マッチ売りの少女と死神
こんにちは、かぐらゆういです(^^)
数ヶ月ぶりの小説投稿です。今回は冬休み向けに短編を書きました。
ではどうぞ(o^^o)!
某年のデンマーク。
新年の朝、マッチ売りの少女・アンナは生前かわいがってくれた祖母の霊とともに天国へと旅立って行ったーーと、思われたが、それは違った。
アンナは冷たい川辺で目を覚ました。
「おばあちゃん…?」
さっきまで一緒にいたはずの祖母の姿はなく、代わりにいたのはタバコを吸っているひとりの青年ーーいや、いつかタロットカードでみた大鎌を傍らに置いた死神と思わしき青年だった。
「…あなた、死神…?」
「悪かったなおばあちゃんじゃなくて。俺は死神のデューク。お前の魂を狩るためにおばあちゃんの姿に化けてたんだよ」
「騙したのね!…ひどい!」
アンナはショックのあまり泣き出した。大きな瞳から涙が零れおちる。
「あー悪かった!騙して悪かったよ!だから泣くなって!」
アンナを泣かしたデュークはどうしたものかと困り果てた。幼い娘などあやしたことがなかった。
「なあ…どうしたら泣き止んでくれんだ?」
「ひくっ…おばあちゃんに…会いたい…ひっく…」
「おばあちゃんに会えば気がすむか?」
「…うん」
「しゃーねぇなぁ…こっから天国まで遠いけど特別に会わしてやるか」
「…ほんと?」
「ああ。ちょっと待ってろ」
デュークは後ろを向くと、黒ズボンのポケットから卵型の通信機を取り出し話し始めた。電話をしたことがないアンナはデュークが何をしているのかわからなかった。
「ーーありがとうございます。すぐに向かいます」
通信機をポケットに押し込むとアンナに向き直った。
「よし、行くぞ」
黒革の手袋をはめた大きな手と小さな幼い手を繋ぎ、2人は歩き始めた。
15分程歩くと色とりどりの花々の中から小さな駅が見えてきた。2人はここから汽車に飛び乗った。
生前汽車に乗ったことがなかったアンナは初めての光景にはしゃぎ始めた。
「すごい!なにこれ!フカフカ!」
天国行きの汽車の座席は高級羽毛仕様でフカフカだった。アンナがはしゃぐのも無理はなかった。
「アンナ、恥ずかしいから少し落ち着いてくれ」
「なんで?こんなに楽しいのに!ぽよんぽよん!」
周りの視線が痛すぎる程に痛かった。
「しゃあねぇな…これやるから大人しくしてくれ」
デュークは指でパチンと鳴らした。すると、手の中からぐるぐるキャンディが出てきた。
「すごい!魔法?!」
「そうだよ。お願いだから大人しくしてくれ」
「はーい!」
「声でけぇよ…もう少し声のトーン落とせ…」
ぐるぐるキャンディを舐めている間、アンナは大人しかった。大人しくなったところでデュークはアンナに生前のことを聞くことにした。
「なぁ、アンナ」
「なぁに?」
「家族のことは好きだったか?」
「好きだよ?今でも好き」
「厳しいお父さんでも?」
「うん」
「家に入れてもらえなくても?叩かれても?」
「うん、好き」
「よく好きでいられるなぁ」
「本当は優しいから」
「どこが優しいんだよ?」
「内緒」
「内緒って…」
「“内緒”は“内緒”なの」
「よくわかんねぇなぁ」
キャンディを舐め終わるとアンナはデュークの膝の上に頭を乗せて眠ってしまった。その寝顔は、デュークの嫌いな天国の天使そのものだった。
終点まであと3駅に差し掛かった時だった。運転手が急ブレーキをかけた。
「なんだ!?」
しかし、時は既に遅かった。
「きゃあああああああー!!!」
人々の叫び声と共に汽車は傾き、奈落の底へ落ちて行く。このままでは皆と共に地獄へ落ちてしまう。
「アンナ!アンナ!起きろ!」
「え…きゃあ!」
「アンナ!」
デュークはアンナをしっかりと抱き抱えたが、アンナの左脚は既に真紅に染まっていた。
「痛い!痛いよデューク!」
デュークの大鎌は汽車に乗る際にコンパクトに収納していたために危険はなかったが、他の客が食事に使っていたフォークが刺さってしまったようだ。
汽車は更に大きく傾いた。向かいの側に座っていた人々が2人の目の前に流れてきて身動きができない上に、アンナの左脚に刺さったフォークが更に奥深く刺さってしまった。
「デューク…!」
「ちょっと待ってろ…」
傾いた汽車を魔法でなんとかしたかったが、それよりもアンナの怪我の方が先だ。デュークはアンナの左脚に手を滑らせ、患部に手を当てた。当てている部分が光に包まれ止血される。
次は大きく傾いた汽車だ。デュークは心の中で念じた。
(上がれ…上がれ…)
魔法によって汽車はゆっくりだが徐々に上がり線路に乗った。多少損傷が見られたが、奇跡的に30分遅れで運行された。
アンナを座席に座らせ、魔法で手当てをした。応急処置として止血していたため、大事に至らず歩けるまでに回復した。
「ありがとう、デューク」
「どういたしまして」
ーードクン…
デュークがニコッとすると、アンナの小さな胸が高鳴った。生まれて初めての感覚にアンナは内心戸惑いを覚えた。
終着駅である天国にたどり着いた。駅のホームには天使に付き添われた祖母が立っていた。
「おばあちゃん!」
「アンナ!」
祖母と抱き合い再会を喜んだアンナは、1時間という限られた時間の中で祖母との会話と楽しんだ。
祖母と別れる際寂しさを感じたが、同時にこれから訪れるデュークとの別れにも寂しさを感じ始めていた。祖母と会ったからには死神であるデュークとも別れなくてはいけないことを子供ながら薄々気づいていたからだ。
「デューク…」
「どうした?」
ホームでタバコを吸うデュークにアンナは抱きついた。170㎝ある彼のお腹に顔を埋める。
「デューク…どうしてあなたとの別れが苦しいのかなぁ…」
「アンナ…俺のこと好きになったんじゃないの?」
「そうなのかなぁ…」
「俺を初恋の相手にするなんて、10年は早いな」
タバコを地面に落とし火を消すとアンナの頭に手を乗せ、しゃがみこんだ。
「気持ちは嬉しいけど…俺は死神だ。お前の魂を狩らせてもらう」
「そうだよね…」
「そんな淋しい顔すんな。生まれ変わって死ぬ時が来ればまた会えるよ」
「ほんと…?絶対…?」
「ああ…絶対だ。さあ、行こう」
一歩踏み出す前にアンナは質問した。
「あ…ねぇ、私は天国に行けないの?」
「お前は死ぬ前に罪を犯しただろう?」
「罪…?」
「業務上横領罪…人に売るためのマッチを自分のために擦っただろう?だからお前の魂は天国に行けない」
「でもあれは寒かったから…」
「わかってるよ。でもこれはルールだからさ」
「ルール…」
「さあ行くぞ」
「どこへ行くの?」
「隣の駅に戻るんだよ。天国じゃ狩れないから」
2人は再び手を繋いで歩き始めた。
10分程で隣の駅に着いた。海辺の駅だ。
海を横目にデュークは大鎌を持った。
「ねぇ…痛いの?」
「痛くねぇよ。ほんの一瞬」
デュークの大鎌振り上げられる。だが、アンナはそれを止めた。
「待って」
「何?」
「おばあちゃんに会わせてくれてありがとう」
「いいんだよそんなの。これも仕事だから」
「…さよなら」
「“さよなら”じゃねぇ…“また会おう”だろ?その時は大人になってろよ」
「私に恋できるくらい?」
「マセたガキだな!そうだよ、いい女になれよ!」
「わかった!」
「“また会おうな”」
「うん、“また会おうね”」
「じゃあな」
大鎌が振り上げられた。一瞬にしてアンナは泡となった。泡となったアンナの魂を大人の手のひらサイズの卵型カプセルに閉じ込め、デュークは抱きしめた。
end
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
誰もが知っていると思われる童話、マッチ売りの少女をテーマに書きましたがいかがでしたでしょうか?ぜひご感想をお聞かせくださいませ。
ではまた☆