表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/56

第十二話:ギルド試験狂騒曲⑤/“新興の街”カヴェレ


「よーやく着きましたわー! スティアさん、フィナンシェさん、此処(ここ)が新興の街──カヴェレにございますわーっ!!」


 ヴァルタスト地下迷宮から出発してから数時間後、スティアとフィナンシェは(ようや)く目的地である街──カヴェレへと到着した。


 日はすっかり沈み──辺りは暗やみに包まれ、街に建つ家々の窓からは暖かな(あか)りが漏れ──そして、炎の魔法で照らされた街灯(がいとう)(ソラ)に浮かぶ大きな朱い月と小さな蒼い月から降り注ぐ月の光だけが、一行(いっこう)を照らしていた。


「いや、カヴェレ自体は何度も来たことあるし」

「わたしも〜」


「なっ──!? (わたくし)たちがカヴェレを訪れたのは今朝(けさ)……。と、言うことは──もしや(わたくし)より此処(ここ)にお詳しい……!?」

「まぁ……そうなります」


 意気揚々とカヴェレをスティアとフィナンシェに紹介したラウラだったが、ふたりはフィナンシェの父親と共に幾度(いくど)かこの街を訪れており──それをつゆ知らずにふたりに大見得(おおみえ)を切ったラウラは、逆に赤っ恥をかいてしまった。


「ぐすん……(わたくし)、とんだ道化(どうけ)ですわ……!」

「いや──アンタただの馬鹿だ」

「失礼な……!! トウリさん、こう見えても(わたくし)──王立学院の魔法科では、一番の剣士でしたのよ?」

「な、ただの馬鹿だろ? 『魔法使い』育成する学科で『剣士』なんてやる奴、アンタしかいねーよ!」

「…………おー、確かに! むかし、魔法科のジズ先生にも『お(ぬし)──騎士を目指しとるなら騎士科に転向したらどうじゃ?』と言われましたわ……!」

「あー、おれ──なんでこんな脳みそお花畑のお嬢様の“相棒(バディ)”なんてやってんだ?」

「ふふふっ──オーッホッホッホッ!! 決まってますわ、トウリさん!! それは──(わたくし)がカリスマと気品(きひん)(あふ)れる素敵な『騎士(ナイト)』ですからよーー!!」

「うん……違う。あとその悪役令嬢みたいな()()()()高笑いやめて?」

「──────はい、すみませんですわ…………あうちっ!!?」


 ──などと、ラウラとトウリが街のど真ん中で、ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てていると──、


「さっきからゴチャゴチャうるせーぞ!! 痴話喧嘩(ちわげんか)なら他所でやれ!!」


 ──怒鳴り声が(とどろ)き、何処からか(から)薬瓶(やくびん)が飛んできてラウラの頭に直撃した。


「すみませんっ!! すぐに退()きますから……! ほら、ラウラ早く行くぞ!!」

「つぅ〜〜〜〜ッ!! ──何するんですのっ!?」

「バカっ! おれらが悪いんだから食って掛かるな……!!」

「いま投げつけた薬瓶(コレ)──安物の“回復薬(ポーション)”ですわね!?」

「…………えっ、どーでも良くない?」

「良くありませんわ! (わたくし)に投げつけるなら──(わたくし)の“(ランク)”に見合った最高級回復薬(グランド・ポーション)を投げつけなさいな!!」

「──えっ、そっち!? 投げつけるのは良いんだ!!?」


 ──投げるのは構わないから、最高級品を投げつけろ。そう言って、建物の何処かに潜んでいる誰かに──ラウラは威風堂々(いふうどうどう)啖呵(たんか)を切る。


「……スマン、嬢ちゃん。“こいつ面倒くさいな(俺が悪かったよ)”──!!」


 そのラウラの(いさ)ましい立ち振舞(ふるまい)に怖じ気ついたのか、彼女に薬瓶を投げつけた声の(ぬし)はそのまま家の中に気配を消していった。


「良いですのよーー、分かっていただければ……!」


 ラウラは上機嫌に、腰に両手を当てながらふんぞり返っている。


(……違う、絶っ対に違う……!! これ、明らかに避けられてるーーーー!!?)


 声の主の『真意』にも気付かずに。


「さ〜、あの方も(わたくし)の高貴なる気品を分かっていただけた様ですし、早く宿屋(やどや)に向かいますわよーー!」

「────あぁ、ちゃんとあんたの『面倒くささ(高貴さ)』──分かってくれたと思うぞ」

「スティアさんとフィナンシェさんも、一緒に宿屋に向かい…………アレ、居ませんわ??」

本当(マジ)だ…………何処に行っちまったんだ??」


 (ようや)く落ち着いて、ふたりがスティアとフィナンシェがいた場所に視線を送るが──其処(そこ)には、既にふたりの姿はなかった。


「──ふたりなら『じゃあ、私たち宿屋に行きますね。さようなら〜』って言って向こうに行っちゃったッスよ」


「「アンタはいるんかーい!!?」」


 そして──街なかで大声で(さけ)ぶラウラとトウリに対して──罵声を浴びせる街の住民も、姿を見せることは無かった。


(…………面倒くさいから、早くどっか行ってーー!!)



〜〜〜



 ──その頃、ラウラとトウリ、オヴェラをしれっと見捨てて、スティアとフィナンシェは幼いカティスを連れてカヴェレにある宿屋に向かっていた。


「なんだか今日は誰も外にいないね……?」

「そうだな……なんか何時(いつ)もと様子が違う様な……?」


 街灯(がいとう)に灯された炎に照らされた大通りを歩きながら、スティアとフィナンシェは街の様子が普段と違う事を(いぶか)しむ。


 ふたりがフィナンシェの父に連れられて幾度(いくど)かカヴェレを訪れた際は、例え今のような夜であっても街の住民や此処(ここ)に訪れた冒険者たちの往来(おうらい)が少なからずあった。


 しかし、今は街の通りに人の気配はない。ひっそりと静まり返った街を賑やかしているのは──ゆらゆらと()らめく街灯の橙色(だいだいいろ)の炎だけ。


 唯一の安心材料は、街の建物から漏れる灯り。その灯りが、街に人はしっかりといる事をスティアたちに伝えていた。


(うーん、久々の人里(ひとざと)でちゅし、観たことも聞いたこともない街でちゅが……“生前(あのとき)”とな~んにも変わってないでちゅね〜)


 街の様子を心配しているスティアとフィナンシェとは違い、カティスは──街の『在り方』そのものに目を(みは)る。


 木材と石材、レンガを組み合わせて出来た精々ニ〜三階までの高さの建物、街の往来に使うであろう馬や牛を泊めておく(うまや)牛舎(ぎゅうしゃ)、商人が()いてきたと思われる木製の馬車や荷車、街の住民が使っているであろう公共の井戸──。


 どれを取ってみても、カティスにとっては生前の『魔王』の時代と(ほとん)ど遜色の無い景色だった。


(──とは言え、我がヴァルタちゅト城の近くにこんな街なんて無かった筈でちゅ……。今は──あれからどれだけ月日が流れたんでちゅかねぇ?)


 フィナンシェの細く柔らかな腕に包まれ、たわわに(みの)った胸の感触を堪能しながら──カティスは自分が生まれ落ちた時代が()()()()()()()()()()()()()()を考える。


(この規模の街を作るのに必要な時間は……大凡(おおよちょ)十年……。我が居城が何らかの形で突然崩壊ちたとして、土に埋もれ草木に覆われるまでの時間……大凡(おおよちょ)数十年……。千年不毛(ちぇんねんふもう)の地だったヴェルちょアが豊かになるまで土壌(どじょう)が回復するまでの時間……分からん。人類の文明発展具合……ほぼ無し……)


 目覚めてから此処(カヴェレ)に至る(まで)に観た様々な情報を元に、カティスは今いる時代を考察する。


(う〜〜む、だいたい……50年後ぐらいかな……?)


 50年──それがカティスが出した推論(すいろん)だった。それ位の期間があれば、今の景色になっていてもおかしな事は無いだろう……多分。そう考えて、カティスは自分自身を納得させる。


(もし、本当にそれ位の時間だったら──いつかは()()()()()にも再会()ってみたいものでちゅね……)


 カティスに脳裏に浮かぶは──かつて『魔王(じぶん)』が慈悲を与え、見逃した三人の少女たち。金髪の騎士の少女、エメラルド色の髪のエルフの賢者、三本の尻尾が印象的な狐の少女。


(間違いなく(うら)まれてるでちょうが──元気にちてると良いんでちゅが…………)


 そうやって、カティスが物思いに(ふけ)っていると──、


「あんた達もしかして……ランプ村のフォルテッシモさんの(とこ)の娘っ子たちかい……!?」


 ──不意に、老婆のような声がこちらに語り掛けてきた。その声の方向にスティアとフィナンシェが視線を送ると、民家の窓から一人の老女がこちらに向かって手を振っていた。


「あっ、フオリお婆ちゃん……! こんばんは〜、前の交易の時以来ですねー♪」


 そう言いながらフィナンシェは、手を振るフオリと呼ばれた老女の元へ駆け寄って行く。


 どうやら、彼女たちがフィナンシェの父の交易に付き添った時に知り合った仲らしい。スティアも知った顔だったのか、特に警戒心も抱かずに彼女の元へと向かって行く。


「フオリお婆ちゃん、この前の交易の時は沢山の果物ありがとうございます♡ お父様もお母様もとーっても喜んでましたよ♡」

「そうかい、それは良かったよ。……おや、その子はどうしたんだい……?」

「あ──っ!! えっと……この子は……その〜〜」


 フオリに、抱いていたカティスの事を観られたフィナンシェは、自分がカティスの持つ“星の瞳”の事をすっかり失念していた事に気付き慌ててカティスの顔に胸を圧し当てて、カティスの顔を彼女に観られ無いようにする。(※大変危険な行為ですので真似しないで下さい。この赤ちゃんは史上最強なので大丈夫なだけです)


「もごもご……もごもご……!?(約:おっぱいが邪魔で息が出来ないでちゅ……!?)」


 パンパンッ、パンパンッ──カティスが必死にのしかかってるフィナンシェの胸を退()かそうと手で(はた)いてるが、カティスの瞳を観られたら困るフィナンシェは返って胸の圧し付けを強めてくる。


「もごご……もごぉおおおお!!(約:たちゅけてー、おっぱいに(ころ)ちゃれるーーーー!!)」(※実は大丈夫なので安心して下さい)


「その子、あんたの胸に潰されてるけど……大丈夫なのかい……?」

「えへへっ、大丈夫です♡ この子、甘えん坊なんで……」

「もごごごぉ…………!!(約:違うわーー!!)」


「ともかく……あんた達、こんな時間に外を彷徨(うろ)かん方がええ……昼間のアレを聴いとらんのか?」

「昼間のアレ……?」


 フオリの言葉にスティアとフィナンシェは首を(かし)げる。


「まさか──聴こえとらんかったのか? あの“竜の咆哮”じゃよ……!!」

「竜の……咆哮……ですか?」

「あぁ、そうじゃ。此処(ここ)ら一帯に竜の咆哮が響いて、ヴェルソア平原から赤黒い光が立ち昇ったんじゃ……!! 見とらんのか……!?」

「スティアちゃん……それって……?」

「そー言えば、ラウラが──」


『はぁ、やれやれですわ。赤黒い光の元に野次馬(やじうま)──失礼、駆け付けてみれば、まさかこんな所ですやすやおねんねしてらっしゃる方が四人もいるなんて(わたくし)、思いもしませんでしたわ……!!』


「──って、言ってたような……?」


(あー、なるほど。おれの放った『竜の咆哮(ディア・ブレちゅ)』の事を言ってるんでちゅね……)


 その会話に、カティスは思い当たる節があった。


 魔王九九九式(まおうきゅうひゃくきゅうじゅうきゅうしき)──『竜の咆哮(ディア・ブレス)』。魔王カティスが愛用した攻撃系の『紋章術式(クレスト・アーツ)』。


 強大な魔力を極限まで集束させてビームのように撃ち出す術式であり──貫通力、殲滅力、射程、攻撃速度、燃費、どれを取っても破格の性能を誇り、その威力は一国の魔導師たちの全力を束ねた超魔法をいとも容易く捻じ伏せるほど。


 中でも、最大の特徴は──攻撃と同時に“()()()()()()()()()()()()()()()()”こと。魔王カティスが『これなら目立つし、格好良いぞー♪』とノリノリで付け加えた副次効果(ふくじこうか)であり、名称の由来にもなった特徴である。


「皆、ロヒ・ハウタ大霊峰の()()がお怒りではないかと戦々恐々(せんせんきょうきょう)としておるのじゃ。悪いことは言わん、(はよ)ぅ何処かに隠れんしゃい……!!」


(なるほどなるほど──おれの撃った『竜の咆哮(ディア・ブレちゅ)』に皆、(おちょ)(おのの)いているわけでちゅね……。ふふふっ……、相変わらず人間共はちゅケールが小ちゃいでちゅね……!!)


 カティスの撃った『竜の咆哮(ディア・ブレス)』にカヴェレの住民たちは恐れをなして、家々に()もっている。その事実は──カティスを大いに満足させるのだった。


「ふへ……ふへへへへへ……!!」

「こいつ、フィーネの胸に潰されながら笑ってるし……。さてはスケベだなこいつーー!!」

「もう、スティアちゃんったら嫉妬しないで?」

「なっ/// ち、違うから///」

「うふふ……♪ フオリお婆ちゃん、教えていただきありがとうございます。わたしたちもすぐに宿屋に向かいますね」


 赤面して慌てふためくスティアに満足げな表情(かお)をすると、フィナンシェはフオリに自分達も宿屋に向かうと言ったが──、


「──今は無理じゃ。街中の冒険者たちが依頼(クエスト)を中断して、(こぞ)って宿屋に群がっておるのじゃ。今宵(こよい)は宿屋には泊まれんと思うたほうが良い」


 ──と、逆に釘を刺されてしまうのだった。


「えーっ、そんなー!? あたしたち、此処で野宿(のじゅく)しなくちゃなんないの!?」

「困ったね……どうしようかしら?」


 元々、カヴェレの宿屋に泊まるつもりだったふたりに、『他の当て』なんて二の矢は無い。冒険開始早々、路頭に迷う羽目になり頭を抱えるスティアとフィナンシェ。


 そんなふたりを見かねたのか──、


「なら、家に泊まりんしゃい。女子(おなご)ふたりと幼子(おさなご)ひとりなら、泊めれん事もない」

「えっ……!? 本当ですか、おばさん!?」

「構わん構わん……フォルテッシモさん()の野菜は美味いからねぇ……。これはその恩返しじゃよ」

「────/// ありがとうございます、フオリお婆ちゃん♡」


 ──そう言って、フオリは助け舟を出してあげるのだった。



〜〜〜




「お邪魔しまーす」

「こんばんわ~」


 フオリに案内されて、彼女の家に泊めてもらう事になったスティアとフィナンシェはペコリとお辞儀をしてから敷居を(また)いだ。


(あー、またこの“瞳”の事で一悶着(ひともんちゃく)ちゅるのも嫌でちゅから、寝たフリでもちておきまちゅか)


(あっ……良かった〜、寝ちゃってるなら瞳を観られる心配しなくて良いよね……)


「あら、お義母(かあ)さん……。そちらの()達はフォルテッシモさんの所の……?」

「そうじゃ、偶々街を歩いてる所を見つけてのう……。竜の咆哮の事もあるし、今夜は此処に泊めることにしたわい」


 最初に声を掛けてきたのはエプロン姿の女性。その姿から、恐らくはこの家の家事を切り盛りする主婦だと思われる。


「こんばんは、フィナンシェ=フォルテッシモです。今夜はフオリお婆ちゃんのご厚意(こうい)に預かり、この家でお世話になります」


 そう言って、ローブの(すそ)を左手で(つま)んで拡げながらフィナンシェは深々と女性に頭を下げる。


「あ、あたしは……スティア、スティア=エンブレムです。今夜は、よ、よろしくお願いします……!!」


 フィナンシェの落ち着きのある上品な振る舞いを観たスティアも負けじと挨拶をするが、動きはぎこちなく──カクカクと絡繰人形のように頭を下げる。


(…………育ちの差が露骨(ろこつ)にでてるでちゅ……)


「うふふ、スティアちゃんにフィナンシェちゃんね。よろしくね、私はアヤって言うわ。……で、その腕に抱いてる子は……?」

「えっと、この子は──わたしと──」


 この家の主婦・アヤにカティスのことを()かれたフィナンシェは、そこまで言い掛けて──ふと、スティアの顔色を(うかが)う。


「〜〜〜〜〜〜っ!!」


 其処(そこ)には、凄まじい形相(ぎょうそう)でフィナンシェを凝視しているスティアの顔があった。それを観たフィナンシェは急にしどろもどろになりだす。


「────あ〜、この子は…………」


(フィナンシェ……天丼(てんどん)ネタは三回目からはくどいでちゅよ……)


 額からしっとりと汗をかきながら、


「〜〜〜〜〜〜っ!!!」


 スティアの鬼のような形相(ぎょうそう)(にら)まれながら、


「え〜〜っと…………」


 フィナンシェが出した答えは──、


「………………わ、わたしの、い、妹で〜す♡」


 ──自分の姉妹だと言い張る事だった。


(……また女扱いちてるでちゅ。まぁ……おれの(からだ)には性別(ちぇいべつ)概念(がいねん)は無いからどっちでも良いんでちゅが……)


「そうなの……? 私、てっきりスティアちゃんのご姉妹かと思ちゃったわ。フォルテッシモさんもお盛んなのねぇ♡」

「えへへっ……///」


 何とかその場を(しの)いだフィナンシェは、ホッと肩を撫で下ろす。そもそも、自分で蒔いた騒動の種なのだが。


 そうして、フィナンシェが照れ笑いで場を誤魔化していると、家の奥から走ってくる音が聞こえてくる。


「婆ちゃーん!! 見てみて、この格好!! 格好いいでしょーー!!」


 現れたのは小さな男の子だった。年齢は8歳前後だろうか──安い布切れで作ったであろう赤いマントと安物の(サークレット)を着けて、あたかも“勇者”を気取りながら少年は勢い良くフオリに抱きついた。


(……典型的な勇者(ゆーちゃ)の格好をちてまちゅね)


 それを観たカティスは──かつて戦ったとある勇者を思い出していた。


(今ごろは、『魔王カティちゅに敗北ちた勇者(ゆーちゃ)』とちて語られてることでちゅよね……ふふふっ!)


「おんやまぁ、立派な召し物だねぇ〜」

「うん!! これを着て今度の豊穣祭(ほうじょうさい)で劇を()るんだーー!!」


「もう、豊穣祭はまだまだ先よ? 全く気が早いんだから……」

「でもママ、ぼく早く演りたいんだもん──『()()()()()()()』!!」


 その名に、カティスは耳を疑う。


『最後に……もう一度言うぞ。貴様は──此処で死んで逝け! 勇者キリアリア!!』


 それは──かつて魔王カティスが討ち破った勇者の名。自らを“最強”と疑わなかった傲慢(ごうまん)な男の名。


 薄目(うすめ)を開けて少年の姿を観たカティスは──、


(自ら()()()()を演じるとは、なんとも奇特な子供(がき)でちゅね……感心感心(かんちんかんちん)♪)


 ──と、そんな勇者を演じる少年にカティスは思わず感心してしまう。


「わー、格好いい衣装だね♪」

「────!! あー、お(ねー)ちゃんフィナンシェちゃんだー!! こんばんはー!」

「はい、こんばんは♡」

「そっちの貧乳(ひんにゅー)はスティアちゃん!!」

「──この、くそ……ガキィ〜〜〜〜!!」

「まぁまぁ、スティアちゃん……」


 ぷるぷると(こぶし)を震わせるスティアをフィナンシェが(なだ)めていると──、


「うゎははは!!」

「あっ、パパだー!」


 ──家の奥から今度は少年の父親が高笑いと共に現れる。勇者の格好をしている少年とは真逆の──黒いマントと飾り物の()をした禍々しい仮装をしている。


 少年のお芝居の練習をしているのだろう。父親はノリノリで演技をしている。


「うははは、俺様は邪悪な魔王──カティスだぞー!!」


(……………………はぁ?)


 その言葉に──カティスは(キレ)る。


「待てー! 邪悪(じゃーく)な魔王カティスめー! お前は──この正義の勇者(ゆーしゃ)キリアリアがやっつけてやるー!!」


(……………………はぁ!?)


 その言葉に──カティスは激昂(キレ)る。


「くすくす……懐かしいね『勇者キリアリアと魔王カティス』」

「有名な()()()()だもんな。あたしも昔、お母さんに絵本を読んでもらったなー」


(……………………はぁぁ!!?)


 その言葉に──カティスは憤怒(キレ)る。


「でも、お墓もあったし──本当に居たのかな? 魔王カティスさんって……?」

「さぁ? いたとしても()()()()()()()()でしょ?」


(……………………はぁぁああああああ!!!?)


 その言葉に──カティスは怒髪天(もっとキレ)る。


(ちぇ、1000年(ちぇんねん)ってどー言うことでちゅかぁああああ!!?)


 その真実に、カティスは激しい混乱に襲われる。


 そう──そこは、『魔王カティス』の時代から1000年後の世界。


 吟遊詩人ヴァレヒテリアによって(つづ)られた『勇者キリアリアと魔王カティス』が──おとぎ話、()()()()()()()()()()()()()()()()()として語られる世界。


 かつての魔王カティスが──生まれ落ちた世界。



〜〜〜


 一方その頃──。


「え゛っ!? 今日、宿屋に泊まれ無いんですの!?」

「申し訳ございません。本日は宿泊希望のお客様が押し寄せてしまいまして……」

「え〜、だから言ったじゃん。念の為に朝のうちに部屋取っておこうって!」

「うぅ、迂闊(うかつ)でしたわ〜!」

「…………はぁ、やれやれ。オヴェラさんはどーすんだ?」


「あっ、オヴェラさん、お帰りなさいませー♪ お部屋のお掃除終わってますよー」

「──ありがとッス! じゃあ、おやすみなさいッス!!」


「あー、ズルいですわーー!? (わたくし)たちもその部屋に泊めるんですわーー!!?」

「えぇ、男と一緒でも良いのかよ?」

「背に腹は代えられませんわ!! さぁ、オヴェラさん! (わたくし)たちを泊めてくださいませ!!」


「嫌ッス、だって──あんた()、絶対面倒くさいッスもん……!! じゃ、そー言う事で、おやすみなさいッス〜〜」


「あぁ~~、そんな〜〜あんまりですわ〜〜〜〜!」

「あー、今夜は野宿かー」


 宿屋に──少女の(なげ)きの声が響き渡るのであった。

 そう言えば、スティア=エンブレムの年齢は15歳だと本文で触れていましたが、フィナンシェ=フォルテッシモの年齢についての言及が抜けていました。お恥ずかしい。


フィナンシェもスティアと同じく15歳で、スティアよりはやや生まれは早いです。


美味しいですね、フィナンシェ(お菓子の方です)

私は和菓子も洋菓子も大好きです。


因みに、第二節から登場のラウラとトウリも共に15歳で、スティアとフィナンシェとは同い年になります。




次回の投稿もなるべく早くを予定していますので、引き続き応援お願いします。



評価やブクマ、感想などもよろしくお願いします(・∀・)ノシ♪♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ