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スピア・スフィア戦記  作者: 星馴染
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第002話 ゴブリン達の宴

よろしくお願いします

 シプラス王国は人口300万人、いくつもの小国が固まってできた国である。大陸の東部に位置しているこの国は険しい山地に囲まれている。

山地からさらに東に進むと、切り開かれた広い平野部が見える。そこからさらに進むと海があった。シプラス王都は、この切り開かれた平野部の中心にある。

 資源豊富な山には森林が広がり、動植物は多く鉱石、宝石、岩塩が眠っている。

 森に自生している香辛料は栽培が難しく国を超えれば驚くほどの高値となる。

 綺麗な海は綺麗で食用にもできる魚で溢れている。

 平野部は肥沃な土地で、農業についての研究も進んでいた。

 海と山地はそのまま天然の要塞にもなる。

 海の恵み、森の恵み、肥沃な土地の農業によって得られる潤沢な食は、兵士達の身体を他国の兵士に比べ、より大きく、より逞しく変えていた。


まず山地を騎兵で超えるのは難しい。必然的に歩兵中心で山地を乗り越える事になるのだが、無理をして山地を超えたとしても練度の高い恵まれた体格の兵士達を相手に、山越えで食料も尽きた疲れ果てた兵達で勝つのはさらに難しい。

もし奇跡的に勝利したとしても人口が多く補給路の塊のような適地で活動し続ける事は不可能に近い。

大陸の中でも指折りの強国と言う地位には、それだけの理由があるのだ。

 シプラス国は大陸一安全な国だと自国のみならず近隣の国々も思っていた。

 そのシプラスの王族が一人を残し全員処刑され……占領されるまでは。


「ゴブリンだと……?パイソ国があんな魔物を使うとは……!」

「被害はどうなっている!」

大人達があわただしく動いている中、ミラベル=シプラスは手にした熊の縫いぐるみを抱いてぼんやりと眺めていた。

金色の柔らかそうに輝く肩までの髪に愛らしい顔立ちをしたその少女は十歳という年齢通りの小さな細い体躯に、その身体よりも大きな熊の縫いぐるみを胸に抱きしめ、いつもよりも騒がしい王宮の様子を不思議そうにじっと眺めていた。


シプラス王国はパイソ国に宣戦布告を受けた。ちょっとした小競り合いのようなやり取りが何度か続いた後、強引に開戦したパイソ国。近隣諸国はシプラスの勝利を疑わなかった。国力が違う、人の数が違う、兵の質が違う。

名馬にロバで競争を挑むような物だとパイソ国を笑っていた隣国はパイソ国の初手の狂気に恐怖した。

シプラスにゴブリンを放ったのだ。

数年前に小さな村の若い女性が十人ほど行方不明になる事件があった。

「なに、治安がいいとはいえ、多くの人が生活をしていればこういう事件はいくらでもあるものさ」

そう軽く考えていた治安維持官を責める訳でもないが、本格的に捜査を行っていれば、最悪は逃れる事が出来たのかもしれない。

女性達がどうなったかと言うと、シプラスの人があまり入り込まない山地部の奥にゴブリンと一緒に放された。身動きが取れないように足の腱を切られて、である。


本来はヒトを恐れ近づくと逃げるゴブリンも、動けない少女達が苗床として提供されたと理解した後に、繁殖行為を始める。

「た、助けて……」

おびえる少女達に山地部の森の奥で悪夢のような繁殖行為を続け、数年が過ぎた。

森の恵みにより、飢えて死ぬ事は無く

家畜のようにただ生かされゴブリン達との繁殖をしいられる。


ゴブリン達は増えていく。


女性達は正気を失う者もいたし、自ら命を断とうとした者もいた。

増えたゴブリン達に乱暴に扱われ死んだ者もいた。

苗床にされた女性達は一人死に、また一人死に、また一人。

少しずつ苗床にされた女性は数を減らしながら、数年かけて二千人近くのゴブリン達の群れをつくる事になった。


目に見える最後の森の恵みをあらかた食い尽くし、木の根を掘り返し食べ、最後に食べ物が無くなった時、ゴブリン達は自分達を産んだ母親達に向けて一言だけ吠えた。次にゴブリン達が彼女達を見る目は、『食料』を見る目になっていた。

「あああああ」

 狂いそうな中、正気を保ち続けた最後の苗床は、ナイフを首にあてられて食料になった。


 食料も苗床も無くなったゴブリンは、人を恐れる性質ながらも二千人近くの仲間達で励ましあい山を降りていく。

百万人。ゴブリン達にとっては百五十万匹の食料と百五十万匹の苗床が居るシプラス国へと向けて、ゴブリン達は歩き始めた。


読んで頂きありがとうございました。

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