第023話 宝杖、聖剣、憑代
「……どうするか、こんな身体ではいい女が居ても抱く事もできない。仕方ない、俺の身体を戻す事を最優先だな。ガキ……いや、ミラベル。この辺りで治せそうな奴は居ないか?」
「知らないです……」
そういうミラベルに舌打ちをして睨んだ。
「使えない奴だ。じゃあ仕方ないな、お前の事から解決していくか」
「私のこと?」
そしてミラベルは美女になったステッカーの目を覗き込む。
「クスクス、お前は俺の物だからな」
スピアが男だった時は下卑たイヤらしい笑みが、美女に変わった事で妖艶な笑みに変わっていた。
様になっている妖艶な笑顔に、ミラベルは一瞬見とれ少し赤くなりながら……俯く。 マリッサがミラベルに向けたような優しい笑顔だな、と思ってしまった。
「マリッサ……」
「……げ」
子供の扱いに長けている訳でもない。むしろ苦手な泣く子供に対してスピアは狼狽し軽く小突く。
「痛……なんで叩くのですか!」
「何となく」
「何となく……!?」
怒れば泣き止むかと思った、という言葉を飲み込み、スピアは続ける。
「マリッサちゃんの仇は取ってやる。だからもう泣くな、鬱陶しい」
確かにスピアの力なら仇は取れるのだろう、と。
「報酬で渡す物がありませんよ?」
金か女と言ったスピアの方を睨むが、スピアはクスクスと笑い、ミラベルの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「お前はもう俺の女(仮)だから報酬はいらん。大きく美人に育った時に十分返して貰うから安心しろ」
「安心できる要素がありませんが」
まあ、と。ミラベルは初めてスピアの前で笑った。
「うむ子供は不機嫌そうな顔をしているよりも笑った方がいい。マリッサちゃんの仇は取ってやる。それに……マリッサちゃんを何とかするあてがない訳でもない」
「え……?本当ですか……?」
あまりの喰いつきに、スピアは少し顔を引きつらせた。
『適当な事を言ってしまったが……まあ良いだろう』
「どうすればいいのですか?」
「魔王の宝杖と勇者の聖剣と邪神の憑代を集めると、なんか……願いがかなったような気がする」
四百年前……宝杖は叩き壊し聖剣を折り邪神の憑代を刻んだスピアは、無い物を言えば集まらないだろう、と軽い気持ちで答えた。
「願いが叶う……宝杖、聖剣、憑代。どれも聞いたことがあります」
魔王の復活を願い宝杖は修復され、勇者の復活を願い聖剣は繋げられ、憑代に至っては毎年作られ邪神に捧げられていた。
思っていたよりも身近な目標に、ミラベルは破顔する。
時間を戻す事もできたりしますか?といいかけてミラベルは口を押さえる。
父も母も、兄も姉も、マリッサも。全員揃っていたあの時まで戻れるなら……
「行きましょう、スピアさん!」
「あ、あー。一応言っておくが最優先は俺を元に戻す事だからな」
「そのままでも……いえ。そのままの方がスピアさんは素敵だと思いますよ?」
「俺はいい女を抱くためだけに生きてきた。いい女になるためじゃない」
山賊のような顔も美形とは言い難い風貌のスピアよりも、誰もが息を飲む美人の今の方がいいと思うのに、とミラベルは口にして小突かれた。




