらい気分転換したくなるさ。」

「それもそうですね。しかし、うちの会社の上層部もよく考えたものですよ。

あらかじめ儲かりそうな場所に目星をつけて人工的に雨雲を発生させて、そこにあたかも救世主の如く現れ自社の商品を売りに行くわけですから。」

「そうだな。」

「でもスクリーンを売り尽くした後はどうするつもりでしょうかね。」

「どうだろうな、今度はそのスクリーンの天気も悪くして、次はどこでも好きな世界の映像が楽しめるメガネ型の装置でも作って売るんじゃないかな。そうすればみんなまた飛びつくだろう。

まぁ、なんにせよそれは上の考えることだ。俺たちは言われた商品を売りに行くだけだからな。」

「そうですね、何にせよ我々の数歩先まで上の連中は考えているんでしょうね。」

二人は土砂降りの窓の外を見ながら話す。

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