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愚者の舞い 2−11

 クラス「さっきも言ったが、女には女の秘密がある。 なんでも知ろうとしないことだ。」

リョウ「そういう問題か!?」

クラス「げんに痛みを忘れているではないか。 効果はあっただろう?」

リョウ「あ、そう言えばってそんな問題でも無いだろ!?」

実際、ダガーはいつの間にか抜け落ちて、怪我はほぼ完治している。

もっとも、キスが無くてもワーウルフの回復力なら普通の事なのだが。

クラス「そもそも善行積まねばならん身の上で、女性に手を出しすぎなのだお前は。 ボニート様が泣くぞ。 ピロスと言う娘もな。」

ピロスは女神ボニートを信仰する神官の娘だった。

そのピロスが幼いながらも彫ってプレゼントしてくれた木の神像。

それと、たまたま転がっていた水晶玉が加わり、女神ボニートが降臨した。

「常日頃、善行を積むのはもちろんですが、長い時を経た後、世界を破滅が襲うでしょう。 その時、立ち向かう者に協力しなさい。 あなたの努力次第で天界も認めるでしょう。 さすれば、私も呪いを解く事が出来ます。」

そう言って、獣人化を抑えるネックレスを渡してくれた女神。

おかげで満月を見ても変身する事は無くなったが・・・。


 プリはリョウを突き飛ばし寝室に駆け込むと、グッと全身に力を込めた。

ほどなく背中が盛り上がり、グニョンとスライムが出て来てボトリと落ち、そのスライムが盛り上がって人の形になり、もう1人のプリが現れた。

もっとも、こちらはまだ少女の姿であったが。

プリの正体はノーブルスライム。

知能は人並みにある特殊なスライムで、始原の悪魔の娘の1人である。

「ふぅ。 名前を決めなきゃね。 なにがいい?」

「ん〜。 フィリアでいいやママ。」

フィリアはそう言うと、勝手に自分で木製の窓を押し上げると外に出た。

シトシトと降る雨に、あっという間に濡れそぼるがフィリアは気にも止めない。

そもそもプリもフィリアも、服に見えるが自分の体を変形させているだけだし、正体がスライムだけに雨に濡れても気にもならない。

「あたしは見られない方がいいんでしょ? 里に行ってる。」

「ごめんね〜。」

フィリアはプリの記憶を完全に引き継いでいるので、プリが何を望んでいるのか理解していた。

「あたしにはママの考えに賛同は出来ないけど、後悔しないようにね。」

「余計なお世話よ。 気を付けてね。」

フィリアは片手を挙げて返事とすると、そのまま左手の指先を変化させて傘にし、歩き去って行った。

その姿が見えなくなるまで見送ってから、プリは窓を閉め、隣の居間で飛び交う怒声に気が付いた。

プリ「あら。 またやってるの。 好きねぇ、あの二人。」

原因が自分にある事を、既に忘れているプリである。

ともかく、本格的な戦いになる前に止めようと戸を開くと。

「お前などそのまま永遠に彷徨うがいい!!」

「ハッ! 勝手に自分で治すわ!!」

「ハイッ! そこまでっ!」

「まったく、これだから人間の男はダメなんだ。」

「なんだとずん胴!!」

「やめなさいってば。」

「・・・。」

珍しくクラスィーヴィの瞳に殺気が漲り、無言で腰の剣を抜く。

「やろうってのか? ハイエルフと違って俺は不死だぜ。 勝てると思っているのか。」

「言わせておけばよくもずん胴などと。 たとえボニート様が許しても私が許さん。」

「そうかい。 で、どうすんだい。」

「微塵切りにしてくれる。」

「やめなさいってば!」

「やれるもんなら」

ゴキッ。

ギョッとしたクラスィーヴィの眼前には、既にプリがいた。

「喧嘩両成敗。」

避ける余裕さえ無く、クラスィーヴィも昏倒させられたのであった。

プリは白魔法だけではなく、拳闘志(けんとうし)の達人でもあった。


 ゴキッグキッと、プリにへし折られた首の調整を両手でしつつ、調子が戻ってからプリの入れてくれたお茶を一口飲む。

「キャインッ。 あつつつつ・・・。」

「狼でも猫舌なのか。」

「こっちはワーウルフとは関係ねぇよ。 元からだ。」

「そうか。」

そのまま暫く、沈黙が場を支配する。

プリはそんな二人に構わず、窓にもたれてシトシトと降る雨を眺めていた。

「雨ってさぁ。」

「ん?」

「なんかいいよね。」

「そうか? 濡れるしムワッとするし、俺は好きじゃないな。」

「プリは雨でも関係ないからそんな事が言えるのだ。 今は建物の中にいるからあまり問題はないが、野営中の雨ほど嫌なものはない。」

確かに、と、リョウもそれは納得する。

雨中では焚き火も出来ないし、深夜に飢えた狼の襲撃など数え切れないだけ経験がある。

それだけ根無し草で旅をしていたのだから仕方がないと言えばそれまでだが、やはり快適な生活をしたいのは確かな願望だ。

ただ、プリは雨でも関係ないというのが引っ掛かったが。

「ところで、仕官の話はどうなったの? ここ数日、騎士様の姿が見えなかったようだけど。 諦めたの?」

プリが何気に聞くと、クラスィーヴィはいつもの無表情のまま。

「ああ。 諦めて受けた。」

「やっぱあき・・・マジか?」

ずっと断り続けて来た、帝国宮廷魔術師への仕官。

なんの心境変化か分からないが、引き受けたらしい。

もっとも、次の依頼を受けた後、解散する予定だったから、そのためかもしれない。

「私達はこの国の建国に関わったが、代が変わり、疎んじられているからな。」

それはプリも感じていた。

今の王家、つまりモルレの子孫だが、ハッキリ言って2人に友好的ではない。

特にクラスィーヴィは、いつも通りの無表情のままズバズバ言いたい事を言うので、嫌われていると言っても過言ではない。

だが、先祖代々のご意見番なので、余程の過失でもなければクビにも出来ない目障りな存在なのだ。

もっとも一番の理由は、現存する騎士で二人に勝てる者がいないというのもあるだろうが。

この二人が暴れる事は無いのだが、下手に怒らせて暴れられたら勝てる者がいない。

それは十分脅威である。

「でもなんで仕える気になったんだ? あれほど仕官するのを嫌がっていたじゃないか。」

「先日、私は鬱陶しいから、(じか)にもう来るなと断りに行ったんだ。 だが、大陸を統一し、平和をもたらしたいと言う熱意に、頷かざるをえなかった。」

なるほど、と、2人は納得した。

魔物をこの世からせん滅する事は不可能に近い。

しかし、人間同士の争いを収める事が出来れば、各段に平和は近付く。

現状では、町と町を繋ぐ街道は、馬車が通れる広さがあるとは言っても獣道に毛が生えた程度の代物だ。

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