愚者の舞い 2−7
ルーケがロスカとパーティを組み、その後、ラテルと言う戦士とフーニスと言う女盗賊と出会いパーティを組み、冒険者として順調なスタートが始まった。
もっとも、4人はいつも一緒にいるわけではない。
ルーケ以外はリセ国内に家があるため、必要に応じてルーケが呼び集めるか、情報交換がてら毎日夕食時に集合する事に成っている。
「で、結局お宝は無かったってさ。」
クスクス笑いながらそう言うと、ラテルが渋い顔をした。
「おいおいフーニスよ。 笑い事じゃないだろ? 俺達だってそんなお宝手に入れられたらこれほどおいしい話は無いんだからよ。」
「ハーレム作れたのにって? ばっかじゃないのあんた。 そもそもその面でどうやって女を集めんのさ?」
「金さえあれば顔なんて関係ねぇ〜のよ。 お前も入れてやるぜ?」
「冗談。 そんときゃあたしだって金持ちなんだ。 好き好んであんたの性奴隷に成る気はないさ。」
「しかし、この国には娼婦自体いませんし、この国でそんなもの作ろうものなら討伐されますよ?」
ロスカが非常に真面目な顔でそう言うと、ラテルが吹き出した。
「相変わらず真面目だなおっさん!」
「あんたもおっさんだろう?」
「俺はまだ若い! それに、この国に限らず西の王国はその辺煩いからな。 北の王国で作るさ。 あそこなら力さえあればなんでもOKだからな。」
「その力があれば、だろ?」
「あるに決まってんだろ!?」
「どうだか。 まだ若いルーケにだって負けるじゃないか、あんた。」
「やめろよ2人とも。 獲らぬ狸の皮算用は空しいぜ。 それにラテル。 そう言ったものを作るなら、南の王国だろ。 あそこなら奴隷もいる。」
「馬鹿言ってんじゃないよルーケ。 何でも言う事聞く奴隷なんて面白くもねぇ。」
息が合ってるんだか合ってないんだか、と、ルーケとしては心配にもなるが、これが戦いの場面に成ると、ピタリと合うのだから不思議だ。
鋭い目つきに抜群のスタイルを誇り、動きやすさをとことん追求したため露出が多いが、フーニスのシーフとしての技能は一流だ。
二十代半ばで、ショ−トカットの金髪、猫のように静かに俊敏に動く。
ラテルは、今や標準的な剣、バスタードソードを装備し、プレートメールを着込む重戦士。
ちょっと品格に欠けるところがあるし、女とギャンブルと酒が大好きではあるが、その辺は普通の戦士なら大概好きだから特におかしくは無い。
ガッシリとした体形で、角刈りにした黒髪の三十路だ。
ロスカは中年の魔術師で、肩くらいまでの長さの茶髪、痩身長身で体力があまりないのが欠点だ。
魔力もあまりないが、知識は豊富だ。
冒険者として、色々な冒険が出来ると言うだけで嬉しいのだろう、ロスカはいつも穏やかに、笑顔でラテルとフーニスの言い争いを眺めている。
実際、親子ほども年が離れているので、やんちゃな子供に見えているのかもしれないが。
「ところで、何か仕事は入ったか?」
「残念ながら、たいしたものはない。 とりあえず俺は、明日荷物の宅配を頼まれているから不在するよ。」
「じゃあ、あたしはギルドで小遣い稼ぎでもしてようかね。」
そう言うフーニスは、ニヤリと笑う。
ギルドで後輩に指導すると、一日の生活費くらいは稼げるから、その事を言っているのだろう。
ちなみにこのリセは、優秀な忍者と侍で名を売っている古い国だが、シーフギルドもある。
忍者は王家専属で、主として敵の暗殺や護衛など影の任務につくため、その他の裏業務はシーフが賄っているのだ。
そう言うと、シーフは悪役に聞こえるかも知れないが、シーフと忍者と王家、三者の仲は悪くはない。
忍者の戦闘力は下手な戦士より遥かに高いが、いかんせん人数が少ない。
他国などの情報はシーフギルドの方が優秀で、違法行為さえしなければ王家も忍者も黙認しているからだ。
それに、忍者も国内の平穏のために治安活動しているが、シーフも縄張りを守るために活動する。
必要悪として存在を認められているのだ。
「俺はどうすっかなぁ。 おっさんは?」
「私は本でも読んでおりますよ。 昨日、新しい書物が手に入りましたので。」
「へぇ? 魔術書か?」
「残念ながら。」
そうラテルに答えつつ、ロスカは苦笑いを浮かべる。
魔術書は貴重な物で、一個人で買えるような物ではない。
金額も高いが市場で売られる事も無いからだ。
そんな仲間達のやり取りを聞きつつ、ルーケは明日の仕事を考えないようにしていた。
ゼ〜ゼ〜と、ルーケの吐く荒い吐息が木々に吸い込まれて消え失せる。
だが、吐いている本人には耳障りなほど煩く聞こえる。
「なんだ、もうばてたか?」
気軽に言って来るオーガーのような肉体を持つ依頼主は、荷車を曳いていないだけに余裕があった。
「し・・・、し・・・しょ・・・う・・・。」
「なんだ?」
ルーケは一生懸命息を整えると、噛みつくように怒鳴った。
「なんでこんな大荷物なんですか!? 人力ではなく馬で曳けばいいでしょう!?」
「馬が可哀相じゃないか。」
真顔で即座にそう返され、一瞬言葉に詰まる。
「俺って、馬以下・・・?」
「それに、馬や牛では都合が悪いんだよ。」
「だったら師匠も手伝って下さいよ!」
「依頼主をあてにするな。 それに、お前をそんなやわに鍛えたつもりも無い。」
やわもなにもないだろう! と、叫びたくもなるが、破格の依頼料だけに文句も言えない。
元魔王でルーケの師匠、冒険者・行商人の時はこのいかつい体格に平凡な顔の中年、名を冒険者の時モリオン、行商人の時プレシャス。
本当の名は、世界を作った双子の神の弟、始原の悪魔アラム。
彼が接触して来たのは、冒険者として登録した直後だった。
「ここにいたか。 お前に依頼だ。」
「げっ!? 師匠!?」
「数日後、荷物をある場所に運びたい。 力があって信用できる相手にしか頼めない内容だ。 受けるか?」
「・・・断ってもいいの?」
「だめだ。」
「最初から選択肢無いじゃないですか!?」
「あるわけないだろそんなもの。」
「じゃあなんで聞くんですか!」
「気分の問題だ。 もし死んでも気にならないじゃないか。」
「ええっ!? そんな危険な荷物運び!?」
「マスター、これ仲介料。」
そう言いながら、カウンターにいたマスターの目の前に、ドンと袋を置く。
「これが前金。」
ズシッと、手に袋を落とされる。
「依頼料は1Gだ。 口止め料も含んでいる。 マスターも口外無用にな。」
二人が揃って目を白黒させるのもおかしくはない。
1Gとは、普通の豪邸が建てられる金額なのだから。