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愚者の舞い 2−32

 半月にまではいかないものの、だいぶ欠けてきた月。

それを眺めながら、強大な力を持った2人の酒盛りは静かに続いていた。

巫女達は先に眠っているが、本来この2人は睡眠を必要とはしない。

「あの者ら・・・放置しておいてもよいのか?」

「ショコラ達の事か?」

「そうじゃ。 あの者達は、強大な力を持っておる。 放っておいてよい存在とも思えぬがな。 現に、お前の娘も殺されたのであろう?」

そう言われると、返す言葉も無いが・・・。

「正直言って、俺はあまり、プリの死は悲しくないんだ。 嫌いだったわけじゃなく、ただ、その意思を受け継いでいる子達がいるし、それに・・・。 あいつは優しすぎた。」

アクティースはソッとアラムから視線を月に戻し、クイッと杯の酒を飲み干した。

「封印か。 確かに、永遠に生きるには女であり過ぎたかもしれぬな、あの娘は。」

プリとはそんなに親しい間柄ではなかったが、面識はあったしクラスィーヴィから話も聞いていた。

同じ悩みを抱えた者として、近親感も持っていたが、それゆえに親しくはしなかった。

自分もその悲しみに引き込まれそうに思えたからだ。

同性愛者にしろ異種族にしろ、相手をどんなに愛しても子を成せないのは、女としては悲しいものだ。

もっともアクティースの場合、竜同士であれば子を産む事も出来るし生ませる事も出来る。

竜は性別が無く、その都度必要に応じて性別も変化するからだ。

「で、あの狐どもを始末しない理由は他にもあるのだろう?」

ツイッと視線をアラムに戻すと、アラムも横目で見つつ、苦笑いを浮かべた。

「まあ、な。 実を言うと、あいつは世界のかなめでもあるんだ。」

「要じゃと? あの狐がか?」

「そうだ。 九尾の狐に変化したショコラは、理由があって九尾にまで成長した。」

これは流石に予想外だったらしく、アクティースも驚きに少し目を見開く。

「シェーンを知っているか?」

「シェーン・・・? 確か、お前の兄バーセと、異界へ行った娘じゃな。」

「そうだ。 魔界は異界から漏れ出る瘴気の受け皿。 瘴気は魔物へと変化し、そのため少ない資源を求めあって争いが収まる事は無い。 それは狙い通りだからいいが、その瘴気を無制限に垂れ流されても魔界がもたん。 そのため調節弁が必要であり、それに兄貴とシェーンがなった。」

「それとどういう関係があるのじゃ?」

「魂だけでは、誰も覚えている者がいないと、霧散しちまうんだよ。」

死ぬと、人間の魂だけ冥界へ行くと言われている。

それは転生するための準備する場所でもあるからだが、実際には虫や動物の魂も冥界へは行くのだ。

何故冥界へ行くのかと言うと、自然界に魂が溢れかえってしまい、魂は死してすぐ生まれ変わる事になるので、前世での穢れを落とせず、邪悪な存在に成っていってしまうからだ。

悪人がその知恵を持ったまま生まれ変わったら、幼い頃から悪事を働くだろう。

そんな連中が増えれば増えるほど、まともに生きる事が愚かしくなり、連鎖的に奪うのが普通に成り、愛と常識を育む事を忘れる。

そのため、生前に犯した罪を浄化、または断罪するために冥界がある。

だが、異界へ行くと話は別だ。

濃厚な瘴気、つまり、アラム達の父親である原始の神の怒り・苦しみ・狂気などに侵され、肉体は存在出来ない。

そのため、強い魂でなければ存在出来ないのだ。

だが、魂は肉体と言う器が無いと、長くは存在出来ない。

例えるなら、袋の中の煙と同じなのだ。

異界で魂を存在させるのはえにし

つまり、その本人を慕う心が守っているのだ。

ちなみにその他の魂は、妖精は妖精界へ行き精霊に、魔物の魂は消滅する。

魔物の魂は、瘴気が集まっただけの不安定な存在だからだ。

「兄貴は軍将ラゴラを始め、子らが天界にいっぱいいるから問題は無い。 だがシェーンはショコラ以外、真に慕っている者はいないんだ。 ショコラはシェーンに名を与えられたため、力を持った。 そのために寿命が無くなり、今も生きている。」

「名など、動物に付ける者はそれなりにいよう?」

「愛情を込めないと、真の名にはならんよ。 それに、シェーンは特別な奴だからな。」

「魔力はお前を凌駕しているとか聞いたが・・・? それが理由か?」

「そうだ。 あいつこそ知識を得れば、第三の始原の神になった。 人間が神になった、初めての存在に。 その前に死んじまったけどな。」

その失望と悲しみはいかほどであったか、アクティースはそれなりに分かった。

アクティースも、今の力があの時あれば、故郷を失わずに済んだかもしれない。

時々、そう思うのだから。

「じゃが、お前だって慕っているのじゃろう? その娘を。 お前が生きていれば、問題ないのではないか?」

そう言うと、アラムはシニカルな笑みを浮かべた。

「ところで、あの娘をどうするか決めたのか? あの娘、死ぬ事をなんとも思っていないどころか、死にたがっているようだが?」

「死ねば役目を果たせ、わらわを留める楔になるからの。」

「それを知っていて、なぜ結論を出さんのだ? かなり悩んでいるようだが。」

アクティースとしては、ユキの姪であるミカをなんとか生きながらせたいという思いと、そばに置きたいと言う願望があった。

だが、すぐそこに迫っている死が、アクティースを迷わせる。

今日明日という短期間ではないが、何十年も生きられるわけではない。

まだ若いミカを共に死なせる事に、アクティースは迷い、悲しみ、そしてまた、迷う。

「最悪、他の」

「言うな。 わらわもそれは考えたのじゃ。 じゃが・・・。」

「そっか。 お前も辛いようだな。 だが、お前はあるじとして決断しなければならん。 取り返しのつかなくなる前にな。 じゃなければ・・・。」

「・・・わかっておる・・・。」

「俺の轍は、踏まんようにな。」

強大であるがゆえに知る悲しみ。

それは、アクティースよりも深い事を、共に知っていた・・・。

翌日、アクティースはミカに成人まで待てと言い置いた。

契を交わすと明言したわけではなく、それまでに自分が答えを出すために。


 タキシムを倒し、凱旋したルーケ達を、町の領主は大歓迎した。

正直、フェムルを慕っていた騎士や見習いが多く、退治しかねていたのだ。

しかも強い。

そこへわざわざ町民が冒険者を雇ってくれた。

自分の懐は痛まず、批判と評価にも悪影響しないのだから歓迎もしよう。

そのため、ルーケ達は町を出るのが遅くなり、途中で夜になり野営する事になった。

町に留まり、1泊しても良かったし勧められもしたが、ルーケ達は断った。

ラテル以外、そんな状況で落ち着けなかったからだ。

「あ〜あ。 もったいなかったなぁ。 見たかルーケ、あの貴族の娘。 絶対俺に気があったって。」

「妄想もそこまでにしておきなって。 あんたじゃなくルーケを見てたんでしょうが。」

「い〜や。 俺だったね。」

2人のやり取りに、ルーケは苦笑いを浮かべるしかない。

どうも強力な魔物と縁があるらしく、そうは見えないかもしれないが、ラテルはかなり強い戦士だ。

今日出迎えた騎士達の誰よりも強い事は、ルーケには分かっていた。

それでもルーケにラテルが勝てないのは、強い相手には強い相手なりに勝てる方法が稽古ならあるからだ。

正真正銘敵として戦ったら、ルーケでは勝てないだろう。

それでも日頃の行いか、顔立ちは悪くないのにラテルはあまり女性にもてない。

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