第十四話:ギルド試験狂騒曲⑦/天使は微笑み、波乱を巻き起こす
「こんにちは〜、『冒険者組合』カヴェレ支部にようこそー♪」
波乱に満ちた一日が終わり、翌日──スティアとフィナンシェは、カヴェレの街なかにあるギルドの支部を訪れていた。
建物の中は十数人程の冒険者らしい者たちが右往左往しており、依頼の受注や共に困難に立ち向かう同士を募ったりしていた。
(全く……連れてくるのは良いでちゅが、目隠しを使われると周りが観えないでちゅ……!)
カティスもまた──“星の瞳”がフオリたちに露見する事を警戒したスティアとフィナンシェによって、ギルド支部に連れて来られていた。
しかし、外へと出ると言う事は──より多くの衆目に晒されると言うこと。スティアとフィナンシェは相談に相談を重ねた結果──カティスの両眼を白い包帯で覆って、瞳が見られないように対策をする事になった。
(ちかも──乳母車に寝かちゃれてちまいました。うぅ、フィナンシェの抱っこの方が良いでちゅ~!!)
『ごめんねー、抱っこの方が良かったかな……?』
『甘やかしたらダメだよ、フィーネ! 長時間の抱っこは赤ちゃんにも親にも負担が掛かるんだよ!?』
『そうだね……。アヤさんが乳母車を譲ってくれるって言ってくれてるし、甘えちゃおっかな?』
『ば、ばぶぅ〜!(約:そ、そんな〜!)』
『あと、瞳も包帯で隠さなきゃ。周りにバレたら大変なことになっちゃう……!』
『う〜ん、そうだね……。ごめんねー、赤ちゃん……見えないけどちょっとだけ我慢してね♡』
『ば、ばぶぅ〜!?(約:ま、まじで〜!?)』
(はぁ、仕方ありまちぇん。ちぇめて視界は確保ちておきまちゅか……魔王九九九式──『澄み渡る明けの空』!!)
魔王九九九式──『澄み渡る明けの空』、物体を透過させて観ることが出来る魔眼系統の『紋章術式』。大きな特徴として透視段階を調整することで、例えば人間相手なら“衣服”だけを透かして一糸纏わぬHな姿を鑑賞することも、臓器すら透過させ身体の奥底に眠る“魂”を観測することすら可能とする。
(これで視界はばっち──ちまった!! 透過段階を間違えて──スティアとフィナンシェが真っ裸になっちゃたでちゅ!!?)
自身の視界を覆う包帯だけを透かしたつもりだったカティスだが、うっかり調整を間違えたらしく乳母車の前に立っているスティアとフィナンシェが全裸に観えていることに気が付いた。
(こ、この術式はこんなエッチな目的で作ったものじゃないでちゅ/// さ、さっさと透過段階を下げるでちゅ……///)
ほんの一瞬だけ、カティスはスティアとフィナンシェのあられもない姿に釘付けになったが──すぐさま、自分の『魔王』としての“矜持”で理性を取り戻し、透過段階を下げてふたりの姿を普通に直すのだった。
(自分の高過ぎる能力に胡座を掻いて“倍率”方式にちたのが間違いでちた……! 後で変えておくでちゅ……!!)
まさか──自分たちの裸が乳母車で眠る赤ちゃんにばっちり鑑賞されているなんて知る由も無いスティアとフィナンシェは、ギルド支部の受付カウンターにいる受付嬢に話し掛けていた。
「あら、初めて見る顔ですねー。こんにちはー、改めまして『冒険者組合』カヴェレ支部へようこそー♪」
沢山の依頼書らしき紙が貼られた大きな依頼掲示板の隣りにある受付カウンターで、スティアとフィナンシェに愛想を振りまく桜色の髪と青い瞳をした少女がふたりにニッコリと笑いかけながら喋っている。
「本日、受付を担当するのは……この──素敵にキュートで、最高にラブリーで、笑顔がチャーミングなみんなのア・イ・ド・ル♡ アイノア=アスターちゃんでーす♪ よっろしくね〜♪♪♪」
「…………何、この変な人??」
「わ〜、アイドルなのに受付嬢もされてるなんて凄いですね〜♪」
「──グェ!! 無慈悲なコメント!? ……年端のいかぬ小娘のなんて残酷なことか……アイノアちゃん、ショックです〜⤵」
──と、受付嬢アイノア=アスターが“ガンッ”と言う鈍い音を響かせてカウンターの天板に思いっきり頭を打ち付ける。
「〜〜〜〜っ!! ア〜イ〜ノ〜ア〜〜ッ!!!」
すると──隣りにいた淡い水色の髪の女性が“チッ”と聴こえるぐらい大きな舌打ちとともに、突っ伏しているアイノアに向って来た。
「私はいま、暇な時間を利用して読書をしているんだ!! 隣でジタバタ暴れるな!!」
「も〜、怒らないでよエスティちゃん。あなたとー、アイノアちゃんの仲でしょ〜♡ そ・れ・に〜、今は〜、お仕事中だから〜、おサボりしてると〜、支部長に〜、怒られちゃうよ〜?」
「………………っ!! くぅ〜、嫌らしい所を突いてきやがって〜〜っ!!」
「〜〜♪」
「くそっ、なんで私はこんな鬱陶しい奴と同期なんだ……?」
アイノアを問い詰める筈が思わぬ反撃を受けてしまったもう一人の受付嬢シト=エスティは、アイノアを怪訝そうな表情で睨みながら自分のポジションへと戻っていった。
「──っと、エスティちゃんが五月蝿くしてごめんねー♪」
「……はぁ、いや何でも良いけど」
(また面倒な女がいるでちゅね……)
「あら♡ かわいい赤ちゃん〜♪ こんにちはー、アイノアちゃんのファンですかー?」
乳母車で眠っているカティスに気付いたアイノアがカウンターから身を乗り出して、カティスに挨拶をしている。
(ヒェ~、面倒くさいどころかウザいでちゅ……!?)
「お目々どうしたのー? その眼でアイノアちゃんの可愛い姿を焼き付けてほしいなー♡」
「あ、あの……わ、わたしたち、ギルドの冒険者になりに来たんですけど……!」
アイノアの興味がカティスの眼に移ったのを瞬時に察知したのか、フィナンシェが斬り込むように本題を切り出していく。
(──ナイちゅフォローでちゅ、フィナンシェ! 後で褒美に抱っこちゃれてやるでちゅよ♪)
「あー、冒険者登録ですかー? それなら選抜試験を受けて貰わないといけませんねー」
「「…………選抜試験??」」
スティアとフィナンシェが仲良く首を傾げていると、隣で静かに読書していたエスティが栞を挟んで本を閉じてふたりに視線を向けて来た。
「ギルドの“許可証”の発行には、ギルドが不定期で開催してる選抜試験で所定以上の成績を納めてもらう事になっているの」
「そのとーりなのです! 近頃は何の『見どころ』もない……こほん、実力の足りない冒険者さんが溢れかえちゃって〜」
「『ギルドの冒険者の質も落ちたな』──と言われる始末」
「で、そんな悪評を大きなお耳で聴きつけたギルドマスターが大激怒!」
「『金にならない冒険者ならギルドには要らん』って言って」
「一定以上の実力が無いと“許可証”を発行できない仕組みを作ちゃったの〜♪」
「だから──“試験”と言う規定を設けて、ギルドの冒険者足り得る人材のみに“許可証”を発行するようにしている」
「──と、言う訳なのですー♪ ご理解頂けましたか〜?」
「なるほど……つまりあたしたちもその選抜試験に合格すれば、ギルドの冒険者になれるんですね?」
「そのとーりです♡」
(ふむふむ……つまり、その選抜試験でスティアとフィナンシェが昨夜──『天を見通す星の瞳』で観た惨劇に遭う訳でちゅね……?)
カティスが目隠しをされ乳母車に乗せられる事を我慢してでもスティアとフィナンシェに同行した理由──今日、ふたりが見舞われる『死』の惨劇。
昨夜、カティスが観た未来では──スティアとフィナンシェは何かに襲われて惨たらしい最期を迎えていた。
ある程度の実力を見極めるのが選抜試験──と言うのなら、当然、ある程度の身の危険は付きまとうだろう。
つまり──アイノアとエスティが言う選抜試験にこそ、その原因があるとカティスはこの時点で予感していた。
(……となれば、このふたりに試験を受けちゃせないのが──最善の選択肢でちゅね……!)
カティス的には、スティアとフィナンシェには死なれては困る。
『もっと抗え──! もっと足掻け──!! もっともっと生命を讃美歌せよ──!!! おれに──この魔王カティちゅに、お前たちの生き様を観ちぇてみろ──ふふふ……ふはははははは!!!』
昨日──あんな大口を叩いたのだ。その翌日にふたりが死んだとなれば、それこそ“魔王カティスの沽券”に関わってくる問題となってくる。
(なんとちても──あの惨劇は回避ちゅるでちゅ……!!)
「それで、その選抜試験は何時行うのでしょうか?」
「…………今日で~す♡」
(でちゅよね〜)
「今日……!? やった、ラッキー♪」
(お前ら、それアンラッキーでちゅ……)
「でも〜、残念です〜⤵ あなた達は参加できないんですよねー」
「……えっ?」
突然、それまでハイテンションで喋っていたアイノアの急降下した声のトーンに、スティアとフィナンシェ思わず空気の抜けた声を出してしまう。
「な、なんで……!? 別に年齢制限とかも無いでしょ?」
「そうですよ、いくらスティアちゃんのおっぱいが無いからってそれはあんまりです!」
「フィーネも資格ないんだよ!!?」
アイノアの唐突な“NO”に抗議してスティアとフィナンシェは大騒ぎを始め、エントランスにいた冒険者たちの視線が徐々にカウンターに注がれ始めていく。
(なんだか分からないでちゅが、参加出来ないのなら、ふたりが命を落とちゅ心配ちなくて良いでちゅね……!)
「理由はなんですかアイノアさん……!? やっぱり──スティアちゃんの胸に原因が──」
「無いよ!!? あたしのコンプレックス抉るのやめて!!?」
「理由は〜、そっちの黒髪の娘の貧乳が原因でーす♡」
「────っ!!」
「スティアちゃんがこの世の終わりみたいな顔で絶望してる……」
「ウソでーす♡」
「えーん、フィーネぇ!! このアホなピンク髪があたしをイジメるよ〜〜!」
「おー、よしよし♡ わたしはスティアちゃんの味方だからねー♡」
(先にスティアをイジったのは──受付嬢の方じゃなくて、フィナンシェの方じゃないでちゅか……??)
(先に貴方をイジったのはこっちの『アホなピンク髪』じゃなくて、そっちの『アホなピンク髪』の方では……??)
本当に悪いのはフィナンシェでは──そう思うカティスとエスティであったが、ふたりともそれを口には出さなかったので、真実にスティアが気付くことは無かった。
「……アレ? アイノアちゃん、何か悪者になっちゃってます……??」
休日もお仕事で全然執筆が進まなかった( ;∀;)
と言うわけでいつもより少し短いです。
申し訳ありません。




