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八話.死闘、始まる

 

“木漏れないの森”の再出発(リスポーン)地点にナナヲが復活すると、一応はプレイヤー補助妖精であるアスセナも、一応は主人であるナナヲに釣られて現れる。


『どうします~? これから~』

「んー、なたママたちが迎えに来てくれるみたいだから、ステータスの確認でもしようかな」

『あそこから十分以上はかかりますよ~。確認だけで時間つぶれます~?』

「それも大丈夫。可愛い、可愛いスキルの実験台がいるからね」

『──~~!? まだ罰があるんですか~!?』


 妖精の問いに、カナタからのチャットを読んだナナヲが答える。もちろん、お決まりの追いかけっこもその後にして。



『~~っぐ、ひどい目にあいました……』


 涙目で見上げてくる妖精を無視して、ナナヲはステータスの画面を開く。




◇ステータス◇


[種族]吸血鬼

[名前]ナナヲ Lv14


[スキル]SP:118


《吸血鬼Lv2》《吸血Lv3》《暗視Lv3》

《隠密Lv3》《植物魔法Lv2》《魔力感知Lv2》《気配感知Lv1》

《必死の一撃》


[装備]

 ………………

 …………

 ……



[称号]


『格上狩り』『番狂わせ』『啜る者』


 ◇ ◇




 ナナヲの黒く美しい瞳が、自身の成長を表すそれらの文字と数字を見つめる。鬼ごっこの最中に取得したスキルや獲得したスキルは、普通のプレイにしても役立つものばかりだ。そういった意味では、やはりあの鬼ごっこに参加していたプレイヤーたちに感謝はせずとも恨む気にもなれない。……そもそもが勘違いであるし、その原因はんにんにも目星はついている。


(いつか報復しよう)


 ナナヲは決意する。再びあのPKパーティーと遭ったときは、こちらが鬼として地獄の果てまで追いかけると。あわよくばそのパーティーにいたリーダーと槍使いにあんなことやこんなことをしてやろうと。


 そしてふと、ナナヲはあるスキルに目を止める。


「あと、一レベか……」 

『なにがですか~?』

「拘束プレイの新たな領域まで」

『……?』

「覚えてないの? 《血操魔法》だよ、アスセナが言ったじゃん、吸血鬼のスキルがLv3になったら手に入るって」

『~~っ!!』


(そうでした~! あの時のわたし何やってるんですか~!? ナナヲさんが血操魔法なんて手にしたら……)


 アスセナの脳裏に浮かぶのは少しばかり前の自分の失態。植物魔法でぐるぐる巻きにされている彼女にはわかる。ナナヲが血操魔法を持つと、プレイヤー・ノンプレイキャラクター問わず、分類学的に「雌」となる者たちの貞操が危ない! 

 植物魔法は全体的に繊細な操作に向かない。しかし血操魔法は文字通り血液を操る魔法。術者のイメージ次第では…………。


 妖精は震える。自分の罪とその果てに生まれるであろう女たちの悪夢。どうすればいい──!? アスセナの思考はそれに囚われ、気づくことはできなかった。


 ──そもそも吸血鬼を選んだのはナナヲであって、プレイヤー補助妖精にできることは何もなかった。妖精たちは主人の選ぶことに関して口を出しすぎることは禁じられているので、できることはアドバイスとお手伝いと話し相手ぐらい。アスセナに罪はないのだ。



 ありもしない罪に責任を感じて悩むアスセナを、ナナヲは不思議そうに眺めていた。



  ◇



 ──ズンッと森の大地が揺れた。


 目の前にカナタの体が弾き飛ばされてくる。


 森の木々を押し倒して現れた巨体。


 カナタを受け止めたナナヲは後退る。


 妖精が何か叫ぶ。


 巨体が吼える。


 ナナヲも負けじと叫び返す。


 空気が揺れる。



 ──宵闇が広がる世界で、ナナヲの死闘が始まった。



  ◇



 男は駆ける。左手に一振りの刀を携えて。

 視界の端に映る巨体を、いつの間に抜いたのか、漆黒の刀が両断する。


 ──駆ける。斬る。駆ける。斬る。駆ける。斬る。駆ける。斬る………。


 沈む夕陽と伴に現れた巨体。その脅威を排除するために、男は駆ける。


 男の通った道には、血の旋風が吹き荒れていた。



  ◇



「ガゥアアアアアアアォォ!!!」


 継ぎ接ぎだらけの巨大な獣が前肢を振る。


 それだけで周囲の木々が薙ぎ倒され、カナタを抱えて躱したナナヲを吹き飛ばす。


「──ぐっ」


 地面を転がり、木々に体をぶつけ、身体中が軋み、悲鳴を上げて。それでも尚、ナナヲは巨体を睨む。


 狼のようでいて、熊のような四肢を合わせ持ち、黒く薄汚れた毛は身体中の継ぎ接いだ跡に沿って禿げている。よく見ると、継ぎ接ぎの縫い目は所々赤く爛れ、その獣の異質さを際立て、見る者に不快感を与える。


「ん、あれ……?」

「起きた、なたママ?」

「起きたけど、なたママって……」

「? なたママはなたママだよ。まあ、ママっていうより今はお姫様だけどね」

「ふぇ!?」


 ナナヲにお姫様抱っこされていることに気づき、カナタは赤面する。そして、なぜこうなったのかを考えて。


『来るよ、ナナヲ!』

「了解!」


 カナタが状況を把握するために周囲を見て、その獣に目を向けると同時に、その巨体が迫る。


「ふんっ! ごめん、なたママ!」

「へ……? ぇ?」


 一瞬の浮遊感に事態の変化を飲み込めず、気づくとカナタは尻餅を突いていた。ナナヲが獣の突進をぎりぎりまで引き付け、方向転換の間に合わない距離まで待ち、カナタを強く押したのだ。

 そう理解した瞬間に、カナタは叫ぶ。

 自分を助けるためにナナヲが犠牲になったのかもしれない。

 そんなこと、許せるわけがない。ゲームの中とはいえ、今のを含めれば今日だけで二度も命を救われたのだ。


 ──ナナヲには、死んで欲しくない!


「ナナヲさん!」

『たぶん大丈夫ですよ~』

「アスセナちゃん!? 大丈夫って……」

『見てればわかりますよ~、それより、早く逃げましょうよ~』


 どこまでも自分の安全を優先するその姿に、カナタも少し呆れて冷静さを取り戻す。



:すげぇ、吸血姫!

:オアメママを守りつつ回避、ついでにヘイトも買って注意を自分に向けさせる、と

:どこのアクション映画のワンシーン?

:あ、破けたドレスから覗く白い太ももが

:あれは……、芸術だ



 砂ぼこりが晴れ、探していた姿を見つけて安堵する。……カナタの視線の先に獣に向かって、あっかんべーをするナナヲの姿があった。


 カナタを突き飛ばし、その反動でバック転二回。獣の突進を躱し、降り立った倒木の上であっかんべー。これがナナヲのやったことであろうか。


 カナタの視聴者は歓声を上げ、カナタは安堵のため息を吐く。ナナヲ本人はカナタを弾き飛ばした獣への怒りが止まぬようで、お尻ぺんぺんまで披露する。


「グオォォォォォゥンッッ!!!」


 その行為の意味を知らずとも、雰囲気でわかるのか。獣はナナヲに対する怒りを強くする。


「鬼さんこちら、手のなる方へ」

「グラアアァァァァァァッ!!!」


 日は落ちたばかり、死闘はまだ始まってすらいなかった。



「ナナヲさんって、意外と子どもっぽいんだね」

『ですね~、だってまだ十さん……』

『アスセナ、個人情報っ!』

『はっ!?』


 アスセナもまだまだ新人、先輩であるカナタの妖精から叱咤の声が飛ぶ。


(あれ? いつの間にナビィがあっちに行ったんだろう)


 ナナヲの隣にいる妖精を見て、カナタは首をかしげた。


 ナナヲは十三歳です。早生まれなので。



  ◇



 スキルの取得、獲得について。


 取得:スキルポイントを払ってスキルを手に入れること。

    ナナヲの場合:《魔力感知》



 獲得:条件達成や熟練度を一定以上稼いでスキルを手に入れること。

    ナナヲの場合:《必死の一撃》《隠密》



  ◇



 スキルについて


 ・《隠密》:気配を薄くするスキル

      :発動中、所持者によって生まれる音や振動、匂いなどが小さくなる。


 最下位スキルなので効果は薄い。レベルが上がり、進化すると?



 ・《魔力感知》:魔力を感知するスキル。

        :発動すると、周囲の魔力、及び魔素を感じとる。


 最下位スキルなので効果範囲と精度は低め。魔法を使うときの魔力のコントロールがしやすくなる。魔法を使わないのならいらないかも。進化したスキルは魔法発動の機転や細かい魔力の流れを見れるので便利。尚、慣れていなかったり、使い過ぎたりすると酔う。



 ・《気配感知》:気配を感知するスキル。

        :発動すると、生き物の気配を感じとりやすくなる。


 最下位スキルなので効果範囲と精度は薄い。持ってても役に立たない。スキルに頼らず、自分の直感や感覚を信じましょう。



  ◇



 称号について。


 『格上狩り』&『番狂わせ』

  :自分より一定以上強い敵を倒した者に与えられる称号。

  :自分よりレベルの高い敵に対して与えるダメージが増加する。


 持ってて損はない。ただし、自身のレベルの5倍、10倍上の敵を倒さなければいけないので、序盤以外では滅多に手に入らない。



 『啜る者』

  :一定回数、生き物の血肉を飲み食いした者に与えられる称号。

  :血肉を啜ることで回復やバフが掛かるようになる。


 ナナヲの場合、《吸血》が更に強化されます。

 吸血鬼やグールじゃないのにこの称号持ってる人がいたらヤバいヤツです。回れ右して逃げましょう。


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