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愚者の舞い 2−8

 ともかく、破格の金額の依頼である事に間違いはないのだが、内容が酷過ぎた。

グラン大陸は北・西・東の王国領土の9割が山岳地帯で、南の王国は逆に平地が多い。

ようは、山岳地帯に囲まれた盆地の大陸なのだ。

急斜面こそ無いものの、常に上りばかりの道を、ひたすら荷物満載の荷車を引っ張っていれば文句も出よう。

しかも荷物の半分以上が酒樽とくれば、平地でも引くのはきつい。

「ししょ〜きゅうけい〜。」

「・・・もう少しだし、まあ、いいか。」

「ふえぇ〜・・・。 つ・・・疲れた・・・。」

荷車が勝手に下って行かないように横にして止め、ルーケは近くの木に寄りかかってへたり込む。

「ところで師匠ぉ〜、どこにこんな荷物運ぶんですかぁ〜? この方角だと、隣の町まであと一日くらいかかりますよぉ〜。」

「だからもう少しだって言ったじゃないか。 ちゃんと人の話を聞いておけ。」

「もう少しって、何もないじゃないですかぁ。」

「いいから黙って着いて来い。 滅多に飲めない新鮮で冷たい水くらい飲ませてくれるだろうから。」

「新鮮な水ぅ〜?」

ありがたみがあるのかどうかわからないが、喉が渇いているのは確かだ。

ルーケはため息をつくと、諦めて立ち上がった。

「じゃあ、サッサと行きますか?」

「そうしてくれると助かるな。 相手は気が短いんだ。」

「気が短い・・・?」

荷車を再び引きながら、ルーケは相手が何者か考える。

こんな山の中でもうすぐと言うからには、訳ありの人間か魔物が相手だろう。

(人間なら犯罪者などで、隠れ住むしかない人物であり、魔物なら・・・なんでもありのような気もするな。 しかし、わざわざ荷物を運んで会いに行くほどの相手であるなら、トレントである確率が一番高いだろうけど・・・トレントって気が長い筈だよな。)

どっちにしろ、人間達と交われないのだから、口止めされる筈だと納得する。

トレントとは、数千年生きた樹木が魂を昇華させた存在で、神みたいなものだ。

物凄くのんびり屋で、「おはよう。元気?」「元気だよ。」程度の会話を、一週間かけてすると言う話もあるくらいだ。

その代り、怒らせると物凄い力を発揮し、町一つなど簡単に滅ぼすそうな。

(って事は俺、明日までにリセに帰れるのか?)

そうも思うが、今更引き返すわけにもいかないし、そもそも前を歩く人物が許してくれる筈も無い。

(心底帰りてぇ・・・。)

そう思った瞬間、モリオンが立ち止った。

「ここだ。」

「・・・は?」

そこは何の変哲も無い、左右を木々に囲まれた山道のど真ん中。

(・・・あ、そうか。 ここで待ち合わせなんだ。)

そう自分で結論を出して納得した瞬間、モリオンがおもむろに左側にある木に向かって歩き出し、ぶつかると思った瞬間、木に入り込んで消え失せる。

「・・・えぇ!? 師匠!?」

ビックリして叫んだ瞬間、木からヒョコッとモリオンが顔を出した。

「騒いでないで早く来い。 人目についたら意味が無いんだ。」

何か意味がある筈だと理解し、とにかく慌ててモリオンの消えた木に近寄って、腕を伸ばして手を触れさせる。

その瞬間、視界いっぱいに広がっていた木が消え失せ、代わりに見晴らしの良い崖っぷちが目の前に広がっていた。

「・・・なんとぉ!?」

振り返れば道は無く、ただ木があるだけ。

前を向けば、あと3歩も歩けば谷で、物凄く見晴らしがいい。

「なにボケっと突っ立ってんだ。 早く来い。」

振り向けば、左の崖に沿って一本の丈夫そうな道が伸びており、突き当りに洞窟の入り口が見えた。

何が何だか分からなかったが、そこに会う人がいるのだと思い、ゴールは近いと安堵しつつ荷車を引っ張って後に続いた。


 目の前に置かれた、バレーボール程の大きさの水晶玉。

その中に、木の中へ消えて行くルーケと荷車が映っていた。

「ショコラ様。」

それを間近で見ていた少女が振り返ると、ショコラは艶然(えんぜん)と微笑んだ。

「でかしたポシス。 褒めてやるよ。」

その言葉に、少女は心底嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「それで、どうなされますか?」

「そうだな・・・。」

ショコラは暫く顎に指を当てて考え込むと、やがて、ニンマリと笑った。


 洞窟の中は暗い。

それが普通だ。

外にいるように明るく、しかも荷車が通るので精一杯の幅しかなかったすぐ先に綺麗な神殿が広がっているなど、非常識と言うべきか予想外と言うべきか悩める。

「あれ? 魔王様だ。」

「おう、メレンダ。 荷物を持って来たぜ。」

「わぁ〜い! ルパちゃん! クーナちゃん!」

とても外見に似合わぬ子供っぽさで、メレンダは仲間を呼びながら奥に走って行った。

「師匠・・・ここは?」

「リセを守護する竜がいるって話を聞かなかったか?」

「じゃあ、ここが・・・?」

「そうだ。 銀竜アクティースの神殿だ。 訳あって結界の中に住んでいるのさ。 表向きは黒竜が守護している事になっているがな。」

そう説明し終えた時、メレンダが二人の仲間を連れて現れた。

「わ〜い魔王様! 今日は何を持って来たんですか!?」

「これ、落ち着きなさいルパさん。 お久しぶりでございます、始原の悪魔様。」

「お前らなぁ、俺はもう魔王じゃないっての。 とりあえず荷物を受領してくれねぇか?」

「はい。 あら? 始原の悪魔様・・・そちらの方は?」

クーナの疑問に、ルパとメレンダもやっと気が付いた。

「ぎゃー! 男っ! 男よぉ!!!!」

「落ち着いてルパちゃん!! 蠅叩きならここにあるからっ!」

「そんなんじゃ駄目よ! 火! 火を!!」

「無理よルパちゃん! まだ吹けないもんっ!!」

猛烈にパニックになったルパとメレンダを見て、ルーケはガックリとする。

「俺って・・・馬の次は蠅以下か・・・?」

「おだまりっ!!」

クーナの一喝で、ピシッ! と直立不動の姿勢で硬直する二人。

「お騒がせしました、始原の悪魔様。 それで、あの方はどこの誰様ですか? アクティース様の不在間ゆえに、勝手に男性を神殿内に入れる事は出来ませんが?」

相手が誰であれ揺るがない精神力は大したものだと、ルーケは感心する。

(だけど・・・美人が怒ると、滅茶苦茶怖いなぁ。)

「そう怒るな。 アクティースに会わせようと連れて来たが・・・。 珍しいな、留守か。」

「はい。」

「おいルーケ。 お前は外に出ておけ。 ここは女の園だから男は駄目だってよ。」

「・・・師匠は男じゃないと?」

「俺は特別だからいいんだ。 早く出ないと、このクーナに焼かれるぞ。」

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