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一話.アバター作成


 ──ガブッ。


「……ん、……っ!」


 身じろぎする相手を押さえて恍惚とした表情で隻眼の少女は血を啜る。大木に押し付けられた女性の、必死の抵抗も弱まり……、やがて脱力する。


 女性の体を支えて、少女は女性が死んだことも構わずに尚も血を吸い続ける。その様は、鬼。まさに吸血鬼。


 月を背に、吸血鬼の晩餐は続く。──優雅で、どこか淫靡に。



   ◇



 白く無機質な部屋で、少女──七緒ななおは目を開いた。



 ──仮想現実バーチャルリアリティ完全没入技術・フルダイブシステムが確立されてから五年。人体への影響の調査や技術の向上等にその時間を費やし、ついに世界初のフルダイブシステムを活用したゲームが登場した。

 開発はまさに世界規模。人工知能の第一人者からアバターデザイナーの麒麟児、果ては世界中から注目されている作家と数々の大ヒット作を打ち出してきた天才ゲームシナリオライターのタッグがシナリオ担当ときた。世界中のゲーマーから注目され、日本だけでも倍率五〇〇〇を超えたそのゲームは、本日の正午を以て正式サービス開始となる。


 ゲームの名は『F』。どんな意味が込められているのかは誰も知らない。ただ、それは世界最高の名を誇り、リリースの時を待っていた。



 正午まで一時間。アバター作成のために、七緒はゲームを開いていた。


「……ふむふむ、なるほど。性別の変更はできないし、顔もリアルをベースにするのね」

『はい、そうです~!』

「モンスターにもなれるのに、性別の変更はダメなの?」

『実はですね~……』


 七緒の目の前でくるくる飛んでいるプレイヤー補助妖精によると、『性別を偽って異性に近づきセクハラする』という行為への対策のようだ。人として最低の行いであるうえに、最悪のケースだとネカマがネカマの胸や尻を触るということもありえる。その場合、最後まで互いがネカマだと気づかなければいいが、知ってしまった時、当人たちの心に深い傷を残すだろう。


「そういうことね。私には関係ないか」

『ですね~』

「それじゃ、妖精さん。アバター作るね」


 そう言った七緒の前にブォンとウィンドウが現れる。


『ではでは、種族をお選び下さい~!』

「ん、吸血鬼で」

『ん? んん~? もう一度お聞きしても~?』

「吸血鬼」

『えー! あの三大不遇種族を選ぶんですか~!? もしかして、縛りプレイ大好きのマゾさん~!?』

「別の意味での縛りプレイは大好きかな」

『変態さんだ~!』

「妖精さん、かわいいね。ちょっとこっちにおいで」

『い~や~で~す~! わたしの貞操が~!!』



 しばらくの間、二人のおいかけっこは続いた。その後、七緒に捕まって観念したのか、妖精は七緒の膝にちょこんと座っている。


「あー、おもしろかった」

『おもしろくないです~! ひどかったです~!』

「ごめんね、次は優しくするから」


 じたばたする妖精を撫でながら、七緒は言う。


「ほんとはさ、アラクネと迷ったんだよね」

『なんでまた不遇種族を~?』

「だって、アラクネの糸で縛れるじゃん」

『誰をとはもう言わないです~』


 アバター製作のすべての行程を終えたので、サービス開始まで待っているのだ。


「ステータス」


 七緒の声に反応して、一つのウィンドウが開かれる。




◇ステータス◇


[種族]吸血鬼

[名前]ナナヲ Lv0


[スキル]SP:100


《吸血鬼Lv1》《吸血Lv1》《暗視Lv1》


 ・《吸血鬼》:種族、吸血鬼に与えられしスキル。

       :スキル《吸血》《暗視》《血操魔法》《鮮血魔法》の効果上昇。

       :火、光、聖、そして回復が弱点属性となる。

       :日の光に当たると状態《火傷》《呪い》《崩壊》《発火》になる。


 ・《吸血》:血を吸いとるスキル。

      :行動《吸血》によってえる回復量、及び相手に与えるダメージが増加する。また、一定量の吸血でバフがかかる。


 ・《暗視》:暗闇でも昼間と同じように辺りを見ることができるスキル。


[装備]


 頭部:なし

 胴体:初心者の黒ドレス

 右腕:初心者の黒ドレス

 左腕:初心者の黒ドレス

 腰 :初心者の黒ドレス

 脚部:初心者の黒ドレス、初心者の黒ソックス、初心者の布靴

 武器:初心者の短剣、初心者の短杖

 装飾:初心者の首飾り


[称号]


 なし


 ◇ ◇




 ステータスを見ればわかるが、このゲーム『F』はスキル制だ。筋力値や俊敏値等の概念は無い。強いて言うならば、装備がそれらの代わりを担っている。また、HPヒットポイントMPマジックポイントAPアーツポイント等も存在してはいるが、明確な数値としてではなく緑、青、黄色の三本のバーで表されるに留まっている。



 自身のステータスを満足気に眺めていたナナヲは、自分がし忘れていることに気づいた。


「あ、スキル取ってないじゃん」

『そうですね~。でも、ここで無理に取得せずにゲームスタートしてから、足りないと感じたものを埋めるのもいいのでは~?』

「んー、取るやつは決めてたからなー」

『何です~?』

「血操魔法。レベル上げると束縛系のを覚えられるみたいだからね」

『あ、それなら取らないほうがいいですよ~』


 ナナヲの訝しげな視線に、妖精は続ける。


『スキル《吸血鬼》をレベル3にすれば自動取得できますからね~』

「なるほど。そしたら、他のがいっか」


 取得できるスキル一覧を呼び出して、ナナヲは何かいいものはないかと探し始める。

 そしてふと、指を止める。


『植物魔法ですか~?』


 頷くナナヲの視線を追い、妖精は続ける。


『レベル3~? ああ、《樹縛じゅばく》ですね~』


 ──《植物魔法Lv3:樹縛》。植物魔法のレベルを3にすることで覚えられる技の一つ。樹の根で相手を縛り拘束するというものだ。それ以外にも、レベル2では蔦で相手を縛る魔法が、レベル5では麻痺毒をばらまく魔法を取得できる。


 つまり、


「……私好みの魔法」


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