第014話 侍女マリッサ
失敗したとマリッサは何度も後悔をした。
気を抜くべきではなかった。
そして自分が捕まった後、ミラベルはどうやって生きるのだろうか。
罠の作り方を伝えておくべきだった。
毒の有無を見分ける方法を伝えておくべきだった。
もっと……ミラベル様と一緒に居たかった。
「こいつが最後の王女に付いていた侍女か」
パイソ国の将軍は兵士に手枷を付けられたマリッサに目をやり、顔を顰めた。
「煩わせおって……」
そしてマリッサの顔を張る。将軍にとっては、殴りつけるでもなく優しく顔を張ったつもりだった。
マリッサは侍女の中でも力がある方ではあったが、男女の違いに加えて現役で軍属の将軍の張り手に、マリッサは奥歯を折られ意識を失う。
「連れていき王女の居場所を吐かせろ」
そうパイソの将軍が兵に言付ける。立ち去ろうとして……顔を張った時に垣間見えた、マリッサの薄汚れながらも整った顔立ちを思い出し、待てと止める。
「拷問は明日からだ。今日はその薄汚れた女を水で洗い、夜になったら俺の部屋に連れて来い」
そして兵士達がマリッサに対して下卑た笑いを浮かべる。
「明日は俺達が相手してやるよ、明日だけは優しくしてやる。明後日までに王女の居場所を吐けば、俺達専属の奴隷にしてやってもいいぜ」
マリッサの身体を撫でまわしながら、兵士が歪んだ顔をマリッサに向けた。
「……下種ですね」
冬前の少し肌寒い中、湯を使うどころか、飲み水を使う事すら勿体ない、とシプラス王城の堀にある貯め水で乱暴に身体をあらわれる。
透けているような薄い衣装を着せられ、手枷と足枷を付けられたまま、将軍の部屋へと届けられる。
将軍はマリッサの肢体を余す事なく楽しんだ。
侍女はその時代、その国にもよるが、対外的には主人に並ぶ地位が伴う、もしくは伴っている場合が多い。
ヨーロッパでは侍女というだけで騎士爵位に準ずる地位が与えられ、対外的に主人の命令で動く場合は主人に準ずるような地位として扱った。
王女付きの侍女ともなれば、下手な上級貴族でも無下には扱えないほどのお姫様である。
日本でも武士階級扱いとされ、天下に轟く人物の侍従に至っては、全てが大名となっていたりする。
現代日本でも偉い人の傍で指示に従って走るような人間はそれなりの地位を持っている。
大病院の院長が出てくるドラマで傍に侍る医者は外科医長だったり内科医長だったりする。
身動きができないマリッサに、今までの鬱憤をはらすように、パイソの将軍は薄汚い欲望をマリッサにぶつける。
自分自身が穢されている事よりも、王女付きの侍女、対外的には王女殿下に準ずるような扱いをされるべき自分が、侵略者の慰み者にされている、という事にミラベルが穢されているような嫌な気分を覚え……マリッサは呻くように泣く。
二日目の朝からは兵士達全員でマリッサを慰み者にする。
三日目はゴブリンや狼を押し付けられ、マリッサと交わらせる所を見ながら、兵達が下品に囃し立てる。
ミラベルの居場所を吐かないマリッサに痛みによる拷問が開始された。
拷問官がマリッサの身体に針を刺したり、槌で骨を砕いたり、鋏で少しずつ切り刻んだり、とミラベルの場所を吐かせるよう続ける。
「ぐうぅぅぅ……」
痛みに動物のような呻き声をあげるマリッサを見ながら、拷問官は溜息をついた。
「王女の居場所は吐いたか?」
「全然喋らないな。呻くだけだ」
「気が触れたか」
そこへ……遠隔地の人物の姿を見る魔法が展開された。光がマリッサの周りへと集まるのを見て、マリッサは絶望に声を上げた。
「あ……あぁ……」
兵士達がマリッサの口をふさぎ黙らせる
「……マリッサ?」
ミラベルの声にマリッサは力を振り絞り身体を揺する。口を抑えた手が外れてすぐ、マリッサは大きく息を吸い込み叫んだ。
「ミラベル様、魔法を止めてください!」
ミラベルが呆然とマリッサの惨状を見る。
目に涙を浮かべ、ごめんなさいとミラベルが謝る所に
「これを切りなさい!速く!」
畳みかけるようにマリッサは強めに叫んだ。
そしてミラベルは魔法を閉じた。
マリッサが震えながら、兵士達の声を聴こうと耳を立てる。
お願いします、どうか……、神様……
だが、このマリッサの祈りは通じなかった。
「探知に成功した。ここだ」
「岩しかなかったぞ」
「隠匿の魔法がかかっているかもしれない、魔法を解ける者を連れていけ」
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