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愚者の舞い 2−2


 ルーケはきょんとし、暫く二人の言った意味を理解するのに時間がかかった。

「え・・・? ちょと待ってくれ? 今は帝都? 75年前? 何言ってるんだ?」

ようやく二人の言った意味を思考が理解し始めて戸惑っていると、ノックも無しにいきなり戸が開けられた。

「何やってんだよプリ! 現場監督・・・。 本当に何やってんだ!? 現場監督が現場を放り出して若い男とイチャイ」

スコーンッと飛んで来た木製の空の湯呑に顎を直撃され、リョウは蹲る。

「煩い。 それにノックぐらいしろ。 レディーの家だぞ。」

ただでも釣り目の目を更に吊りあげてエルフがそう言うと、おもむろにリョウは跳ね起きてエルフに詰め寄った。

「誰がレディーだ誰が! レディーは湯呑を問答無用で投げねぇよっ!」

「二人ともストップ!!」

二人がいつもの言い争いを始めようとしたので、慌てて間に割って入る。

「リョウ、悪いけど現場に行って、今日は解散って伝えて欲しいの。」

「なんだよそれ!? そんなんで宿が」

犬歯の目立つ口を大きく開けて抗議するリョウの唇に、スッと人差し指を当てて黙らせ、自らの豊かな胸をクイッと押し上げて見せて、優しく。

「後で良い事してあげるから。 お・ね・が・い。」

「お安い御用だ。」

即座に真顔でそう答えると、来た時よりも早くダッシュで戻って行った。

「あいつのあの病気はなんとかならんか? プリ。 一応師匠だろう。」

「性格だけは鍛え・・・思い出した!!」

「なんだ?」

突然プリが大声を上げたので、ルーケもエルフもギョッとする。

「あなたパパの弟子!! ルーケでしょ!? どっかで聞いた名前だと思ったのよ!」

「・・・アラムの弟子だと?」

「え!? 師匠の娘さん!? え? って事は・・・レジャンドのおかぁさん?」

そうだとすると、物凄く若く見えるなぁとか思ったが、師匠である始原の悪魔自体、世界を作った人物でありながらあの外見だ。

納得は出来るが・・・まったく顔立ちとか似ていない。

「残念ながらレジャンドは私の娘じゃないわ。 そんな事はどうでもいいの。 すぐパパに知らせなきゃ。」

「そう言う事はお前の家でやってくれんか? 私はあ奴の顔を見たくない。」

エルフはそう言うと、無表情な顔が少し嫌そうに変化した。

「あ、そうだったわね。 お邪魔したわクラス。」

「後で結果だけ教えてくれ。」

そっけなくエルフが言い終えると、コンコンとノックする音が聞こえた。

「誰だ?」

「メレーナです。 クラスィーヴィさん、入ってもよろしいですか?」

「ああ。」

「失礼します。」

そう言いながら入って来たのは可愛い娘だったが、娘を見た瞬間ルーケは思わず。

「レジャンド?」

と、口から出ていた。

服こそ一般的な庶民の着る服であったが、ドレスを着た時のレジャンドにそっくりだったからだ。

だが、そう言われて驚いたのは娘の方である。

「え? レジャンドは私の先祖ですけど? それがなにか?」

「ああごめんねメレーナ。 今レジャンドの話をしていたから。 気にしないで。 さ、着いて来てルーケ。」

「あ? ああ。」

戸惑うメレーナの横を通り過ぎ、プリはルーケの手を引っ張って家の外へ出て、戸を閉めてから再び手を引いて隣の家に連れ込む。

「そこに座っていて。 詳しい話はパパが来てからすると思うから。」

「え・・・師匠が?」

飛び出して来た手前、顔を非常に合わせにくい。

「そんな事言ってる場合じゃないの。 あなたが異次元から飛び出した時、80年の月日が過ぎているんだから。」

「は・・・80年!?」

驚き戸惑うルーケに構わず背を向けると、プリは思念に集中した。

「あ、パパ。 ルーケを見つけたわ。 ・・・うん、今一緒にいる。 ・・・うちよ、ペイネの。 ・・・えぇ!? 私だって仕事があるのよ! ・・・わかったわよ。」

何も無い空間に独り言を言ってるように見え、思わずドンビキするルーケである。

そんなルーケに構わず、プリはクルッと振り返ってルーケに向き直った瞬間、二人の間に忽然と掌サイズの袋が現れ、ドサッと落ちる。

プリはため息を一つつくと、その袋を指差し。

「パパからの伝言よ。 勝手に出て行ったお前に今更会う気もおきん。 その金は恵んでやるから勝手に生きろ。 ですって。」

会わなくて済み、ホッとしつつも言い草に戸惑うルーケである。

「ともかく、あなたの身に起きた事を教えてあげるわ。 あなたが異次元から飛び出した時、運良く80年後にリンクしたの。」

「運良く? ・・・80年後に現れてかい!?」

「普通なら飛び出した途端に挽肉よ、あなた。」

「え・・・? だって、でも、プリンさん普通に入って来てたし・・・。」

「あれは、パパがプリンちゃんが入って来る時にリンクさせていたから安全だったのよ。 あなたは飛び出してしまったから、パパが世界にリンクする暇が無かったの。 確率で言ったら、恐らく1000億分の1程度しか成功しないと思うわよ。 生きているだけで。」

説明を受けて、やっとルーケは恐ろしい事をしたのだと自覚し、青ざめる。

「じゃ・・・じゃあ、過去に戻る方法はないのか!?」

「無いわよ。 パパなら出来るかも知れないけど、頼み込んでもやらないでしょうね。」

「なんで!?」

「今が変わってしまうからよ。 あなたは80年前に消えた人間よ? それが戻ったらどうなるか、パパの図書館で勉強したでしょう? 多分だけど。」

ルーケはその答えを知っているだけに、なんとも答えようがなかった。

「ともかく、今の時代に慣れる事ね。 色々変わってると思うし、好きに生きたらいいわ。」

元々身寄りの無かったルーケだけに親兄弟の心配はないが、未来に来てしまったと言う事が非常に心許無い。

「それと、さっき会った女の子、レジャンドに似ているでしょう?」

「え? ああ、そうだったな。」

「あの子、レジャンドの子孫だからね。 玄孫になるんだっけかな?」

そう言われ、ルーケは本当に未来に来たのだと、しみじみ感じた。

あのレジャンドに玄孫がいるなど・・・。

「今日はうちに泊まっていって。 宿は今建設中で、泊まれないから。」

「・・・ありがとう。」

「そう落ち込んでもしょうがないわよ。 元気を出しなさい。」

そう言った時、コンコンと戸をノックする音がし、

「メレーナです。 入っていいですか? プリさん。」

「いいわよ〜。」

何度見てもレジャンドそっくりな顔立ちに、ルーケは戸惑いを覚える。

もっともスタイルは全く似ていない。

年頃の娘らしい成長具合だ。

レジャンドと違って、男物の服を着ても男には見えないだろう。

「プリさん、私明日不在しますので、両親をよろしくお願いします。」

「あら。 どこに行くの?」

「帝都です。 手紙の宅配を頼まれまして。」

「そっか。 同時に、冒険者として登録しに行くのね?」

プリがそう聞くと、メレーナははにかんだ笑顔を浮かべた。

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