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プロローグ③:光喰む縮退の星 -Blackhole_Eclipse-



 ──そこは、殺風景な大広間だった。窓から入ってくる朱い月明かりに照らされた玉座の間には机や椅子など無駄なものは一切なく、部屋の奥に玉座だけがポツンと置いてあった。


 そして、その玉座には一人の老人が座っていた。


 黒と金を基調(きちょう)とした貴族が(まと)うような気品溢れる服装、長く伸びた白髪(しらが)、蓄えられて伸びた口髭(くちひげ)、老いて()せ細った手足。一見、ただの年老いた貴族階級の老夫(ろうふ)にしか見えない。


 唯一、違うとすれば──角があることだろう。額から生え『く』の字を描きながら後頭部にまで伸びているその大きな角は、その老人が人間ではなく()()()()()()()()()()()()如実(にょじつ)に物語っていた。


「お前が──魔王カティスか?」


 玉座に座る老人に勇者ウロナは問う。何時もの軽薄(けいはく)な態度ではなく、慎重(しんちょう)に、神妙(しんみょう)に、真剣(しんけん)に。


 彼のそんな普段とは違う素行に、騎士リタと賢者ホロア、そしてキィーラの三人も息を呑み、武器を構えて玉座の老人を見据える。


「────いかにも」


 玉座に座っていた老人は、静かに(まぶた)をひらき──蛇の(ごと)き黄金の瞳で、四人を凝視(ぎょうし)しながら──。


()が──魔王、カティスだ」


 ──そう、名乗った。


 玉座の老人──魔王カティスが名乗った時、玉座の間の重い空気がより一層重くのしかかってくるのを四人は感じた。


 老いて(なお)、場を押し潰すような重圧を放つこの老人が、魔王カティスであることは最早(もはや)明確な事実。


 勇者ウロナは重圧を振り払うかのように背中の聖剣を振り抜くと、魔王カティスの金色(こんじき)の瞳をしっかりと見据えた。


「俺は──お前を倒すために女神から加護を──」

「あー、待て待て。その前にちょっと時間を私にくれんか?」

「────はぁっ!?」


 勇者ウロナが(いきお)いよく名乗ろうとしている最中(さなか)、魔王カティスは右手を前に(かざ)して『待って』と言わんばかりの仕草をしてそれを(さえぎ)ってしまった。


「……何だよ急に。何かあるのか?」

「ちょっと──な。すぐに終わらせるから待ってくれ」


 全員がきょとんとした顔をしている中、魔王カティスは勇者ウロナたちの(かたわ)らで待機していたレトワイスの方を見る。


「…………レトワイス、此方へ来なさい」

「仰せのままに──我が主」


 そう言うと、レトワイスは玉座の前へと進むと魔王カティスに一礼して(かしず)く。魔王カティスは一度大きく咳払いすると、目の前で傅いているレトワイスに大きく眼を見開きながら──。


「レトワイス、このアホたれ!! 貴様ぁ、儂の『朱月の空ヴァーミリオン・エンド』の秘密をペラペラと喋りおって!!」


 ──怒った。凄く。


「「「「えーーーーっ、こんな大事な時にお説教!!??」」」」


 向こうの方からそんな驚きの声があがったが、魔王カティスはそんなことお構い無しにお喋りな従者へのお説教を続けていた。


「まさか──聞き耳を立てておられたのですか、我が主?」

「当たり前だ!! お前はいつもいつも儂の事をペラペラペラペラと話おって」

「いえ──我が主、あれですアレ。久々に人間とお(しゃべ)りできる機会でしたので、折角だから我が主の凄ーいエピソードでも紹介しようかなーっと」

「あれは! 完全に! 儂の! ただのお茶目さんエピソードだったではないかー!!」

「それも我が主の魅力かなーっと思った次第であります、(わたくし)は」

「儂は、“恐ろしい”と思われたいの! あやつら、完全に儂のことをお茶目さんだと思っておったではないか」


 バンバンバンッ──バンバンバンッ──バンバンバンバンバンバンバンッ──!! 玉座の肘掛(ひじか)けが小気味よく叩かれている。


 レトワイスに文句を言いながらぷんぷんと怒っている魔王カティスに拍子抜けしたのか、騎士リタと賢者ホロアは思わず──。


「…………確かにお茶目さんね」

「…………そうじゃな」


 ──と、小さく呟いてしまった。それを見ていた魔王カティスは二人を勢いよく指差すと──。


「ほらーー!! めっちゃ思ってるじゃん!!」


 ──叫んだ。めっちゃ。


「後世に『魔王カティスは実はお茶目さんでした。』とか残されたら、()──恥ずかしくて死んでしまうぞ!?」

「そうですね──ぷぷっ、我が主には──ふっ、に、似つかわしくありませんですね──ぷぷっ」

「〜〜〜〜っ!! この性悪(しょうわる)人形め!! もういい、後ろに下がっていろ! 俺がいいと言うまで何もしゃ・べ・る・な・よ、いいな!?」

「ぷぷっ──承知致しました我が主」


 吹き出しそうな笑いを(こら)えながら立ち上がると、レトワイスは玉座の間の隅の方に()けていった。


「ところで我が主、先程から爺キャラが抜けておりますよー」

「────はよいけー!!」


 最後の最後のまで主を茶化(ちゃか)しながら。


「………………。」

「………………。」

「………………。」

「………………。」

「………………。」


 気まずい、微妙な()()が流れている。(しばら)く真顔で見つめ合った両者だったが、コホンと咳払いをすると魔王カティスは神妙な面持(おもも)ちで勇者ウロナたちを見つめ直した。


「さて──用は済んだ。では、本題に入ろうか」


((((普通に続行しだした!?))))


 ──と、全員が心の中でツッコんだのも(つか)の間、いつの間にか感じなくなっていた凄まじい重圧が再び四人にのしかかる。


「──っ! 休憩時間(ブレイクタイム)は終わりってか。じゃあ、仕切り直させてもらおうじゃないか!」


 のしかかる重圧を前に不敵に笑みを浮かべると、勇者ウロナは再び聖剣を構える。


「俺は、お前を倒すために女神から──」

「あぁ、よいよい──言わずとも分かるぞ貴様たちのことなぞ。魔王九九九式──『二次元の閲覧者(オープン・ステータス)』」


 勇者ウロナの言葉を遮った魔王カティスが謎の文言(もんごん)を唱えると──魔王カティスの金色(こんじき)(まなこ)は青白く輝き始めた。


 そして、次に魔王カティスが放った言葉に──勇者ウロナたちは言葉を失ってしまう。


「──ウロナ=キリアリア。聖都オパストス生まれの17歳。女神シウナウスから『祝福(ギフト)』と『技能(スキル)』を与えられた──預言の勇者。どれどれ、保有祝福(ギフト)は……、女神の加護、女神の叡智、女神の幸運、神々の膂力(りょりょく)、無限の魔力──ほか数種。保有技能(スキル)は……詠唱完全破棄、武器技術最高熟練、道具作製、結界作製、全状態異常無効、強制即死付与、完全催眠、技能祝福強制解除、情報秘匿、ほう──対魔王特効ねえ。随分な盛られっぷりではないか勇者ウロナよ。しかしこれでは……勇者というよりはインチキ(まみ)れの()()()()()()()()


 勇者ウロナは絶句した。ただ、青い目で観ただけで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それは他の三人も同様であった。


「──リタ=サンライズ。王都アルヴァスク生まれの16歳。平民ながら王立騎士団に抜擢(ばってき)された天才騎士。王都の貴族サンクティオーヌ家への望んでいない(とつ)ぎ話をウロナに邪魔だてされて、以降は素行に問題のある勇者様の()()()()()として彼に忠誠(ちゅうせい)を誓う……か。なるほどなるほど、中々に物好きな女という訳だな。保有技能(スキル)は、どれどれ……ほう、これは珍しい──『太陽』属性の魔法持ちとはな、いやさ中々に興味深い」


「次は──ホロア=ジズ。エルフの隠れ里ヒリアイネ生まれのせん……あー、ここは飛ばしておこう。族長アーリアの妹弟子だったがエルフの戒律(かいりつ)に嫌気が差して出奔(しゅっぽん)、王都の王立学院で魔法学の講師として教鞭(きょうべん)()っていた折りに勇者ウロナと出会い、彼の魔法の師として共に行動するようになる──か」


「最後に──キィーラ。雪原の集落タルヴィ生まれの10才。狐系亜人種(あじんしゅ)でも更に珍しい()()()か。そのせいで盗賊団に捕まり奴隷として貴族に買われそうになった所を偶々(たまたま)居合わせた勇者様に()()()()という訳か。パーティ内での役割は斥候……(てい)の良い、いざという時の()()()だな、可哀想(かわいそう)に」


 ただ一瞥(いちべつ)しただけで、自分たちのあらゆる個人情報(パーソナル)が魔王カティスに筒抜けにされたことに一同は言葉を失う。


「な──何をした!? 言え!! 一体貴様は何をしたんだ!?」


 勇者ウロナは思わず激昂(げっこう)する。何か攻撃を仕掛けられたのではないか、魔王カティスの行った行為に言いようのない不安を感じたからである。


「……気になるか?」


 魔王カティスはくすくすと笑うと、不気味な笑みを勇者ウロナに向ける。


 挑発(ちょうはつ)的で、嘲笑(ちょうしょう)を含んだ、獲物(えもの)を捉えたような蛇のような視線が狼狽(うろた)える勇者ウロナの精神に深く(するど)く突き刺さる。


「なんてことはない。私が使う999の技術(スキル)一端(いったん)にすぎないさ。何なら──他にも幾つかの見せてやろうか?」


 そう言うと──魔王カティスは右手を自らの首に添えてトントンと叩いた。


「そら──その女神から与えられた()()()()()()()()()()()聖剣で、この首級(しゅきゅう)を斬り落ちしてみろ。大サービスだぞ」

「上等だ……!! 今すぐその首叩き斬ってやる!!」


 魔王カティスの見え透いた挑発に乗った勇者ウロナは勢いよく玉座へと駆け抜ける。


 奴──魔王カティスは()()()()()()()()()──勇者ウロナの“切り札(チート)”の一つ『対魔王特効(カオス・ブレイカー)』を見抜いた上で挑発した。油断をしているに違いない筈だ。


 自分ならその程度の効力など無効化出来ると、慢心(まんしん)している。


 けれど、この聖剣には女神の祝福が込められている。()()()()()()()()()()()()()()ための力が。女神が与えてくれたこの力なら──魔王カティスに届く筈だ。


 そう踏んで、勇者ウロナは玉座に胡座(あぐら)をかく魔王に剣を向ける。


 そして──、


 ──ザンッッッ!!


 勇者ウロナが思いっ切り横に振り抜いた聖剣は──玉座ごと魔王カティスの首を勢いよく斬り飛ばした。


 衝撃(しょうげき)でくるくると数秒間、(ちゅう)を舞った玉座の断片(だんぺん)と魔王カティスの頭は鈍い音を鳴らしながら落下して、魔王カティスの頭はころころと勇者ウロナの足元に力無く転がっていった。


 それを見ていた騎士リタたちは息を呑んで勇者ウロナに視線を送る。


「や、やったのか? ウロナ、魔王カティスを倒したのか!?」


 騎士リタの問いなどまるで耳に届いていないとばかりに、勇者ウロナは(うつむ)いたまま頭の中で今起きた出来事を反芻(はんすう)する。


 ──大丈夫、殺した。殺した感触は確かにあった。偽物でも(あや)しい幻覚でもない。倒した、殺した、勝ったんだ──。そう確信すると、勇者ウロナは(たま)らず高笑いをし始める。


「フ……フフフ…………フハハハハハ!!! どうだ! ざまあみろこの雑魚魔王!! テメェみたいな奴にこの俺が負ける訳ねーだろ!!」


 玉座の間に勇者ウロナの高笑いと魔王カティスを罵倒する声が響き渡る。


 今までの彼からは考えられないその豹変(ひょうへん)振りに騎士リタとキィーラは言葉を失い、ただただ──勝利の(えつ)に浸る彼を見つめていたが、ただ一人賢者ホロアだけは()()()()()()()()()


 玉座の間の片隅でじっと佇んでいた魔導人形(オートマタ)のレトワイスだ。


 賢者ホロアは彼女の様子を(いぶか)しんだ。


 何故──主君が殺されたのに彼女は何もしないのか。


 何故──主君が殺されたのに、彼女は()()()()()()()


 その答えは、すぐに分かることとなる──。


「いけませんよ、我が主。抜か喜びをさせるだなんて、なんてお人が悪いのでしょうか?」


 そう──レトワイスが(ささや)くと、勇者ウロナの足元に転がっていた魔王カティスの頭から不気味な笑い声が()れ始めた。


 それに気付いてしまった勇者ウロナが恐る恐る魔王カティスの首に視線をやると──ぎょろり、と大きく見開かれた魔王カティスの(まなこ)が彼を凝視(ぎょうし)しており、不気味に、邪悪に、勇者ウロナを嘲笑(あざわら)っていた。


 次の瞬間──勇者ウロナたちの視界に強烈なノイズが入る。その不快感に四人は思わず(まぶた)を覆ってしまう。痛みは無かったが、言いようのない気色の悪い感覚があった。


 それを必死に抑えながら勇者ウロナが再び瞼を開くと──何故か自分は玉座の間の入口に騎士リタたちと立ち尽くしており、そして玉座には──首を斬り落とされた(はず)の魔王カティスが()()()()()()()()()()()()()()()に座っていたのだった。


「魔王九九九式──『逆さに遡る時の砂ロールバック・アワーグラス』。……そう驚くな、ほんの少し()()()()()()()()()()()()()()()。ああ、私の権限で()()()記憶はそのままにしてあるがな」


 目の前で起きた不可解な出来事に顔を強張(こわば)らせる勇者ウロナたちに得意気な顔をしながら、そう魔王カティスは冗談を言うような(かろ)やかな口調で話す。


「時間を巻き戻した……だと……!? ふざけやがって……だったら、何度でも殺してやるよ!!」


 魔王カティスの挑発的(ちょうはつてき)な態度に怒りを(あらわ)にしながら、勇者ウロナは再び魔王に対して攻撃の姿勢を見せる。


 携えていた聖剣を背中のホルダーに納めると、勇者ウロナは両手を魔王カティスに向けて精一杯突き出した。


(首を撥ねて死なないなら……今度は()端微塵(ぱみじん)にしてやる!!)


 すると、勇者ウロナの両手に徐々にピンク色の光の球が風船の膨らみながら出現する。


(ほう……純粋な魔力を()()()()()()()()()()()()()()()()


 魔力──この世界に住む生命体なら誰もが大なり小なり持ち合わせている魔法の(みなもと)たる力。この魔力を燃料のように消費することによって、『魔法』と言う名の“奇跡”を実行する。


 但し、魔力とはあくまで魔法の行使に必要な“燃料(リソース)”であり、魔力そのものには特段の効力は存在していない。


 ──だが、この勇者ウロナは違った。


(ウロナの保有する魔力量は常人の比ではない。ただ、()()()()()()()を大砲のように撃ち出すだけであらゆる上級魔法すら凌駕(りょうが)しおる力がある……!!)


 事実、この魔王城ヴァルタイストの大きな鋼鉄の扉は、勇者ウロナが撃ち出した魔力の弾によって“結界魔法ごと”破壊されている。


 そんな勇者ウロナの魔力の光球が今や1メートル程の大きさにまで膨れ上がっている。


 その溢れんばかりの魔力エネルギーは玉座の間の空気を激しくかき乱し、屋内だというのにまるで嵐のただ中であるかのような暴風を吹き荒れさせる。


(アレを喰らってまともに原型を留めていた魔物はいない……でも……!)


 騎士リタは懸念(けねん)していた。勇者ウロナのあの魔力の砲撃は下手な魔法より遥かに強い。


 しかし、相手は魔王カティス──今しがた()()()()()()()()()()()()()()()相手だ。きっと、また何か面妖(めんよう)な術を行使してくるに違いない。


「ウロナ──私も合わせる。一緒に魔王カティスへ攻撃を……!!」


 勇者ウロナから少しだけ離れた位置についた騎士リタは剣を構えると、瞳を閉じて“魔法”の詠唱を始める。


「“祖は一振りの(けん) (そら)を照らす陽光の(ひらめ)き 我が(つるぎ)に宿りて、あらゆる闇を斬り(はら)え”──」


 詠唱とは“構築”──秘められた“奇跡”を紐解き、実体ある『魔法』へと昇華(しょうか)するための儀式。騎士リタの詠唱は──彼女の剣に、闇を祓う『魔法』と言う名の“奇跡”を(とも)す。


「“私は祈る これは命の(みなもと) 大地の息吹(いぶき) あらゆる災禍(さいか)(きよ)(ただ)して 一切の不浄、救いたまえ”──」


 賢者ホロアもまた勇者ウロナの横に立つと、静かに魔法の詠唱を始める。


 魔王カティスに向けて構えられた杖の先端──(きら)めく緑の魔石は淡く輝きながら、魔法陣を形成していく。


 勇者ウロナが撃つ出すは、あらゆるものを力で押し潰す魔力の大砲。


 騎士リタが振るうは、あらゆる闇を切り裂く太陽の(ごと)灼熱(しゃくねつ)一閃(いっせん)


 賢者ホロアが(はな)つは、全ての不浄を清める大地の息吹。


 狙うは魔王カティス──玉座で()()()()()()()勇者たちの敵。


 極限まで高められた三人の魔法は一気に集束──ほんの一瞬の静寂の後に、一斉に魔王カティスに向けて放たれる。


「“光系斬撃魔法”──『日輪よ、天を照らせ(サン・ライズ)』!!」

「“自然系最上位魔法”──『神々の息吹(ゴッド・ブレス)』!!」

「消えろ──!! 『魔砲:集束終光撃スターバースト・ブレイカー』!!」


 騎士リタの剣から振り出された輝く斬撃が、賢者ホロアの杖から放たれた暴風が、勇者ウロナから撃ち出された魔力の砲撃が──魔王カティスに襲いかかる。


(この魔法は──私の最大の必殺技。もし、これが効かなかったら──)

(儂らには、もうどうすることもできん……。だから頼む──効いてくれ……!!)


 騎士リタと賢者ホロアは祈った。魔王カティスがこの一撃で肉片の一片も残さず消滅してくれることを。


「魔王九九九式──『光喰む縮退の星ブラックホール・エクリプス』」


 だからこそ、騎士リタと賢者ホロアは絶望した。魔王カティスがそんな祈りを容易くへし折ったから。


 直撃までの僅かコンマ1秒──その刹那、魔王カティスが指し出した人差し指の先端に真っ黒な極小(ごくしょう)の球体が出現する。


 勇者ウロナたちが放った魔法は、その空間に空いた(あな)のような不気味な球体にみるみる内に吸い込まれていき、ほんの数秒の間に小さな球体に完全に呑み込まれてしまった。


「おぉ、こわいこわい。玉座の間を吹き飛ばしてしまう気か?」


 魔王カティスは人差し指の先に浮かぶ漆黒の球体に目を向けながらケラケラと笑っている。


 先程まで空間を覆い尽くすほどの規模だった魔法はあたかも()()()()()()()()()()()()かのように破壊の爪跡すら残せずに消失していた。


「そんな……うそじゃ……! ありえん……儂らの魔法を全部飲み干しおったのか……!?」


 賢者ホロアは目の前で起きた光景に顔を真っ青にしながら驚愕している。


 あの魔法には騎士リタと賢者ホロア、そして勇者ウロナの()()が込められていた。破壊規模は地球における戦術兵器にも匹敵する。


 それ程の魔法が目の前で忽然(こつぜん)と消失してしまったのだ。それも、ただ消失したのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()


 賢者ホロアはその事実に、これから起こり得るであろう事態に恐怖を感じ震え始める。


「その指先の球体に……さっき俺らが放った魔法が凝縮されているのか?」


 勇者ウロナも流石に事態を察したのか、魔王カティスに恐る恐る問い掛ける。


「その通りだ。これは()()()()()()でな、ここに貴様たちの魔法を吸い込んで圧縮しているのだ」


 それは想定できる中でも()()()()()。勇者ウロナたちの魔法は消えたのではなく、魔王カティスの指先に()()()()()()()()()()()


 それは──魔王カティスがその気なら、いつでも勇者ウロナたちにその魔法を()()()()()()()()()()()()()ことを意味していた。


「もしさっきの魔法を撃ち返されたら私たちは……!! ウロナ!!」

「分かってる!! こうなったら()()を使ってでも……!!」


 騎士リタの動揺に怒号(どごう)を飛ばすと、勇者ウロナは再び聖剣を構えて魔王カティスの反撃に備える。幸い、勇者ウロナには防御に長けた魔法がある。


 その魔法で(しの)げれば全滅は防げるだろう。最悪、この状況を打破できる『切り札(チート)』もある。勇者ウロナはそう心の中まだ余裕を持っていた。


「まさか()()を撃ち返されると思っているのか? 馬鹿を言うな……そんなことをすれば結局この玉座の間が損壊(そんかい)してしまうではないか」


 だからこそ、魔王カティスの行動は勇者ウロナたちの()()()()()を更に上回るのだった。


「撃ち返さないならどうするつもりなんだ!?」


 思いがけない言葉に勇者ウロナは語気(ごき)を荒げる。魔王カティスは指先にある黒い球体をまじまじと眺めてニヤついているだけ。


 ()()を撃ち返すだけで勇者たちに大打撃を与えることができるはずなのに、そうしないのはどう言うつもりなのか。


 勇者ウロナは聞かずにはいられなかった。


「知りたいか……? これをどうするつもりか?」


 勇者ウロナの(けわ)しい顔に満足げな表情を浮かべながら、魔王カティスは人差し指をくるくると回している。その指先で円を描くように回る黒い球体を勇者ウロナたちに見せびらかすように掲げると、魔王カティスはその黒い球体を指先から(はな)した。


 ゆっくりと──シャボン玉のように黒い球体は緩やかに落下していき、すぐに魔王カティスの(てのひら)に収まる。


「────っ!! まさか……!?」

「その………まさかさ」


 そう言って──魔王カティスは黒い球体を勢いよく()()()()()


 一瞬、魔王カティスの拳から(まばゆ)い閃光が漏れる。


 否──()()()()()()()()()()()()


 玉座の間に大きな変化がある訳でもなく、まるで何事も無かったかのように空間は静まり返っている。


「まさか……ご主人様たちの……魔法が凝縮されたあの球体を……に、握り潰したの……?」

「う、嘘だろ……!?」


 あの黒い球体は既に、地球における戦術兵器の破壊力にも匹敵する膨大な魔力を内包した爆弾と化していた。もし、あれが爆発していたら、周囲数百メートルを丸ごと更地にしていただろう。


 それ程の破壊力を有していたあの黒球を、魔王カティスはこともあろうに()()()()()()()()()()()


 そう──あの強大な爆発を(てのひら)で押さえつけたのだ。勇者ウロナですら衝撃を防ぐために“防御魔法”に頼らざるをえない程の破壊力を、魔王カティスはその老いた手だけで制してみせた。


「こうすれば……ほら、玉座には傷一つ入っていないだろう……?」


 魔王カティスはにこやかにそう言いながら握った拳を緩め、そこから勇者ウロナたちの込めた魔力の残滓(ざんし)が粉のように落ちていく。


 凄まじい衝撃を拳の中で発生させたにも関わらず魔王カティスの手には傷はおろか(すす)一つ付着していなかった。


 それはつまり──魔王カティスにとってあの衝撃まるで意味を成さない()()であったことを物語(ものがた)っていた。


 あの黒球を握り潰して無傷なら、最初の自分たちの魔法が直撃しても無傷であったに違いない。


 ただただ、()()()()()()()()()()()()()という理由だけで、わざわざ()()()()()()()をとったのだ。


 そんな、魔王カティスの常軌(じょうき)(いっ)した行動と、常識を遥かに逸脱(いつだつ)した能力(スペック)に、勇者ウロナ達は只々(ただただ)戦慄(せんりつ)驚愕(きょうがく)するしかなかった。


「…………んー、せっかくお前達が“とっておき”を観せてくれたのだし、()()()()()()()()()()()()()


 動揺する勇者ウロナ達などまるで気にして無いかのように、まるで新しい悪戯(いたずら)を思い付いた子供の様に無邪気(むじゃき)に声を弾ませると、眼の前で起きた事態に言葉を失い立ち尽くす勇者ウロナ達に嘲笑(あざわら)う様な下卑(げひ)た視線を送りながら、魔王カティスは眼前に右手の人差し指を構える。


 すると、魔王カティスの人差し指の先に赤黒く発光する極小の球体が緩やかに浮かび上がる様に出現した。


(まさか──()()()()()()!?)


 勇者ウロナも鈍感(どんかん)ではない。魔王カティスの指先に現れた球体が()()()()()()()()()()()()()()()だとすぐに察知する。


 それこそ、先程魔王カティスが握り潰した勇者ウロナ達の全力が圧縮(あっしゅく)された黒球の()()()()()()()()()()()()


 勇者ウロナは背中に携えていた聖剣に迷わず手を掛け、身体を守る盾のように聖剣を構える。


 正直な所、勇者ウロナの思考はこの時点で既に混迷(こんめい)を極めていた。魔王カティスの考えが全く(もっ)て読めないからである。


 人を(からか)う為に()()()()()()()()()()()、勇者ウロナ達の攻撃をただ防ぐのでは無くわざわざ圧縮して握り潰したり、かと思えば今しがた握り潰した黒球以上の魔力の塊を精製して何かしようと()()()()()


 気まぐれ──魔王カティスの性格を端的(たんてき)に言い表すならこの一言が的確である。


 それ故に、魔王カティスの()()()()に勇者ウロナは攻勢(こうせい)に出ることが出来ず、剣を“盾”の様にしてまで魔王カティスの“次の一手(きまぐれ)”に後手(ごて)に回るしかなかった。


 そんな勇者ウロナの焦燥(しょうそう)した姿に愉悦(ゆえつ)でも感じたのだろうか、魔王カティスは口角(こうかく)を少しだけ釣り上げてほくそ笑むと、視線を勇者ウロナにしっかりと合わせたまま大広間の片隅で待機しているレトワイスに指示を与える。


「……レトワイス、窓を開けなさい」

「……承知しました、我が主」


 そんな魔王カティスの“思考(きまぐれ)”を既に察してか大広間の窓の側に移動していたレトワイスは、主の指示を受けるとすかさず窓ガラスに拳を放ち、()()()()()()()


 ──ガシャン、と大きな音を立てて窓に人の頭ほどの穴が空き、そこから夜の冷えきった空気が流れ込んでくる。


「……………………なんで割ったの?」

「……? 勿論(もちろん)、我が主の面白い反応(ツッコミ)を期待してですが、それが如何(いかが)しましたでしょうか?」

「…………えぇ、いま大事(シリアス)雰囲気(ふんいき)なんですけど? 空気読めないの?」

「……? はぁ、(わたくし)は人形ですので生命体のような“空気を読む”なんて高度な機能は備わってはおりませんが?」

「…………ウソつけ、そんな低スペックで創ってないぞ」

「おや、バレてしまいましたか」

「…………ハァ、(らち)が明かんな」


 従者レトワイスの“行動(きまぐれ)”に調子の狂わされる魔王カティスであったが、勇者ウロナ達が神妙(しんみょう)面持(おもも)ちでこちらの一手に構えている以上、ここで巫山戯(ふざけ)る訳にもいかないと冷静になると再び勇者ウロナ達に意識を向ける。


 ()()()()()と言いたげな表情でこちらを凝視(ぎょうし)しているレトワイスから目を背ける様に。


「……さて、話を戻そうか。お前達はこう思っているだろう? 『魔王カティスはあの魔力の塊をどうするつもりだ?』と」


 魔王カティスの問い掛けに勇者ウロナ達は何も言い返せなかった。なにせ()()()()、彼等は魔王カティスが次にどうするか全く予想出来なかったからである。


 この緊迫(きんぱく)した状況の中で余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)従者(レトワイス)漫談(まんだん)を始めるような人物だ。


 いきなり“悪戯(イタズラ)”を始めても、あるいは唐突(とうとつ)に“殺し”に来ても()()()()()()()


 ──が、こと()()()()に置いては、勇者ウロナ達は魔王カティスの次の一手を予想できていた。


((((絶対あの窓から外に飛ばす気だ))))


「我が主、それは()()()()()()()言うべき台詞(セリフ)では? 今から我が主が何をするかバレバレなのですが」


((((あの人形(あいつ)、普通に言っちゃった!!?))))


「…………あー、そっかぁ……。あー、………………ふふふ、フハハハハ!! どうだ、気になるだろう? 仕方がないから特別に答えを教えてやろう。今から! 私は! この魔力の塊を! あの窓のから! 外に向かって!! 撃ち出すのだ!!!」


((((聞いてないフリした!!?))))


 果たして勇者ウロナ達の()()()()、魔王カティスは右腕を窓に空いた穴に向ける。


「特別に観せてやろう。この私の力をな!」


 そう得意気(とくいげ)に宣言すると、魔王カティスは構えていた右手を(ひね)り人差し指に溜めていた魔力の塊を窓の穴から外へと勢い良く射出した。


 放たれた魔力球は朱い夜空を赤黒い輝きを放ちながらまるで流星の(ごと)きスピードで飛んでいく。


 そして数十秒後、目算で数十キロメートルほど飛んだであろう魔力球は緩やかに地面へと吸い込まてる様に落ちて行った。


 次の瞬間──着弾点から、天地を穿(つらぬ)く巨大な黒い柱が噴き上がった。


 数十キロメートル離れたヴァルタイスト城の玉座の間からでも視界を(おお)(つく)くさんばかりに拡がる巨大な黒い柱。


 飛んだ距離と比較して直径10キロメートルを軽く呑み込んでいるであろうそれは、悠然(ゆうぜん)と立ち昇る噴水(ふんすい)の様に力強く、雲すら突き抜けている。


 そして、その黒い柱が観えてから数秒もしない内に、着弾した際に発生した衝撃がヴァルタイスト城にも到達する。


 まるで巨大な台風(ハリケーン)が直撃したかの様な凄まじい衝撃が玉座の間に(とどろ)き、玉座の間の窓は穴の空いた側はおろか反対側も(まと)めて吹き飛び、荒れ狂う暴風が玉座の間を瞬く間に包み込む。


「ぎゃーー!! 窓が全部割れたー!!?」

「ですから(わたくし)は窓を割ったのですよ。どうせ我が主が()()割ってしまいますからねー」


 よほど窓が気になっていたのか頭を抱えながら慟哭(どうこく)する魔王カティスとそれに淡々(たんたん)と受け答えするレトワイスの呑気(のんき)なやり取りを、勇者ウロナ達は最早(もはや)聞いている余裕は無かった。


 只々(ただただ)、眼の前で起きている破壊の光景に眼を()らすしか出来なかった。


 どれぐらい時間が経っただろうか、立ち昇っていた黒い柱は徐々にか細くなっていき、やがて朱い夜空の向こう側に消えて行った。


 後に残ったのは破壊の爪跡(つめあと)、それまで何も無い荒野だった場所に残されていたのは、噴き上がっていた黒い柱と同じ大きさ──直径10キロメートルをゆうに越える超巨大なクレーターだった。


「ば、化け物……!! あやつは──正真正銘(しょうしんしょうめい)の化け物じゃ……!!」


 その余りの光景に賢者ホロアはその場にへたりこんでしまう。見たことがなかったからだ──彼女が生きてきた1000年、大地をこれ程に容易(たやす)(えぐ)穿(うが)つ程の『破壊』を。


 それこそ──超自然災害でも天上の神々や、勇者ウロナの()()ですらも遥かに凌駕(りょうが)する程の圧倒的なパワーを。


 だからこそ、次に魔王カティスが()()()()()は──勇者ウロナ達を、絶望の──更に()()へと叩き落とした。


「せっかく希少(きしょう)な素材で作った窓ガラスが粉々に……!! くぅ〜〜、出力を0.000001%に落としても駄目だったか!」

「我が主、それでは()()()()()。せめてもう半分位の出力にして頂きませんと、この魔王城が持ちませんよ。この城は無駄に頑丈(がんじょう)な我が主と違って繊細(せんさい)なんですから」

「俺の扱い悪くない!? 自分の(あるじ)をもう少し丁重(ていちょう)に扱う気無いの!!?」

「これでも丁重に扱っている方ですよ」

「え゛っ、嘘でしょ!?」


 0.000001%──100万分の1。それが、あの圧倒的な破壊力に有した魔王カティスの力の総量。


 直径10キロメートルを超える規模のクレーターを生み出す破壊力は、地球における核兵器を遥かに上回り、隕石の衝突にも匹敵しうる。


 勇者ウロナ達の100%──文字通りの()()()()で出せる規模を遥かに上回る破壊を、事もあろうに魔王カティスはまるで指に付いたゴミ屑を弾くような軽い感覚で巻き起こしたのだ。


 その事実に、勇者ウロナ達の目の前はみるみると真っ暗になっていくのを感じた。


 ──自分たちでは魔王カティスには勝てない。


 勇者ウロナの表情にはもう余裕の色は無い。認識が甘かった。勘違いをしていた。勇者ウロナの強さは魔王カティスに匹敵すると誰もが思っていた。


 だが、それは間違いだった。あの魔王は、自分たちが『最強』だと信じていた男の遥か天に居る。


 (あり)恐竜(きょうりゅう)喧嘩(けんか)を挑んでいる様なものだ。()()()()()()()()


 このままでは、自分たちは()す術なく殺される。


 逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ──!!


「ウロナよ……いくらなんでもあやつはメチャクチャじゃ! 今すぐみんなで逃げるんじゃ!!」


 頭の中で警鐘(けいしょう)は鳴り響く。


 あの時、あの魔導人形(オートマタ)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ──“時間を巻き戻す”、“超重量を操る”、これに相当する技能(スキル)をあと997個所有しており、その躯体(くたい)は超威力の衝撃ですら傷一つ付かない。更には百万分の一の力で大地に大穴を開けてみせた。


 明らかに常軌を(いっ)した超常の存在──それが目の前にいる魔王。()()()()()()()()()全てを理解してしまい、賢者ホロアは完全に心が折れてしまっていた。


 けれど、命までは諦めまいと、絶望で震える身体を精一杯(ふる)わして勇者ウロナに撤退を(うなが)す。けれど、勇者ウロナにはその声が届くことは無かった。


「下らない、下らない、くだらない!! そんな小細工で俺は、この勇者ウロナ=キリアリアが負ける筈が無いんだ!!」


 地団駄(じだんだ)を踏みながら勇者ウロナは絶叫する。


 往生際(おうじょうぎわ)は悪く、みっともなく勝ちに(こだわ)る。勇者ウロナは生まれてこのかた、おおよそ『敗北』を味わったことが無かった。


 だから、認めることが出来なかった、理解することが出来なかった。自分が──絶対勝者である自分が誰かに負けることが。


 髪をぐしゃぐしゃに()き乱しながら勇者ウロナは、自分に言い聞かすように、俺は負けてない──そう連呼している。


 そんな彼のみっともない姿に怯えたキィーラは嗚咽(おえつ)と涙にむせびながら、勇者ウロナに懇願(こんがん)する。


「ご主人様……もう……やめてください。もう……無理です……帰りましょう……お家に……帰りましょう」


 そんな、キィーラの幼気(いたいけ)な献身に勇者ウロナは──。


「黙ってろ!! 役立たずの奴隷が!!」


 ──心無き罵倒(ばとう)で応えた。


「──────っ!! ……ご主人……様…………?」


 言わないと信じていた。自分を一人の『人間』として見てくれると思っていた。


 そんな敬愛する勇者ウロナに、()()()()()()()()()()()を言われたキィーラは、感情が抜け落ちたような虚ろな瞳で、()()()()()()()()()()()()を見つめていた。


「やれやれ、随分と悪辣(あくらつ)な男だな貴様は」

「なんだと!?」

「粋がるな小僧。()()()()()()()()()()()? 貴様じゃこの私には勝てない」

「そんな筈はない!! そんなはず、絶対にないんだ!!」


 ──違う、違う、違う、違う、違う──。


 俺はまだ負けてない、そう心の中で叫ぶ。


 俺はまだ全てを見せていない、そう自分に言い聞かせる。


 俺にはまだ()()()()()切り札(チート)』が残されているんだ、そう自分を鼓舞(こぶ)する。


「もうやめてウロナ。もう帰ろう。もう戦わないで。もう私を……失望させないで」


 そう言って足元にしがみついてきた騎士リタを蹴り払うと、勇者ウロナは再び魔王カティスに向かって歩みを進める。


「まだ俺は負けてない!! 必ず、お前を殺してやる!!」


 聖剣の切っ先を向けて勇者ウロナは魔王カティスを威嚇するが、魔王カティスはそんな()()()に呆れ果てた顔をすると吐き捨てるように(さと)し始める。


「いい加減にしたらどうだ? 軽く遊んでやるつもりだったが、まさかここまでの阿呆(あほう)だったとは流石に私もドン引きだ」

「な……に…………!?」

「すぐさま()()()()()()()()()()分、貴様のお仲間のほうが幾分(いくぶん)優秀だな。そうだ、そんな(かしこ)い彼女たちに(めん)じて──貴様がおとなしく諦めるのなら、このまま見逃して家に帰してやるぞ?」


 魔王カティスは、これが最後の慈悲だと言わんばかりに、取り(つくろ)った笑顔を勇者ウロナに向けてそう言った。


──『負け』を認めれるのなら生かして帰してやろう。


 それは、絶体絶命の窮地(きゅうち)(おちい)った勇者ウロナによってこの上ない最後の機会(チャンス)だった。


 けれど、勇者ウロナはそんな情けなさ過ぎる『情け』を聞き入れはしなかった。


 自分と仲間の『生命(いのち)』を護るよりも、自らの『自尊心(プライド)』を守る事を優先したが為に。


「黙れーーーーーーー!!!!」


 そう叫びながら突っ込んでくる勇者ウロナに小さくため息を吐くと、魔王カティスは心の底から()()()()()()()()()()()冷たい視線で愚か者を見据えて告げる。


「そうか……()()()()()()()()──なら、貴様は此処で死んで逝け。勇者キリアリアよ」


 そう言い放った瞬間──魔王カティスの眼前に()()()()()()()()()()()()()が出現した。


 辺りの空気が凍り付いたように重くなる。深海に落とされた様に息が出来なくなる。勇者ウロナに(くだ)された無情な死刑宣言。


 それは、それまでふざけ半分だった魔王カティスの“意思(きまぐれ)”が冷酷に振り切った瞬間。


 (すなわ)ち──()()()()()()()()


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