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愚者の舞い 2−13

 霊峰ファレーズは、切り立った休火山であるため、雨中に行く事は自殺行為に等しい。

そのため、不安に思いつつも雨が晴れるのを待つしかなかったのだが。

雨の中、わざわざ出向く気が失せたのか、はたまた旅館に泊まっていた若い娘に手を出していたのかは分からないが、朝と言うには少し遅い時間に来たリョウを引き連れて、三人はフォスルに向かった。


「ショコラ様ぁ〜。」

暇そうに寝そべっていたショコラが顔を向けると、ポシスが不安そうに見ていた。

「どうした?」

サラサラと流れる髪の音と衣擦れの音が、無音の室内に良く響く。

正確には(しつ)内と言うより(むろ)内なのだが。

ポシスの覗いていた水晶球をそのままの姿勢で見て、ショコラは鼻で笑った。

「エルフと人間程度に何が出来る? 捨てておけ。」

「でもぉ〜。 このエルフ、クラスィーヴィですよ?」

「そうか。 では監視を続けておけ。 私は水浴びでもして来る。」

そう言うと、スルリと着ていた衣服を脱ぎ棄て、見事な裸体を惜しげも無く晒し出す。

アクティースのように完璧な美貌とスタイルを誇る美女ショコラであったが、その身に纏う闇の雰囲気は、見た者に恐怖を与える。

もっとも、人前に現れる事などほぼ無いが。

その後ろ姿を見送った後、ポシスはため息をついた。

もっとも、気紛れなのは今に始まった事ではないので、慣れたものではあったが。


「やばいな。 いつ起こってもおかしくはない。」

「いえ、今すぐと言うわけでもないわ。 多分、今夜深夜ね。」

現地を見て、二人がそう結論付けるが、蚊帳の外のリョウには訳が分からない。

「いったいどうしたってんだ?? 何かあるのか? 辺りで変な音が聞こえるけど。」

リョウはワーウルフであるため、嗅覚も聴覚も人の数倍鋭い。

「簡単に説明する。 良く聞け。」

「おう。」

「雨降って土砂崩れが起きる。 以上。」

「本気で簡単ね。」

「細かく話しても理解出来まい。」

そう小声で返した途端、

「そりゃ大変だ! 早く逃げなきゃ!」

と、思いっきり動揺した。

「な?」

プリとしては苦笑いしか浮かばない。

「逃げたきゃ逃げろ。 私はなんとか塞き止める。」

「正気なの!? 一個人に何とかなるレベルじゃないわよ! この広大な範囲をどうやって塞き止める気!?」

「しかし、この地形を見ろ。 このまま放っといたらペイネは壊滅だ。 いや、下手すれば跡形も残らん。 なんとかしなければなるまい。」

「それこそ騎士に任せりゃいいじゃんよ。」

「騎士に何とかできる程度ならそうしている。」

「でも、一応報告して避難させてもらわなきゃ。 リョウ、お願いね。」

「はぁ!? 俺だけかよ!」

「お前がここに残って何が出来る? 私とプリはそれぞれ魔法で対処できる。 だが、お前は上位まで扱えるようになったとは言っても白だけ。 お呼びじゃない。」

「そりゃそうかもしれんけど、邪魔あつか・・・」

スイッとすぐ目の前にプリが立ちはだかり、言葉を遮る。

「私とクラスはここで、出来る限りの事をするわ。 だから、あなたは王家にこの事を知らせて来て。 私とクラスなら、寸前までここにいてもテレポートで逃げる事が出来るわ。 でも、町はそういうわけにいかないでしょう? お願い。 行って。」

いつもの優しげなプリの眼差しが珍しく真剣なため、リョウは説得を諦めた。

「分かった。 とにかく無茶はしないでくれ。 知らせたらすぐに戻って来る。」

「いいえ。 あなたも避難を手伝って。 一人でも多い方がいいわ。 あなたは私達と違って力持ちだし。」

何か言い返そうとしたが、今は一刻を争うと判断し、リョウは無言で引き返した。


 雨が降り濡れた地面は、下へ下へと水を染み込ませて行く。

そして晴れれば、地表の表面は乾くがその下は泥になったまま。

泥のままなら互いに粘着し合うが、表面が乾いてしまえば蓋に成る。

そして、滲み込んだ水は下へ下へと進み、固い岩盤などに行き当たった場合、弱い所弱い所を侵食し、移動して行く事になる。

草木が水分を吸収するとは言っても、急激に吸い上げるわけでもなく、限界はある。

鉄板の上に泥を塗れば滑りやすくなるのと同じ事だ。

スッポリと覆い隠すほどの雲は、フォスルを激しい雨で濡らした。

その結果、川は氾濫寸前にまで上昇し、山に囲まれたペイネはあちこちで起きた土砂崩れなどで陸の孤島と化していたのだ。

まるで、誰かが意図したように。

そんな混乱の中、リョウは何とか王城に辿り着いたが、門前払いされて目通りさえ出来なかった。

どんなに叫んでも固く城門は閉ざされて、拒絶された。

それもその筈、王城には最小限の騎士を残してあるだけで、全力で道を塞ぐ土砂の撤去などに追われていたのだ。

今、下手に門を開けようものなら苦情や訴えを持った住民が雪崩れ込んでしまう。

そのため、食糧支援などの必要最小限しか国としても関われなかったのだ。

この使者が、クラスィーヴィやプリならまた、結果は違ったのだろうが・・・。

リョウ「くそぉ! こんな門で守りきれないかもしれないってのに・・・。」

しかし、忍び込んでもどうにもならないだろう事は推測できたし、問答無用で捕まる可能性が高い。

そうなれば二人の下に戻る事も出来なければ、話も聞いてもらえない。

リョウは報告を諦め、クラスィーヴィ達の下へ戻る事にした。

最悪、二人さえ守れればいいと考えたのと、町を救った英雄になれば言い寄る女の子も数知れずと下心もあった。

ただ、リョウには何が何でも町を救おうと言う気は微塵も無かった。

リョウの故郷でもなければ縁があるわけでもないのだから当然と言えば当然だろう。

だが、あの二人は違う。

恩人でもあり仲間でもあるのだから。


 リョウが二人と別れた場所に戻って来た時、付近に二人の姿は無かった。

リョウは付近に残された匂いと足跡で二人を探し、やっと見つけた時には夜になっていた。

「お〜い! 二人とも!!」

「何しに来たのだ? 避難はもう終わったのか。」

「それどころじゃねぇ。 あちこちで崖崩れとかあっったらしくて門前払い。 話しさえ聞いてもらえねぇ。」

「そうか。」

平然と答えつつ唇を噛みしめる。

もし陸の孤島となっているなら、どっちにしろ逃げ場所はあるまい。

「仕方が無いわね。 私達でやれるだけやるしかないわ。」

「だが、どうやる。 私の全魔力を使っても、この規模の土石流は塞ぎきれない。」

「それは私も同じ。 でも、2人で力を合わせれば何とかなると思う。」

「いや、2人じゃない。 3人だ。」

「だがどうやる? 私はアースウォールで止めるつもりだったが。」

「それでも不十分だし、防ぎきれないわ。 私が地脈を通じて、地下から乾燥させようと思うの。 それなら規模もかなり減るわ。」

「どのくらい乾燥できる?」

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