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愚者の舞い 2−10

 プリがスライムの里に用事があると言うので付き合い、その帰り道に山賊に襲われた馬車を救出し。

その後、完成した宿の祝賀会がささやかながら開かれた。

プリとリョウ、それにクラスィーヴィ。

それぞれ参加したが、プリもクラスィーヴィもいつものように浮いた存在だった。

クラスィーヴィはエルフなだけに、最初こそ真新しい存在として目立つが、見慣れると正直、関わりたくない人物なのである。

クラスィーヴィは特に人を遠ざけたりしてはいないのだが、いかんせんぶっきらぼうで無愛想すぎる。

しかも言い方がきついので、次第に人が離れて行ってしまうのだ。

この町に住むまっとうな人間でクラスィーヴィと関わるのは、メレーナ達、レジャンドの子孫だけしかいないのが現状だ。

そしてプリは、どこをどう見ても人間にしか見えないのに外見がまったく変わらない。

リョウもそうだが、呪いで年を取らないのだと説明しても、やはり気味悪がられる。

特に2人とも美人だったり可愛かったりするから、女性は嫉妬する。

リョウは別の意味で浮いた存在なのだが、本人が気にしない上に祝宴などそっちのけで既に姿は無い。

今頃どこかの馬小屋辺りにでもしけこんでいる事だろう。

更に、2人は国家特別顧問のような存在でベテラン冒険者だ。

困った時には頼りに成るのだが、怒らせると後が怖いと言うのもある。

そんなわけで、2人は祝宴もたけなわな頃、早々に帰宅していた。

丁度2人が着替え終えた頃、リョウも合流し、3人揃う事になった。

「で、なんで毎回毎回私の家に集まるのだ?」

不満そうに聞こえるが、これでもクラスィーヴィは嫌がっているわけではない。

「そう言えばなんでかな?」

毎度の事ながら、プリも改めてそう考えてみる。

「そんなの簡単だろ。 クラスが俺達の家に来ないからだ。」

「あ、そうか。」

考えてみれば簡単な話であった。

「それで、今度どうするんだい?」

実を言うと、大まかな事は決めてあった。

次の冒険を最後に、パーティは解散すると。

プリには長らく誰かと行動する事を避けたい理由があったし、クラスィーヴィはその理由を詳しく知っていた。

そして、プリはその事を、リョウには秘密にしておきたいと言う事も。

かつて知ったるなんとやらで、プリが勝手にお茶を淹れて持って来た。

「はい、クラス。」

「ありがとう。」

「はい、リョウ。」

「サンキュー、プリ。 ところで、プリって人間だよね?」

「ど、どうしたの? 急に。」

思わず笑顔が引きつるプリである。

「だって、すんげぇ長生きじゃん? 俺達出会ってから30年経ってるんだぜ? クラスが変わらないのはエルフだから分かるけど、プリもまったく変わって無いじゃないか。 俺みたいになにか呪いでもかけられているのか?」

実はこのリョウ、30年前にプリとクラスィーヴィと出会う直前、マギサという魔女に呪われているのだ。

それも、不死と獣人化(ワーウルフ)という、白魔法の達人プリでさえ解除出来ないほど強力な呪いだ。

もっとも、普通のワーウルフは感染するが、リョウの場合、呪いなので感染はしない。

しかし、そんな事他の人には分からないので、もしばれたら確実に狩られるだろうが。

「・・・そうね。 呪いと言えば呪いかもね。」

プリはそっと目を逸らし、寂しげにそう言うと俯いた。

「かもって。」

「女には秘密が多いのよ。 フフフ。」

そう言って笑うプリは、今にも消えてしまいそうなほど、影が薄く感じられた。

「確かにな。 私も隠している事はあのフォスルほどある。」

クラスィーヴィがそう言うと、おもむろにリョウは席を立ち、窓を押し上げてフォスルを見上げた。

「・・・なるほど、雨が降るわけだ。」

いつの間にか、外は雨が降り始めていた。

「ん? どういうことだ?」

「あの仏頂面のクラスが冗談イッ!!!!!!!」

「刺し殺すぞ。」

「ダガーぶん投げるのは刺すって言わんのか!?」

足に突き刺さったダガーを指差しつつ、リョウは憤慨する。

「その程度避けろ。 ワーウルフだろう。」

「無理言うなっ!!」

「まあまあ。 そう怒らないの。 クラス、寝室ちょっと借りるわよ。」

クラス「・・・わかった。」

クラスィーヴィはプリが何をしようとしているのか察し、ため息と共にそう答える。

リョウ「・・・!? まさか!?」

プリ「痛みを忘れるおまじないをして、あ・げ・る♪」

リョウ「!?」

そう言いながら急に抱き付いて来て見上げるプリに、リョウはドギマギした。

今まで何度か夜這いしては撃退されてきたのに、なんで急に? と、疑問も浮かぶ。

押し付けられるかなりでかい胸の弾力に、不覚にも思考が真っ白になる。

そしてプリは背伸びして、そっとリョウに顔を寄せると。

ちょっといたずらっ子みたいな笑みを浮かべてから唇を合わせて来た。

プリの柔らかい唇の感触に、リョウはもう、何がなんだか分からない状態だった。

ギュッと無意識にプリを抱き返しながら、脳裏に浮かんできたのは、幼くしてリョウを庇って亡くなった、幼馴染のピロスの笑顔。

ちょっと裏切ったような気持ちになって、リョウは思考が戻って来た。

だが、動揺は収まらない。

なぜ急にプリから迫ってきたのか?

ずっと前から俺の事を好きだったのか?

永遠に死ねない者同士の寂しさゆえか?

などなど、答えの出ない疑問が次々浮かんでくる。

ただ一つ分かっているのは、プリが先もってクラスィーヴィにベッドルームを借りる旨を伝えてある事だ。

リョウ(と、言う事は。 据え膳食わねば男がす)

ゴンッ! と、突然強烈な激痛が後頭部に走り、リョウは一瞬意識が飛ぶ。

完全に無防備だったためにモロに食らった。

だが、意識が戻るなり周囲を見回す。

襲撃かと思ったのだ。

だが、呆れた顔のクラスィーヴィ以外、部屋には誰もいなかった。

ではクラスィーヴィがやったのか? と、険しい表情で一瞬睨んでから己の馬鹿さかげんに気が付く。

クラスィーヴィの位置からではリョウの背後に回れない。

ついでに彼女は、さっきから一歩も動いていない。

じゃあ誰が? と、思ったとき、バンッ! と、勢い良くプリが寝室に駆け込み鍵をかけた。

リョウ「・・・プリ???」

クラス「やめろ。 行くんじゃない。」

なにがなんだか分からず、ともかくプリの様子を見ようと寝室に向かいかけたリョウを、クラスィーヴィが制止する。

リョウ「なんでだよ?」

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