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愚者の舞い 第2章 迷走する運命

「ここは・・・どこだ?」

ルーケは、目の前に広がる世界に呆然とした。

細部位置は知らないが、異次元は山の中にあったボロ小屋に通じていた筈。

それなのに自分は今、見晴らしの良い丘に立っていた。

左前方には小さく町が見え、その町以外の場所には森が大部分を占めて広がっている。

振り返れば、今、自分の立っている場所が道のど真ん中である事は分かった。

左右に広がる木々に挟まれ、馬車1台通れる程度の道が、曲がりくねって伸びている。

ともかく情報を集めなければいけないと思い立ち、ルーケは町を目指して歩き始めた。


 そこは結構新しい街らしく、城壁などもまだ綺麗なものだった。

ただ、ライヒほど魔物を警戒していないのか、周りの木々より城壁は高いが、そんなに離れてもいなかった。

もっとも、木を伝わって城壁に飛び移るには、猿程度では不可能な程度に離れていたが。

そんな外観を眺めつつ門に辿り着くと、守衛の騎士が無言で手を突き出して来た。

「・・・? えっと・・・なに?」

「何じゃない何じゃ。 通行税を払え。」

騎士に呆れたようにそう言われ、ルーケは仰天した。

「えぇ!? なにそれ!?」

「何それじゃない。 お前旅人だろう? 姿を見た事が無いからな。」

「えっと・・・うんそうだけど。」

「だったら通行税を払うのが当り前だろうが。」

「そんな! ライヒじゃそんなの無かったぜ!?」

「ライヒ??」

騎士が不思議そうに仲間を振り返り、仲間も小首を傾げる。

「あの、ちょっと聞いていいかな? ここってどこの町?」

「はぁ?? お前ここがどこかも分からんで旅しているのか?」

「実は・・・そうなんだ。 道に迷っちゃって。」

「道に迷ったってお前・・・。」

そう言われて戸惑う騎士だが、ルーケの方がもっと戸惑っていた。

旅をした事が無いルーケには知らない事ばかりだし、ライヒを知らないと言う事は、かなり遠くへ出てしまったようだ。

参ったなと思っていた時、ヌゥッと巨木が後ろから突き出し、ビックリして飛び退いた。

「うおっ!?」

「え? あ、わりぃ。 そっち側は見えねぇもんだからよ。」

そう言う男は、痩せた体形をしていた。

顔立ちは整っており、美男子と言っても言い過ぎではないだろう。

年の頃は二十歳前後と言った感じに見受けられるのだが・・・どことなく雰囲気がおかしくルーケには感じられた。

ともかくそんな男に一番驚いたのは、その驚異的な筋力。

ルーケでは抱えきれないような太さで6メートルはあるその大木を、その男は一人で担いで平然としているのだ。

「ちょっとリョウ! 気を付けなさいよ!」

そう言いながら後ろから現れたのは、これまた美女と呼ぶに相応しい娘だった。

こちらも年の頃は二十歳くらい、抜群のプロポーションで、出るところ、へこむところのメリハリが激しい。

その娘は小走りにルーケの下へ駆け寄ると、素早く全身を見てから、

「ごめんなさいね。 怪我はない?」

「あ、はい。 当たっていませんから。」

「俺だけ責めるのって酷くねぇか? そっち側見てるのプリの仕事だろ?」

「いいからとっとと運びなさい。 その木が無いと進まないんだから!」

「へいへい。 門番さん、通るぜ?」

「おう、ぶつけないようにな。」

騎士は気軽にそう答えると、リョウをすんなり通した。

そんな問答をしている間に、ルーケの事を不審に思った騎士が詰め所に行って報告したらしい。

「おい、お前。」

背後から肩を叩かれて振り返ると、精悍な顔つきをした別の騎士が立っていた。

「お前今、ライヒから来たと言ったそうだな?」

「え? いや、俺・・・」

「それに道に迷ったと言ったそうだが、お前のどこを見たらそうなるんだ? 服は汚れていないし、荷物も無い。 魔物に襲われたようにも見えん。 かと言って山賊にも見えんし、帝国の密偵がこんな間抜けとも思えんし・・・。」

疑問がさらに増す騎士だが、それよりもルーケには今の言葉の方が引っ掛かった。

「帝国??」

「そりゃ軽装でしょう?」

不意にルーケの背後から、プリが口を挟んだ。

「私が雇った人だもの。 宿の建設にね。 木を切りに行って一人足りないからおかしいと思って探していたのよ。」

その騎士は、ジッとプリの目を見つめてから、

「プリ殿がそう言われるなら、そうなのでしょうな。 ですが、面倒事は御免ですぞ?」

「分かっているわ。 ありがとう。」

プリが満面の笑みでそう騎士に頭を軽く下げると、騎士は苦笑いをしながら二人を町の中へ通した。

「あ、ありがとう・・・。」

ルーケがそう答えると、プリは急に真面目な顔になって、

「いいえ。 私もあなたに聞きたい事があるの。 着いて来て。」

そう言うと、手を掴んでグイグイ引っ張って行く。

ルーケとしては問答無用な行為に不満はあったが、相手は恩人であり、特に行くべき場所も無いので黙って着いて行く。

そして、町外れの家に着くと、プリはコンコンとノックした。

「クラス、いる?」

「ああ。」

「入るわよ。」

中から返事があるなり、プリはそう言いながら戸を開けた。

ルーケは中にいた住人を見た瞬間、思わず目を見開く。

「エルフ・・・。」

プリも美人だが、それとはまた違ったタイプの美人。

整ってはいるが全体的に鋭く、体はほっそりとし、女性なのに、ほぼおうとつは無い。

エルフ独特の尖った耳が無ければ彫刻に見えたかも知れない、そんな感じの美貌。

「そんな所に突っ立ってないで入ったらどうだ?」

エルフにそう言われ、ルーケは慌てて家に入り、後から入って来たプリが戸を閉める。

「で、私の家は連れ込み宿ではないのだが?」

「・・・あんたにそんな冗談言われるとは思わなかったわ。」

「私だって冗談の一つや二つは言うさ。 で、なんだこいつは?」

「門で拾ったんだけど、ちょっと不審だったから連れて来たの。」

「ちょっと不審? 何者だ?」

「それを聞くためにね。 あなた、お名前は?」

「・・・ルーケ。」

「ルーケ? ルーケ・・・どっかで聞いた・・・名前なんだけど・・・どこだったかな・・・?」

「ところで、ライヒって町を知らないか? 俺はそこに帰りたいんだ。」

「ライヒ?」

キョトンとしてから、プリはエルフを見る。

「また、随分古い呼び名を使うな。 本当に何者だお前。」

エルフに無表情にそう聞かれ、戸惑うのはルーケの方だ。

「古い呼び名? どういう事だい?」

「今はライヒと言う呼び方をしないのよ。」

「その町は75年ほど前だが、帝都と名を変えた。」

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