第018話 ステッカーの約束となまくらの剣
開いて頂きありがとうございました!
最近、体調を崩し気味です。昨日更新できなかった分、気持ち多めの文字数で。
現シプラス山地……四百年前には小国や小部族が乱立する地域であったが、その山地部に面する三つの国があった。
シプラスが大陸の東端に位置しているが、そこから西へ進むと小国・小部族がクラス山地部があり、さらに西に進むと三国が並んでいた。
北側にはバシーク国
南にはコボラ国
その二国に挟まれるように、中央にはフォトラ国があった。
三国の国力はどれも同じくらいであったが、山地の小国群や部族群の侵攻にどこも頭を抱えていた。蛮族達は秋になるとシプラス国にしてきたのと同じく、バシーク国、コボラ国、フォトラ国へと侵攻していた。
「「「あの蛮族共……」」」
バシーク国、コボラ国、フォトラ国は蛮族から国を守り、さらには隣接する国に対してのカードを求めた。魔王召喚、勇者召喚、邪神信仰。方法はそれぞれ違ったが、彼らはカードを得た。
バシーク国は魔族と呼ばれる亜人を優遇し、彼らの王、魔王の協力を得る事が出来た。
フォトラ国は神に祈り常人よりも力を得た勇者を産み出した。
コボラ国は邪神を崇拝し、祈りを捧げ邪神の憑代を作り出し宿らせる事に成功した。
勇者、魔王、邪神、とファンタジーチートな三つの存在で、山地部を攻めた。
「自業自得って奴だね」
ステッカーは山地部の国々が攻められる所を見て苦笑いした。
「スピアさんが叩いたから戦力も落ちているし、山地部の国々は滅んじゃうかな」
侵攻する物は侵攻される覚悟が無いといけない。
長年に渡って侵攻したんだ。山地の小国や部族は私も悩まされていたし、まあ自業自得だよね、とステッカーはそう考えていた。
「シプラス国にバシーク軍が現れました」
「……だよねぇ。使者を送って……山地の小国とシプラスは関係ないと伝えないと」
シプラスも侵攻側だと思われてはたまらない、と誤解を解こうと、降伏勧告にやってきた使者と会うも……
「馬鹿にするな!調査もしている!シプラスではその侵攻されている部族や小国の王族を匿っているはずだ。それで関係ないと言うつもりか!」
「……え?言いがかりをつけるのもやめ……すまない、少し失礼する」
まさかまさか、とステッカーが城に割り当てられたスピアの部屋へ入ると。
「グフグフ、みんなで裸になって俺の周りに集まれ!」
「きゃぁ!スピア様のえっち!」
「スピア様、抱いてくださいまし!」
山賊のような風貌はワイルドに。
荒々しい性格も男らしさに。
イヤらしい顔付きも愛ゆえに。
好意的に拡大解釈されたスピアは……蛮族達の姫に大人気だった。元々、山地部の小国・部族は何よりも強さを尊ぶ。危険な魔獣や魔物、大型動物が住む山地部では、線の細い女性的な美しい顔立ちのイケメンは蔑みの対象であった。
山賊のような薄汚い服に武器とも言えないような鉄板を持った蛮族オブ蛮族のスピアは、山地部の姫達にとって好みのタイプだった。
「次はお前だ、さぁ近くに寄れ!」
全員が裸で太陽も高いうちから酒を飲み、十数人の姫達と共に痴態を繰り広げるスピアに……ステッカーはキレた。
「スピアさん!?何してるのさ!?」
「ステッカーちゃんか。混ざるか?」
「混ざらないよ!それよりも、なんで山地部の人達がこの国にいるの!」
「まぁ落ち着け、ステッカーちゃん。彼女達は戦利品だ」
「……戦利品?」
「山地部を抑えたのにステッカーちゃんがなかなか抱かせてくれないのが悪いんだぞ?色々と溜まっていく毎日、俺に惚れたという可愛い女の子達が来たら受け入れるだろう?」
「国の騎士が敵国の人間を受け入れてどうするのさ……って、ちょ、ちょっと!?ここに居る人達全員小国でそれなりの身分の人達だったと思うんだけど?」
「一番の美人を一人ずつ出させた。グフグフ、みんな王族らしいぞ?」
ステッカーは頭を抱えた。
「どうするのさ……このままだとバシーク軍が攻めて……」
「……でもなぁ。ステッカーちゃん前回の山地部の侵攻を抑えた時のご褒美も踏み倒されたし……彼女達もいるしなぁ」
「……もういい。スピアさん抜きでやるから」
そこへ慌てた様子のシプラス国の文官が入ってくる。
「ステッカー様!バシーク国だけではなく、フォトラ国、コボラ国も現れました!それぞれが勇者、魔王、邪神憑きと言った人物を連れており……」
邪神憑きにより張られた結界に近づく事もできず
結界の外側から勇者と魔王の圧倒的な魔法と剣技により一方的な殺戮が始まっている、と。
「……あの、スピアさん?」
「ん、どうした?今回は俺抜きでやるんだろう?俺は彼女達と薬師ゴッコをしようと」
「助けてください……」
ステッカーが頭を下げた。
「でもなぁ、ステッカーちゃん前回の侵攻を止めた時のご褒美も貰ってないしなぁ」
「バシーク、フォトラ、コボラをとめられたら……私をスピアさんの物にしていいから……一生、身も心も捧げるから……助けてください」
「一生か。助けるというのは具体的に言うと?」
「……追い返して。勇者と魔王と邪神憑きを全員倒して、山地部を取り返して兵を置き、シプラスが攻められないような状態に」
「約束を破るのは許さないからな。よし、解った任せとけ。ステッカーちゃんは、お風呂に入って身を清めとけばいい。しっかり洗っとけよ?」
「どこを……」
邪神憑き、魔王、勇者。蛮族という共通の敵を止めた三国の切り札達が蹂躙する中、一人の男が現れた。
赤茶色の錆鉄のような色をした髪は短く刈られ獅子を思わせるようだった。
身体が他より目立って大きな訳ではない。筋肉質で鍛えられてはいるが、騎士としては平凡の枠に収まる程度の身体つきに山賊と言われても納得してしまいそうなボロボロの冒険者服を身に纏っていた男は、彼らを見てニタリと口角をあげた。
「山賊の生き残りか、蛮族の生き残りか」
魔王が放つ魔法を鉄塊の大剣で受け止め、一歩ずつ近づく。
「ぬ、小癪な」
魔王がいくら魔法を放っても、その男の前でまるで消滅するかのように掻き消える。スピアは単純に大剣を振り魔法にぶつけているだけだった。
一発で百人近くの命を奪う大規模な炎も爆発も全てが掻き消えていく。大剣を振り魔法を叩くというシンプルな動きで。
「そんなバカな!信じられぬ!」
次に勇者が飛び出した。神から与えられた剣技を磨き続け、勇者として認められたその実力は一騎当千。スピアよりやや一回り高い身長に、一回り大きな筋肉と身体を使って、スピアに切りかかった。
その手に持っていたのはフォトラ国が神より与えられた神剣。
祈祷したオリハルコンを重ね折って作った世界でもっとも頑丈な金属で作られた剣、である。
少し力を加えてやれば岩に自重で刺さり、選ばれた者でなければ抜けない、という伝承は、その常人では持つことすらできない質量から来ている。
決して折る事もできないような高密度な金属の剣がスピアに迫る・
ステッカーは以前のスピアの話を思い出していた。
『スルキヤでは特殊な鉱石の金属で武器を作り、はじめて一人前として認めても
らえるらしい。武器を作ったら報酬にその武器をあげるから、と材料集めを手伝
わされた』
『集めた後、巨乳美人鍛冶見習いちゃんは能力不足で武器を作れなかった。どれ
も武器とは呼べないなまくらになった』
『次は成功させるから、次は、次は、となまくらの剣を十回ほど作った後、さら
におかわりの素材を求められた』
『どうしても諦められないというから、俺がアイデアをあげた。今までのなまく
らをまとめて一本の大剣にしたらどうだ、と。多少切れなくても重さで潰せるだ
ろうし、長い板にして持ち手を削り出せば大剣っぽく見えるんじゃないか?それ
くらいできるだろう、と』
スルキヤはオリハルコンの産地だ。比重が高く頑丈な剣が作れるが、打った剣はものすごく重くなる。選ばれた者にしか使えない、と言われる程に。
加工する事が難しいオリハルコンを武器の形に整える。それだけでも一人前として認めてもらえる程だ。スピアは作られた剣を『なまくら』と言っていた。
剣の形にはなっていたのだろう。金属の密度が高いオリハルコンが剣になっているのに『なまくら』になる事などあるのだろうか。
加工が難しいオリハルコンで剣を十本も作れる人間が、それらを全部まとめて作った鉄板……十本のオリハルコンの剣をあのサイズにまでするとなると……
スピアが不格好な大剣、鉄板を振り神剣に打ち付けた。
勇者は嘲笑った。どんな剣でも叩き壊す世界一頑丈な神剣と打ち合おうとは。
しかし、振り切った後、いつもと違う第六感、死の直感を感じて勇者は後ろに飛びのいた。
「……ば、バカな!?嘘だろ……!!」
スピアの一振りで勇者の剣は叩き折られていた。
「俺が前に貰った剣よりも脆いな」
そして神剣を持った勇者を指して笑った。
「ひでえ『なまくら』だ。ハズレ掴まされたな」
読んで頂きありがとうございました!