愚者の舞い 2−41
(揺るがない・・・信じる心・・・。)
「あいつは死にたがる奴を好まない。 命の重さを良く知っているからだ。」
(命の・・・重さ・・・。)
いくつもの心が、ミカを温かく包み込んでいるのが分かる。
その中でも、一番小さな温かさに触れてみた。
それはルーケの心だった。
ミカを心配し、助けようと思っている。
だが、それはこの中で、誰よりも小さな温かさだった。
ただ、自分の信念に従って、必死に助けようとしている心は、よく伝わった。
ルーケは言わば、赤の他人。
それなのに、必死に助けようとしている、その気持ちが嬉しく思えた。
次に、ほぼ同じ大きさの3つの温かさに触れてみた。
それはクーナ、ルパ、メレンダの心。
3人とも、同じくらい自分の事を心配していた。
その気持ちは、凄く嬉しかった。
だけど・・・と、ミカは、一番大きな温かさに、触れる事を恐れた。
残るはアクティースだけ。
一番温かく、炎のように熱い心。
その温かさは、ミカなど一瞬で焼き尽くしそうな激しさも持ち合わせていた。
もし、アクティースに拒絶されたら。
そんな不安が、触れる事に恐れを抱かせる。
しかしそれを自覚した時、ミカは自分で自分がおかしくなった。
死のうとしていたのに、何を恐れるのかと。
死ぬ前に全てをハッキリさせたい、ミカはそう決心して、アクティースの心に触れた。
温かかった、誰よりも。
そしてその心は、悲しみにも満ちていた。
どんなに愛しても、どんなに好きになっても、自分より先に消え行く命。
だからと言う訳ではないが、同じように悲しみと寿命を持つメガロスに惹かれた。
極一部分であろうが、そんな悲しみが確かに感じられた。
そしてそれは・・・。
(アクティース様・・・私に心を・・・。)
ミカは、無防備に開け放たれた心に、身を委ねた。
ルーケはミカの心が受け入れたと察知した瞬間、思わず思考が声に出た。
「治れっ!!」
その声に反応したように、ミカの体を強烈な赤い光が包み込み、視界を奪い去る。
(うおぉ!?)
確かに声に出た筈の、叫び。
だが、口から声になって出た感じがまったくしない。
何が起きているのか全く分からぬまま、ルーケは熱く感じる光に耐えた。
やがて光が消え失せ、視界が戻って来た時。
ミカは安らかな、寝息を立てていた。
「・・・成功・・・した?」
自分のやった事なのだが、まったく実感が湧かず、ルーケは呆然とミカを見やる。
「よくぞやった。 お前は人間にしては、ほんに良くやった。 褒めてつかわそう。」
(本当に、俺がやったのか?)
そんな疑問が湧き、アクティースを見ようとして、まだ、胸がズッシリと圧し掛かっている事に気が付き、どうにかしようとした瞬間、急に巫女3人が前のめりに倒れたので、支えていたルーケを下敷きに折り重なる。
「ぐおぉ・・・お・・・。」
重い、と、口走りそうに成って、なんとか飲み込む。
相手はまだ若い(と、ルーケは思い込んでいる)女性達なのだ。
重いと言ったら、女性だけに傷付くだろう・・・と、思ったのだが。
一向に3人はどいてくれない。
3人は想いを込め過ぎて、ルパとメレンダは気を失っていたのだ。
かろうじてクーナは意識があったが、精神疲労で朦朧としていた。
「やれやれ、力みすぎじゃ。」
アクティースは苦笑いしながら、ルパとメレンダを丁寧にどけて、彼女達の寝具に横たわらせる。
「ふむ。 お前への褒美は、そのままの体勢でどうじゃ?」
意地悪くアクティースがそう言うと、ルーケは返答に困った。
既にクーナ1人とは言え、朦朧として圧し掛かっているので実に重い。
だが、下敷きになった時にクーナの方を向いたため、半開きになった膝の間に見える、その奥の白い布が目に眩しい。
しかも、重い体は非常に柔らかい部分が押し付けられていた。
確かに、褒美としては十分かもしれない。
気高く、優しく、美しいクーナの・・・。
そんな邪な心を癒しの玉を通じて感じたクーナは、覚醒すると同時に跳ね起きた。
玉をしっかりと握りしめたまま。
「クーナ、そのままでいてやれ。 褒美に欲しいそうじゃ。」
真顔で、それでいて笑いを堪えるように目を細めてアクティースがそう言うと、2人は即座に、同時に反応した。
「ええぇ!? そんな事言ってないですよアクティース様!!」
「冗談じゃありません! そんなふしだらな!」
「ホホホ。 では、シッカリと抱き締め・・・。」
ドサ。 と不意に、今度はルーケが倒れた。
「・・・いやだ、私ったら・・・そんなに重かったかしら・・・?」
「いや、こ奴は元々魔力が少ないようじゃ。 それなのに、軸になってしまったからの。 今まで意識のあった方が不思議じゃな。 オスの本能かもしれんがの、クーナに抱かれておったでな。」
「・・・アクティース様、怒りますよ?」
「おお、怖い。 クーナが怒ると怖いからのぉ。」
歩み寄りながらそう言いつつ、アクティースは優しくルーケを軽々と抱き上げた。
「アクティース様? どちらへ?」
今までの冒険者のように捨てはしないだろうが・・・と、不安がよぎる。
「今日の行いは、まさしく勇者と言って良いからの。 わらわ自ら添い寝して、労ってやろう。 ホホホホホ。」
「さ・・・左様でございますか。」
思わず、笑顔が引きつるクーナである。
クーナは翌朝の事に思いを馳せつつ、癒しの玉を自分が持っていた事に安堵した。
ただ、死んでいたらどうにも出来ないであろうが。
そして翌朝、クーナの予想は見事に命中する事になる。
第二章 迷走する運命 完
第3章へと続く
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