第011話 侵略の騎士スピア
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「グフグフ、ステッカーちゃん俺の活躍を見たか?これでもう攻められないだろう」
山賊のような薄汚い恰好の騎士……スピアが肩に手を回そうとするのを弾いてステッカーは言った。
「……うん……強かったねえ」
「そうだろう、そうだろう!」
強かった。確かに強かったが、なぜあんな事ができるのかが全く解らない理解不能な強さは、現実で見ても騙されているのではないかと思えるくらいだった。
街全体を包み込む幻覚魔法の方がまだ納得できるくらいだ。
「抱かれてもいいって思えただろう?俺が一番活躍したようなものだろう。つまりステッカーちゃんはもう俺の嫁で、俺は抱く権利が。ステッカーちゃんは抱かれる義務があるだろう」
『今年の騎士選抜上位入賞者でシプラス騎士となった者の中から伴侶を選ぶ』
ステッカーは手に汗をかく。選ぶとは言ったが一番活躍した人を選ぶとは言っていないのに、と口にしかけたが……
「な?そう思わないか?」
ニコニコと笑顔を浮かべ、ステッカーを凝視するこの子供っぽい男……それでいて同じ人類とは思えない強さを持つ、山賊風の男。容姿は悪くはない。粗野な性格もはっきりした物言いも嫌いではない。女王だと特別扱いせず、友達のような軽口も国の関係者は不敬にすぎると顔をしかめるが、所詮小国のシプラス。そこまで崇められる程の国でもない。
怪物のような強さにもスピアはすごいと敬意を払っていた。だが、とステッカーはスピアを見る。
「さぁ、やらせてくれ」
無い、これは無い!とステッカーは首を振った。
女王である事でお高く止まる事もないが、一国の女王に対して、ただのメスを見るような……獣のようなこの男を伴侶に選ぶ、というのは絶対にない!回避しなければ、とステッカーは首を振った。
「まだスピアさんが選ばれるか解らないよ」
一番活躍した人を伴侶に選ぶと言ってないし、と続けようとした所で
「なぜだ……?」
座った眼でステッカーを睨みつけるスピアに、ステッカーはごまかすように笑った。言える訳が無かった。彼の機嫌を損ねて暴れだしたら、誰も止められないのだから。
シプラス国は周りを山地部に囲まれている。
シプラスは近隣の国や部族の襲撃をこれから数か月受け続けるのだ。今日防いでもまた次の国が。その国を防いでもまた次の国が。
近隣諸国対シプラス、という構図である。シプラスの兵は少しずつ削れて行く。相手と違い、シプラスは一国。兵士が減れば次の相手はその減った兵士で戦わないといけない。大敗は許されない。大敗するとそのまま後の侵略は降伏するしかなくなるのだ。被害をできる限り抑えて侵攻が減る寒い時期、冬までじっと耐えなければならない。
「だから少なくとも私を口説くなら敵の侵攻が落ち着く冬からにしてね」
「そんなに待っていられるか!」
スピアはそう言って、肩をいからせ出て行った。暴れださなかった事に、ステッカーはほっと安堵した。
翌日、その翌日。スピアは騎士の作戦会議に現れなかった。
「彼はどうしたのですか、その……あの爆弾みたいな男は」
「さぁ、出て行ったのかな。自由な感じだったし」
スピアが欠けたのは戦力的に痛い……はずなのだが、ステッカーは安心している自分に驚いた。
山賊か、という風貌にデタラメな強さ。軍や兵士、作戦等も意味を持たない圧倒的な個の武、爆弾というのはいいえて妙だとステッカーは薄く笑った。
また一日、また一日、と時が過ぎる。
「攻めて来ませんね」
おかしい、例年ならもう何度も襲撃を受けているはずなのに。
それからさらに一週間が過ぎた所で
「ステッカーちゃんは居るか!」
スピアが帰って来た。
「どこへ行ってたのかな?騎士の仕事を放り出して」
少し責めるような口調でステッカーが睨みながら言うと、スピアはそんなステッカーを笑い飛ばした。
「まあ許せ、お前のためにやった事だ。近隣諸国が攻めてくるから冬まで口説くなと言っていただろう?」
それで怒って出て行ったのではないか、とステッカーが胡乱な目を向けると
「だから潰してきてやったぞ。もう侵略はされない」
「……え?」
スピアが合図をすると、スピアの後ろについてきていた馬車からゾロゾロと近隣諸国の王族や部族の長などが現れてくる。
彼らはスピアが睨むと、怯えるような声をあげ、ステッカーの前に跪いていく。
「シプラスの近隣諸国と部族の長とかいう奴はこれで全部だろう?」
「ど、どうしたの……?いったい何が……?」
「今までの御無礼、誠に申し訳ありませんでした……ステッカー様」
シプラスにスピアが居なかった日、彼らに取って悪夢のような日々を山地部の王達は騙り始めた。
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