第016話 希望の封印の中身
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何が封印されているのだろう、魔王か邪神か。そしてマリッサの惨状を見てなかば自暴自棄に解いた封印であったが、ミラベルは国が滅ぶとまで言われたその封印に少しだけ期待をしていた。
『もしかしたら今の状況を変える事ができるかもしれない』
『もしかしたらマリッサを助けられるかもしれない』
どちらにせよこのまま待っていても国は滅ぶ。ならいっそ、と解いた封印であった。
だから現れたのは山賊のような格好の人物を見て、肩を落としたのも仕方がない事ではあるのだが肩を落とされた側の男、スピアはやや心象を悪くした。
「おい、ガキ……ステッカーちゃんはどこだ?山地部を統一したら俺に一生身も心も捧げる、という約束のはずだが?」
「貴方様はどなたでしょう。邪神様でしょうか、魔王様でしょうか」
「邪神?魔王?ぐふふふ、おかしな事を言うな。俺はシプラス国の騎士、スピア様だ。お前こそ何者だ?」
封印を解いたのに、現れたのはただの粗野な騎士……山賊のようにも見える男だった。その事にミラベルは顔を手で覆いずっと張ってきた感情の糸が千切れたようにボロボロと涙を落とした。
「うわぁぁぁ、マリッサ……ごめんなさい」
「ちっ……なんだこのガキ。いきなり泣き出しやがって。ここはどこだ。ステッカーちゃんはどこにいるんだ」
むんずと猫を持つようにミラベルの首を持つと、ミラベルはいっそう激しく泣き出した。
「ん、なんだ?この洞窟の前に数十人くらいいるな。もしかしてこのガキを追っているのか?面倒だな、さっさと引き渡してステッカーちゃんを探すか」
その一言でミラベルは泣きやみ、恐怖に震える。
「う、嘘言わないでください。そんなに速く見つかる訳がありません」
「魔力の残滓がある、とか言ってるぞ?あ、何か隠匿の魔法が解かれたみたいだな」
魔力の残滓もマリッサと繋げた時の物であった。
覚えはあったが、ミラベルは絶望的なその状況を信じたくなかった。
「よし、お前を引き渡してステッカーちゃんを探すか。グフフフ」
「ま、待ってください。私はミラベル=シプラス。シプラス王国の王族です。ステッカー様と血のつながりがあります!本当にあなたがシプラスの騎士だと言うなら手を離してください!」
「……嘘付け、と言いたいが。確かに顔はステッカーちゃんの面影があるんだよな」 どうしたものかと歩き回るスピアに、ミラベルは一つ思いついて声をかける。
「あの、スピアさん……」
スピアの実力によってはここから逃げ出せるかもしれない。
もしかするとこっそり城に忍び込んでマリッサをうまく連れ出せるかもしれない。そう思い直して、スピアを見る。
邪神や魔王という力はミラベルに必要なかった。
マリッサを助けられるだけの力と追っ手から逃げられるだけの力があればいいのだから、とミラベルは改めてスピアを見た。
山賊のような厳めしい顔も頼りがいがあるではないか、とミラベルは自分を納得させる事にした。
「外に兵士がいる、と言うのは本当ですか?」
そう言うとスピアは目を閉じて言った。
「気配から考えると30人くらいでここを囲んでいるみたいだな」
「……あの、スピアさんの力ならここから逃げられますか?」
「ん、ここから逃げたいのか?」
コクコクとミラベルは顔を縦に振る。
「俺にかかれば簡単だな」
自身溢れる回答にミラベルは目を輝かせる。
「あの、シプラスの城にマリッサ……私の侍女が捕まっているのです。できれば、マリッサも助けてほしいのですが、マリッサも助けられた理しますか?」
「俺にかかれば簡単だな。……お前の侍女とか言ったな。美人なのか?」
「美人です!マリッサはものすごい美人で優しいです!」
「……グフフフ、そうか。解った、じゃあ助けてやろう。ここからガキを逃がす報酬はステッカーちゃんにあわせること。マリッサちゃん、とか言う侍女を助ける報酬は……どうするかな」
「マリッサを抱かせろ、とか言わないのですね?」
「いや、俺が助けたら女の子は俺に惚れるから、それは報酬じゃないだろう」
空中で何かを揉むような動作をするスピアに、ミラベルは告げ、一呼吸整えて口を開いた。
「私はどうすればいいでしょうか?作戦を教えて下さい」
「作戦……?何の話だ?」
「だってたくさんの兵士に囲まれてるんですよね?もしかきてスピアさんは魔法で転移できたりするのですか?」
「転移かぁ。できるがやると疲れる。それにここがどこか解らないからまず外に出ないと転移もできないだろう」
転移と言うのはおとぎ話に出てくるような魔法である。そんな事できないでしょう?という皮肉でミラベルは言ってみたが、できると言う答えに目を丸くした。
「報酬、何にするべきか。あ、何だか入ってきそうだな。近くで騒がれると交渉の邪魔だし、ちょっと追い払ってくる」
そう言いスピアは背中に背負った鉄板を掴み、外に出ようとする。
追いかけようかと迷っているうちに洞窟の外から声がした。
「もういいぞ。後は楽に逃げられるだろ。じゃあ最初の報酬だ、ステッカーちゃんに合わせろ」
そしてミラベルは洞窟から出て、辺りの惨状に目を見開いた。
「先にマリッサをお願いします!マリッサは拷問を受けていて、間に合わないかもしれないのです!」
「じゃあ先にそっちからでいいか。おいガキ、俺に掴まれ」
「ミラベルです。ガキじゃありません!」
「……ミラベル、俺に掴まれ」
言い直すあたり、外見ほど悪い人間ではなさそうだ、とミラベルは安堵した。
「掴まる?何をするのですか?」
「いや、大体位置が解ったし、急いでるんだろ?転移するぞ」
ミラベルは逃亡生活から久しぶりに笑った気がした。
「はい」
マリッサが助けられるかもしれない、という期待をこめて
ミランダは封印されていた希望……山賊のようなスピアの手をしっかりと握りしめた。
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