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愚者の舞い 2−29

 ロスカはちょっと目を見開き驚くと、一つ咳払いしてから説明を始めた。

「アィマィミィマインとは、最弱にして最強と言われる魔物です。」

「「「最弱にして最強??」」」

思わず他3人の声が見事にハモる。

そんな矛盾した説明があり得るか? と、顔を見合わせる。

「そうとしか言いようの無い存在なのです。」

「そうとしか言いようがないって・・・どういう事なのさ?」

「狐に包まれたような感じだぜそりゃぁ。」

「容姿とか特徴とかはどうなんだ?」

「正直に申し上げます。」

ロスカが至極真面目にそう前提して、仲間を見回した。

「・・・私もそれしか存じません。」

ガタァッ! と、三人揃ってテーブルに突っ伏した。

「もったいぶってそれだけかよっ!!」

綺麗な顔を料理の中に突っ込んだため、物凄い形相のフーニスがそう詰め寄ると、ロスカは苦笑いを浮かべながらその肩をガッシリと掴み、フーニスの座っていた椅子に押し戻す。

魔術師で細身なのでひ弱そうに見えるが、それなりにロスカは腕力があり、実はフーニスより力持ちだったりする。

「まあまあ落ち着いて下さい。 それだけ名前だけ知れ渡っている魔物なのですよ。」

「名前だけ知れ渡っている? リッチとかロック鳥みたいなものか?」

タオルをフーニスに渡しながらルーケがそう聞くと、ロスカは頷き、

「そうですね。 とにかく神出鬼没で、長時間出現した記録もありません。 ただ、出現した時の被害は甚大で、見た者の証言は毎回変わっています。」

「毎回違うってどういうこった? 不定形な魔物なのか? ゴーストのような?」

元々その手の知識に疎いラテルが、そう言ってからコップの酒を一息に飲み干す。

「どうも肉体はあるのですが、出現するたびに容姿と能力が違うみたいです。 ですから、詳しい事が分からないのです。 それに、対策も立てられません。」

「能力が違うんじゃ〜なぁ〜。」

「そんなわけのわかんない魔物はどうでもいいの!」

ラテルがため息交じりでそう言うと、バンッ! とフーニスがテーブルを叩いて会話を断ち切った。

「今のあたし達の問題はタキシムでしょうが。 致命的に決定打が無いのに請け負ってどうするのさ? ルーケ?」

汚れをふき取ったタオルを突き返しつつ睨み付けると、ルーケはニヤリと笑った。


 闇に包まれた室の中、水晶を覗き込んでいたポシスが大きくため息をついた。

「ショコラ様〜、ま〜た失敗です〜・・・。」

水晶の中には、絶望的な顔をしながらも、なんとか生き延びようとあがいている冒険者がいた。

ポシスは何組かの冒険者をそそのかし、アクティースの下へ向かわせたのだが、全て撃退された。

結界内の様子は見れないが、外に放り出された者は感知できる。

ある者はファレーズ山頂の上空100mに、ある者は海洋のど真ん中に捨てられた。

大半は結界の中から出て来る事さえ無かったが。

「人間にあやつを倒せるとは、最初から期待などしてはいないさ。」

「でも、どうしますか? もう声をかけた冒険者は残っていませんけど。」

やがて、水晶の中に映っていた冒険者は海面に見えなくなり、ポシスは水晶を消した。

「しばらく声をかけても無駄だろう。 そろそろ面倒臭くなって、結界入口の場所を変える筈だ。 また暫く、あの男をマークしておけば良い。」

「そう言えば、魔法使いに毒薬渡したのに行かなかったですね。 奴ら。」

「フッ。 どうでもいいさ。 それよりポシス。 暫く旅に出ぬか?」

突然の提案に、ポシスはキョトンとする。

「旅・・・ですか?」

「そうだ。 大陸中を歩き回り、情報を仕入れなければな。」

室の中でも、情報はそれなりに手に入る。

それはポシスの操る遠見とおみの水晶球があるからだ。

だが、映像だけで音は聞こえない。

噂などの情報は、人間などに聞くしかないのだ。

「暫く散策をし、力を溜めながら色々画策するのも楽しかろう。 心に闇を抱えている者は、そこら中にいる事だしな。 ククククク。」

歪みながらも、心底楽しそうに笑うショコラ。

その尻からは、9本の淡く輝く尾が出ていた。


 命を失った筈の肉体はノソリ、ノソリと動き、腐敗した体は物凄い臭気を発していた。

「お願い! もう止めてフェムル!! あなたは死んだのよ!!」

タキシムとなった者の名はフェムル。

勇敢な騎士だったが、新婚初夜、過去に彼によって捕縛され、処刑された山賊の仲間が家を襲撃した。

上級騎士ではなかったフェムルは、大きな館などに住む事も無く、ごく普通の家に住んでいた。

執事などはおらず、身の回りの世話をする若い騎士見習い一人が一緒に住んでいただけ。

つまり、普通の下級騎士だった。

新妻の作った夕食を3人は堪能し、寝室に連れ立って入った瞬間、待ち構えていた山賊に襲われた。

裏切り、山賊を導いたのは、信頼していた騎士見習いだった。

フェムルは気絶させられた後、縛り上げられ、気絶から回復するのを待ってから山賊達は彼の妻を凌辱して見せた。

激怒と絶望に、フェムルはバーサーカーになりかけた。

それをいち早く察知した騎士見習いが、フェムルの心臓を背後から一突き。

その凶器は、フェムルの愛剣だった。

その剣は、彼の胸に置かれて共に埋葬され、今は彼の右手にある。

「あなたはもう死んだのよ! お願い! 静かに眠って!!」

しかし、かつて愛した妻の声も、彼には届いていなかった。

あと一人で、全て恨みを晴らせる。

その対象は今、目の前にいた。

フェムルの失われた眼窩はシッカリと騎士見習いだった少年に向けられ、微動だにしない。

「どうすんの? ルーケ。」

そう聞くフーニスの足元には、山賊達の亡き骸。

洞窟に住んでいた山賊達を襲撃していた所へ、やっと追い付いたところだったのだが。

恨みを晴らせば、タキシムは昇天するから問題は無い。

裏切りの果ての因果応報だけに、フーニスは少年を助けようと言う気はまったく無い。

それはラテルも同様だ。

ロスカは迷っているようだが。

ただ計算外だったのは、彼の妻が追いかけて来た事だ。

日中、情報収集していたルーケ達の後を付けて来てしまった。

捜索に集中して、追跡に気が付かなかったなど、不手際もいいところだが。

ルーケはスイッと妻の前へ身を乗り出すと、泣き叫んでいたその目を見据えた。

「あなたはどうしたいですか?」

「ど・・・どうって・・・彼を、彼を止めて!」

「彼を止めるには、倒すしかありません。 それでよろしいですか?」

「面倒臭い事してるねぇ。」

フーニスは茶化すようにそう言うが、ルーケも誰も取り合わない。

「説得してよ! これ以上彼に罪を重ねさせないで!!」

タキシムとバーサーカーには、共通点がある。

タキシムは恨み、バーサーカーは怒り、共に強いとそうなるのだが、最終的に力尽きた時、その魂は消滅すると言われている。

恨みと怒り、自らの強すぎる感情の炎に焼き尽されて。

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