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スピア・スフィア戦記  作者: 星馴染
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第015話 王女ミラベルの迷い

「……マリッサ?」

 酷い有様のマリッサに、ミラベルは恐る恐る声をかける。

弾かれたように顔を上げるマリッサの顔を確認し、ミラベルは目に涙を浮かべ、震えながらマリッサにごめんなさいと続けようとした。

「ミラベル様、魔法を止めてください!」

ミラベルは強い声に弾けるように魔法を止める。

魔法を止めてもボロボロになっているマリッサの姿が頭に焼き付き離れなかった。

「あぁぁぁぁ……マリッサ、マリッサ……」

あれだけ綺麗だった顔の耳を削がれ鼻を削がれ……殴りつけられたのか片目は開かないくらい腫らし、手足が曲がらない方向に曲げられ、指は潰されていた惨状に、ミラベルは震えた。

無事な所が無いほどに痛めつけられたボロボロのマリッサを思いミラベルは涙をポロポロと落とした。

『ありがとうマリッサ。森にお茶の葉とかは無いでしょうか?もしあれば、久しぶりに紅茶を飲みたいです』

『お茶ですか?あれば……摘んできますね。ミラベル様は絶対に出ないでくださいね』

 紅茶が飲みたい、という我儘を言ったからだろうか……。自分の我儘のせいでマリッサが捕まってしまったのだろうか、とミラベルは涙が止まらなかった。


 マリッサを何とかして助けなければ、と思うも……

「でも、どうすれば……」

無力さに歯を強く噛み締めた。私に力さえあれば、と叫ぶように嘆くミラベルに、封印された石が目に入る。


『……マリッサ、これを解かなくても私は生きられると思いますか?』

『そのような物に頼らなくても、ミラベル様は私が命に代えても守りますから』

「間違えていました」

ミラベルは自嘲した。

「……マリッサ、これを解かなくても私達(・・)は生きられると思いますか?」

ミラベルは誰も居ない空間に、呼びかける。

「ここにマリッサが居ませんし、私は生きられるかもしれないけれども、マリッサが生きられないのなら解くしかないですよね」

「邪神?魔王?初代シプラス王、ステッカー様の遺言?シプラスが滅ぶかも?」

ぐにゃりと顔を歪め、ミラベルは残っていた封印を解く。


今以上に悪い事が起きるなら起こしてみればいい、と。

ミラベルが最後の封印を解くと強い光が発され、収まった時にそこには……


「ん……」

一人の男が居た。

赤茶色の錆鉄のような色をした髪は短く刈られ、やや怖そうな相手をい竦めるような目は獅子を思わせるようだった。

 筋肉質で鍛えられた身体に山賊と言われても納得してしまいそうなボロボロの冒険者服を身に纏っていた男は、粗野な印象を受けるぶっきらぼうな顔で一つ大きなあくびをする。

 大剣、というには不格好な鉄板に取っ手だけをつけたようなモノを背中に抱えた男はミラベルを見て、グフグフと怖気が走るような笑みでミラベルとの距離を詰める。

「良く寝た気がする。ステッカーちゃん、ここはどこだ?約束を全て果たしてステッカーちゃんと楽しもうとした所で記憶が途絶えているんだが」

 ミラベルは冒険者服のあくびに毒気を抜かれ呆然とした。

 邪神か魔王かと構えていたら、ただの山賊……いや、山賊のような男が出てきたのだから。

「ステッカーちゃんは、なんだかずいぶん小さくな……こらガキ。お前は誰だ、ステッカーちゃんの面影があるが親戚か?ステッカーちゃんはどこだ?」


=== ===

 パイソ兵達が洞窟前に集まっていた。

「解くぞ!」

 兵が隠匿の魔法を解除すると岩に洞窟が現れた。

「こんな事に隠れていやがったのか」

 舌打ちする兵士の肩を叩き、まぁこれで終わりだと別の兵が楽しそうに言う。

「これでやっとパイソに帰れるな。後は王女様をゴブリンと交わらせて奴隷紋を刻み、引き渡して終わりだな」

 一匹のゴブリンがパイソ兵達についてきていた。

 ゴブリンは基本的にヒトの言う事を聞かない……が、このゴブリンは別だった。アルファと呼ばれるこのゴブリンは、ヒトに従うと美味い餌とメスを与えてくれる事に気付き、従ってきたのだった。


「美人だったらもったいないけどな」

「美人って、ガキだろ、十歳くらいって聞いたぞ」

「十歳くらいなら、俺はいけるぜ」

 十歳くらいの少女一人に、兵士を三十人。ここまで囲めばすり抜けて逃げるという事もできないだろう、という人数で集まった兵士達が、まだ取らぬ王女を肴に笑う。

「よし、休憩は終わりだ。王女を捕獲するぞ」

 そして王女を捕獲するために洞窟に入ろうとした一人の兵が、頭から縦に二つに両断される。

それを見て別の兵士が剣を抜き走り出す。

「誰だ!貴様は!」

 山賊のような男が大きな鉄板を持って、立っていた。

「男はいらん」

 そう言うと兵の身体が横に両断される。

「な、魔法か!」

 そう言うと、魔法を使える兵が首を横に振る

「魔力反応はありません!」

「剣も持たないで人の身体を両断できるか!」

 刃すらついていない鉄板は剣と見なされなかったようで、兵達がどよめく。

 もの凄い威力の鉄板が、ものすごい速度で振り回され、両断される、というファンタジーを誰も信じなかった。

「ガキと交渉中だ。どっかいけ」

しっしっと追い払うような真似をする男に、兵がまた切りかかり両断される。

残った兵達が怯えて逃げるのを見て、山賊のような男は洞窟に声をかけた。

「もういいぞ。じゃあステッカーちゃんに合わせろ」

 そしてミラベルは洞窟から出て、辺りの惨状に目を見開く。

「ほ、本当に倒しちゃったんですか!?」


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