第019話 そしてスピアとステッカーは封印される
第019話 そしてスピアは封印される
勇者、魔王、邪神憑き。
三人がスピアに斬られた。戦いにすらならなかった。
邪神憑きが張った結界はスピアの産み出す威力を吸収できず消滅させられた後、叩き潰された。
魔王の魔法は全て届く前に大剣に阻まれ身体を上下に断ち切られた。
勇者の剣は叩き折られ、なすすべなく身体を縦に両断された。
その後は蹂躙である。追い払い相手の最強のカードを軒並み潰し、山地部を平定した後……。
「よし、これでステッカーちゃんはもう俺の物だな?」
「……その原因もスピアさんが作ったけどね」
山地部の姫達にとっては好意的に受け止められていたスピアも……
「無理……。あんなのを毎日とか死んじゃうから……」
山賊のような荒々しい夜の営みでまるで玩具のように好き勝手に扱うスピアに疲れ果てたようにうなだれた。目には涙の跡が赤くなっていた。
「生理的に無理だ。快とか不快とかそういうのを超越して無理だ」
そしてステッカーはそっと……。
「……グガ」
満足そうな顔で眠っているスピアをそのまま封印した。
「ごめんなさい……でも、でも無理だから、本当にごめんなさい」
ステッカーはその一回で子供を授かった。ステッカーは頬を引きつらせながらも、その子供を育てる事になる。
「スピアさんに似ませんように、スピアさんにだけは似ませんように……」
そして二年が経った。自分に似てくれた子供と遊んでいる所へ……
「封印が解かれそうです」
ステッカーにとって最悪の報告が上がって来た。
「……ど、どこの封印かな?私も色々封印してきたけどね。あぁ、あの城下町にいる地縛霊の封印かな?そういえばあの封印って少し弱い魔法でかけたから」
「残念ながら……あのスピア様の封印です」
「現存する中で一番強い邪神でも千年単位で抑えられるレベルの封印のはずなんだけど……」
「しかし、実際に封印が解かれかけており……」
もし解かれたら……?
『約束を破るのは許さないからな?』
暴れるだろう。
山地部の小国と部族を潰し
勇者、魔王、邪神憑きという何れかが居ても世界に覇を唱える事ができそうな存在、それも全員をまとめて一人で圧倒的な力で倒したアレが……
シプラスに牙をむく……?
想像にステッカーは青くなり、震えた。
生贄による封印、という物がある。
尊い血筋であればあるほど効果が上がり、
魔力を持っていれば持っているほど効果が上がり
その存在が惜しまれれば惜しまれるほど効果が上がる。
ステッカー=シプラスは王族で大陸一の学府を首席卒業した英才である。
魔力保有量も現世界でトップクラスであった。
「私を贄に封印するしかないよねえ。まぁスピアさんに身も心も尽くすって言ってしまったし、責任を取ろうと思う」
「謝るという手もありますが。スピア様はステッカー様に執着しておりましたし、謝れば許して貰える可能性が高いと思いますが」
「……うん、ますます私を贄に封印するしかないよね」
あんな目にあうなら死んだ方がマシだ、と。
そして惜しまれながらステッカーはスピアの元に共に贄として封印された。
=== ===
「マリッサちゃんはどこだ?」
ミラベルを肩に乗せシプラス城を歩く。
飼われたゴブリン達は死を恐れずスピアへと飛び込むが、剣を振るうまでもなく殴りつけるだけでケーキのように潰れていく。
「ひぃぃぃ、バ、バケモノ!」
「お……?」
少し豪華な鎧を着ていた兵士の首を掴み、持ち上げる。
「おい、ここに俺の女のマリッサちゃんが居るはずだが、知らないか?」
「し、知らない。助けてくれ!」
「じゃあ要らん。くそ、あの偉そうな奴を残しておけばよかった」
力を込めて潰そうとした時に、
「ま、待て。地下だ、地下室に居る!助けてくれ……命だけは助けてくれ」
「お、グフフフ。やるではないか、グッドジョブ!」
スピアが笑うのにつられて笑う。
「で、では命は助けてくださりますカッ!?」
「解ったから、もう要らん」
力を込めて兵士の喉を潰し、首を折り兵士を壁に向けて放った。
「地下だな。よし、マリッサちゃんを助けに行くぞ!」