祈り
君がいたのは何年前だ?
頭がおかしくなりそうな景色に身を委ね、かつて存在していた山々が、瞬きをする度に高層ビルだとか、はたまたテーマパークだとか、団地だとか、決して綺麗とは言えなく色とりどりに映し出されている。取り出した写真に写っていたものとはかけ離れていた。
狂ってしまう。 こんな景色を見るのは。 君は何故こんなにも変わってしまったんだ?? どこにだって感情はある。今見ている先のビルの5階のオフィスの男の人にも。かつて存在した木々にも。
まるでピアノを弾くかのように軽快に街に変化していく。今まで綺麗だった空は、今も彩やかなのか?前みたいに純粋で、楽しそうで、汚れ一つないのだろうか。変わってしまったのは空か。はたまた僕の心なのか。彼の心の中にある空は彩やかなのか。胸の痛みを押し付けながら深呼吸をする。痛みは虚空から来た旋律のように彼の心を蝕み侵食し、脳を暗くした。空には夜が訪れた。
彼はここに来た理由を思い出し、何も言わずにカメラを構えた。1枚の写真を撮った。心の中からではなく、自分の眼で見えた現実を。
「この写真が、この世界の全てさ。」
そう言い放つと、手に持った写真は船に乗り飛び立って行った。この世界のどこかに。