第012話 シプラス国
開いていただきありがとうございました!
次の話からまた現代へと戻ります。
「冬まで待っていられるか!もう辞めだ!」
スピアはその日、シプラスを離れようと馬を駆った。シプラスは山地部と海に囲まれた国だ。船での移動は高価であるが、時間がかかり楽しみも少ない。
以前のように山地部にでも籠って通りがかった奴らを襲うか、と山地部に向かっていく所で、再び山地部から兵士達が降りて来ているのが見えた。
「……」
こいつらのせいでステッカーを抱けなかった、と舌打ちして憎らしげに兵士達を睨みつける。
「あんないい女を抱けないなんて、本当についてない。あいつら弱い癖に兵士を分散させずに一気に攻めてくれば、ズバッと倒して解決し……」
スピアは愚痴の中で、ふむ?と考え直す。そしてニヤリと笑って、山地部の兵士達の元に向かう。
「おい、お前ら」
無言で長槍をこちらに向け威嚇し、囲もうとする兵士に、スピアは大剣を横薙ぎに振り回し、兵士達を十人ほどまとめて切り飛ばした。
「お前らの中で一番偉い奴を出せ。一分遅れたら一人ずつ斬る」
十分後、二十人の兵士の亡骸がスピアの周りに飛び散っていた所へ、部隊長を任じられた男が出てきた。
「なんだこれは!?」
そしてスピアは大剣を振り、二十一人目の兵士を叩き斬る。
「一分に一人差し出せばいいと言っているのに、切られたいのかたまに飛び込んでくる奴がいるんだ」
何を言っているのか、部隊長は理解できなかった。
「正当防衛で叩き切った。一分に一人の人質とは別計算だから、命を無駄にするなと伝えた方がいいぞ。グフフフ」
そう言っているうちに一分経ったのか、またスピアに一人の兵士が切り飛ばされる。
「私はここに来ているじゃないか!なぜ斬った!」
「お、すまんな。お前が一番偉い奴だったか」
そう言うとスピアは部隊長の前に座り、要望を伝えた。
「シプラスの侵略を辞めろ。一番偉い奴ならできるだろう」
「できるか!あれは王が決めているのだ!私は部隊を預かる責任者であって決めるのは王……」
そう叫ぶ部隊長に最後まで言わせず斬り飛ばした。
「俺は一番偉い奴を連れて来いと言ったはずだ。ほら、早くいけ。騙されて気分が悪いから、これからは一分遅れたら二人ずつ斬ってやる」
「王は国におります、そこまで案内します。兵士をいたずらに斬るのは許してください」
その兵士は国へとおびき寄せるつもりだった。
下手に出て国におびき寄せ、全兵力を向ければこの男が勝てる訳がない、と。
「わ、私がこの国の王でございます……」
「うむ、シプラスへの侵略を辞めろ。一番偉い奴ならできるだろう?」
「も、もちろんでございます。もう我が国には戦える者はおりませんので、どうかお許しを」
「よし、それならいい」
この国の王女の犠牲により、スピアの機嫌は良くなっていた。
虚ろな目で倒れている王女を横目で追い、王は震えた。
「ほかの国だとかほかの部族だ、という言い訳は無しだからな?」
「それは勿論で……え?」
「よし、終わった、帰るか。もし嘘をつかれたら今日みたいに優しくはしないから、ちゃんと約束は守れよ」
そう言うスピアに青褪め、王が止める。
「お、お待ちください!他の国に口を出せる程の力は……」
「なんだ、交流は無いのか?」
「交流はありますが、あくまでも対等の関係ですので」
「面倒臭いな。仕方ない、とりあえず集めろ。俺が交渉する」
「し、しかし集めろと言われましても、全部の国や部族を集める事はできないと思いますが」
「来なかった国や部族の場所を案内しろ。そこを全部潰して無くせば全部の国と部族が集まった事になるだろう」
無茶苦茶だ……、と最初の被害者になった王は頭を抱えた。
もういい、それなら集めてやろう!と手紙を持たせた鷹を飛ばした。
共通の敵……共通の大事な略奪相手を持つ山地部の国々は割と交流がある。
シプラスを攻めているうちに他の山地部から攻められるという事がない程度には、山地部の国々は仲間意識を持っていた。
喰いつくさず。生かさず殺さず。シプラスから甘い汁を吸い続けた国々の王達はスピアの首を狙い暗殺者を向け、兵士達で潰そうと囲み、勇敢に戦った。
「これで今残っている国の偉い奴は全員だな?」
「はい……」
一騎当千。いや、一万の人を集めてもスピアには勝てない、と悟った国々の代表者達が腰を折り、頭を下げる。
獲物を狩り危険な動物から身を守れるような……山という環境に鍛えられた山地部の国々の強兵たちがかかっても勝てなかった。
矢は刺さらず、魔法も効かず、呪術の類も効かない。
毒を飲み喰いしても平気な顔をしておかわりを要求する。暗殺しようとしても野生の勘なのか、あっさりと気付かれ返り討ちにされる。
大剣を振るえばどれだけ防具を固めても紙の鎧、紙の盾のように引きちぎられる。伝え聞く『勇者』や、『魔王』をぶつけても不安になるような理解の範疇を超えた強さのスピアに……山地部の王達は心の底から『無理だ』と悟った。
『種』が違う……、と。
「よし、お前ら……集まったか?これからシプラスへ向かうぞ」
やっとステッカーが抱ける、と楽しそうにしているスピアと対象的に、青褪めた顔でついていく山地部の王族達の集団が、ゆっくり山地部を降りていく。
シプラスは略奪に悩まされる力の無い小国から山地部の国々を併呑した。
山地部の国々の強さは、山地を超えた近隣国からも恐れられていたため、それらの勢力を併呑したシプラスは、以後正式な国として認められるようになった。
その国は四百年近く栄える事になる。
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