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愚者の舞い 2−30

 ルーケはフェムルの元妻である娘を見据えたまま、

「正直、絶対に助けられるとは断言できない。 だが、信じてもらえますか。」

フーニスではないが、ルーケ達はこのまま見ているだけで依頼達成できるのだ。

フェムルは既に死んでいるのだから、その魂が消滅して、不死となった肉体が昇天しようがどうしようが知った事ではない。

にじり寄るフェムルのタキシムと、それに追われて腰を抜かし、這いつくばって逃げる元騎士見習いを交互に見て、娘は強く頷いた。

「お願いします!」

その返事を聞くや、ルーケは身を翻して抜剣し、即座にフェムルに斬りかかった。

目的はまず、フェムルの攻撃手段を奪う事。

つまり、利き腕である、剣を握る右腕を切り落とす。

だがフェムルは生前、優秀な騎士だった。

その動きの遅さからは想像も出来ないほど、剣の腕は確かだった。

侮ってはいなかったが、弾き返された剣の強さで手が痺れる。

「フェムル。 俺はお前を可哀相に思う。 だからこそ、恨みに縛られず永久に眠れ。」

フェムルは剣を弾き返した後、ジッと動きを止めてルーケを見やる。

これ幸いと逃げようとした元騎士見習いは、ラテルとフーニスが捕まえて縛り上げた。

最悪、この少年を差し出さなければならないのだから当然だ。

町の領主には、先に話を通してあるので問題は無い。

罪人である元騎士見習い如きと、善良なる領民を引き換えに出来る筈もない。

「・・・お前に・・・何が・・・出来る・・・。」

唐突に喋ったフェムルに、ルーケを除く全員が驚いた。

「復讐を。 俺にはお前に変わり、復讐を遂げる事が出来る。」

「何に・・・誓う・・・。」

「お前の剣に誓おう。 授けてはくれないか? お前の意思、剣に生きたその志も、俺が受け継ごう。」

フェムルは暫く逡巡し、やがて、自らの剣を足元に付き立てた。

「お前の・・・瞳に・・・真実・・・見た。」

ボソッと、止まっていた時が急に訪れたように、剣に寄りそうようにフェムルの体は急激に土となりくずおれた。

「安らかに眠れ。 騎士フェムルよ。」

ルーケは静かにそう言うと、山賊の血にまみれたその剣を抜き取った。

「結局、用意した聖水使わなくてすんだね。」

ルーケの提案した対策は、聖水を使う事だった。

不死アンデットモンスターは、例に漏れず聖水に弱い。

硫酸のような効果があるのだが、生憎、浄化能力は低い。

タキシムになった者は安心させれば成仏するので、口約束でも約束すれば依頼が達成できると踏んだのだが・・・。

生前の能力が高かったらしく、まさかこんなに早く犯人の住処まで攻め込んでいるとは予想もしていなかった。

夜間、彷徨うタキシムを発見し、説得して駄目なら聖水を使って戦い滅ぼす算段だったのだが、使わないに越した事は無いので、フーニスは純粋に儲けたと考えていた。

聖水だって安くは無い。

それに聖水を作れる僧侶など、この世界にはほとんどいないのだから貴重品でもある。

そんなに必要とされる物ではないから、物価はそうでもないが、それでも返品すれば金が返って来るし、使わないに越した事は無い。

依頼料内で必要な道具なども賄わなければならないのだから。

「おい。 ところでこいつはどうするんだ?」

ラテルがそう言いながら指差す先、縛られた元見習い騎士は、ビクリと体を震わせた。

「やっぱりょ」

二人揃って少年を見下ろしていたその視界内に、不意に剣が突き出され、その左胸を突き刺した。

「「!?」」

驚愕して言いかけた言葉を飲み込み、フーニスとラテルが剣の持ち主を見ると、静かな眼差しで見習い騎士を見詰めるルーケがいた。

「・・・何も殺す必要はなかったでしょう?」

チラッとルーケはロスカを見てから再び少年に視線を戻し、

「お前もタキシムになるか? いいだろう。 俺はお前を葬り去るのに何の躊躇いもない。 いつでもこい。」

少年は、驚愕と苦痛に目を見開き、ルーケを見詰めていたが、やがて諦めたように目を瞑って絶命した。

その瞬間、役目を終えた剣は、パキンと澄んだ音を立てて中頃で折れた。

「俺はフェムルに約束したぜ、ロスカ。 それに、こいつを領主に突き出しても、結局死刑は変わらない。 なら、恨みを晴らした方が、彼のためにもなる。」

「しかし、フェムルが倒すのと、あなたが倒すのでは意味が違うでしょう。」

「一緒さ。 フェムルの剣が折れた事がその証拠。 彼は肉体が滅んでも、剣に魂を宿らせて見ていたのさ。 これで、本当に成仏できた。」

ルーケはそう言うと、折れた剣を土となったフェムルの成れの果ての上にそっと置いた。

「あの、ありがとうございます。 これで、彼は・・・。」

元妻であった娘がそう言いながら頭を下げると、ルーケはポンとその肩を軽く叩き、

「因果応報、ですよ。 それより町まで送りましょう。 あなたのようなお嬢さんが出歩く時間ではありませんよ。」

「はい。」

時刻は深夜過ぎ、普通の娘が出歩く時間では、確かに無い。

「・・・ここにも一応、お嬢さんがいるんだけどね?」

「行き遅れはどうでもいいんだろ。」

ボソッと呟いたフーニスにラテルが軽く答えた瞬間、問答無用で剥き出しの頬に拳を叩き込んだ。


 人外のスピードで、拳と蹴りの応酬をするルパとメレンダ。

その二人の邪魔にならない場所で、クーナがミカに基礎を教えていた。

いつもの光景である。

そんなミカとクーナのやり取りを眺めつつ、黙って立っていたが・・・。

「今はそんな基礎よりも、少しやりあった方がいいんじゃないか?」

巫女4人が、心底驚いて動きを止め、こっちを見る。

「ししし始原の悪魔様!? いつからそこに!?」

「いつからって、それなりに前からここに立ってたぞ。 それにしても、あの鉄面皮クーナが心底驚いた姿の方が貴重かもな。」

そう言ってカラカラ笑うと、クーナの顔が怒りで赤くなった。

その後ろで、ルパとメレンダがジッと警戒して身構えている。

「ミカと言ったか? おいで。」

そう言いながら、チョイチョイと手招きする。

「え? あの・・・。」

「悩み・迷いを抱えている時は、思いっきり体を動かした方がスッキリするぜ?」

「でも・・・。」

「あの・・・始原の悪魔様? 邪魔はしないでいただけますか?」

「邪魔じゃないさ。 お前の言いたい事も分かるが、悩みながらそんな事やったって何にもなんねぇよ。 頭に覚える余裕が無いんだからな。」

「しかし、今は基礎こそ大事です。」

「その基礎を覚える前提が出来てねぇんだ。 武術の必要性は分かっているようだが、早く覚える必要性に焦る心と、悩み・迷う心がせめぎ合っているじゃねぇか。 一緒に暮らしていて気が付いていないのか?」

「それは分かってはいますが・・・。」

「いいからかかってこいや。 そうだ、お前らもたまには遊び相手を変えてみろ。」

「相手を変える??」

「どこにいるの?」

ルパとメレンダが、その提案に顔を見合わせた瞬間、目の前に3体の人形が出現した。


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