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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

サクヤちゃんのお気に入り

作者: 吉尾京

本来は木花咲耶姫命ですが人間の名前としてアリな形にしてみました。

姉サイド


 私には勿体ない妹ができてしまった。


 私が小さい頃お父さんの暴力で離婚してから、お母さんはずっと女手ひとつで私を育ててくれた。

 勿論家計は苦しくて、お母さんと顔を合わせる時間も少なかった。でもお母さんには感謝しかしていないし、できれば幸せになって欲しかった。

 そんなある日、お母さんはとても身なりの整った男性を連れてきてこう言った。

「この人と結婚することにしたの」

 最初は騙されているんじゃないかと思った。失礼だけどお母さんはどちらかというと見た目があまりいい方ではなく、私というコブがついたバツイチ。そして相手の男性は八頭身のイケメンで、大企業の若社長。相手もバツイチだというけれど、それがマイナスにならないほど優良物件だ。


「ほら、お母さん清掃会社で働いてるじゃない? それでね、ある企業の清掃を任されたんだけど、その時に色々あって……ね。この人が結婚するためならどんな手でも使うって言うから私ゾッとしちゃって……」

 それから何度か食事に行って、その人の人となりを知った。ちょっと暴走しすぎるところが難点だけど、お母さんのことが大好きすぎるただのヤンデレだと知った。

 そして、新しいお父さんになった彼には、とてもとても美しい娘がいた。

 名前は咲夜ちゃん。名字と合わせると此花咲夜……コノハナサクヤヒメになる。

 名前どおりの美少女だ。

 私はこんなにブサイクなのに、姫。名前負けも甚だしい。旧姓が岩永だったから、イワナガヒメ……つまりコノハナサクヤヒメの姉と同じだ。

 ブサイクな姉と、美しい妹。この神話の顛末は私だって知っている。

 ニニギノミコトにお嫁に出されたふたりのうち、姉のイワナガヒメだけが突き返されるのだ。理由は明白、見た目が悪いから。

 花の女神であるコノハナサクヤヒメを選び、イワナガヒメを選ばなかったことで、人間は永い命を得られなくなった。そんな話。


 今までずっとこの顔で生きてきたからわかる。世界がどれだけブサイクに厳しいか。恋愛に限った話じゃない。何をするにも悪いバイアスがかかってしまう。

 美人が楽をしているとは思わないけれど、せめてどこにでもいるような普通の女の子に生まれたかったな……なんて、甘えたことを思ってしまう。そんな性格だからみんなから嫌われてしまうのだ。

 反省しよう。明るく、前向きに、常に笑顔で、誰よりも優しく、努力を惜しまずにいれば、いずれ私にだって幸せは訪れる。勿論、今が不幸だとは思わない。優しいお母さんに恵まれて、私は幸せだ。


*********


 新しい家族ができてから早くも十年が経った。あの頃は多感な時期で、ややこしい感情も沢山生まれたけれど、今はもう何のしこりもない。

 お父さんは未だに新婚みたいにお母さんにメロメロだし、妹とも上手くやれている……はずだ。

 私と仲良くなった男の子が咲夜を好きになっちゃうことが沢山あって、それはもう仕方ないことなのかなって思ってる。私だって優しくて可愛くて女子力が高い咲夜のことが大好きだ。こんな私にだって優しくしてくれる。


 でも、そろそろ私も結婚について真剣に考えなくてはいけない時期になってきた。

 ブサイクだからは言い訳にはならない。

 一応色んな婚活をやっているんだけど、いざ会ってみるとみんなすぐに別れてしまう。私って、そんなに性格が悪かったのかな。

 咲夜に相談しても「お姉ちゃんは世界一可愛いから大丈夫」としか言われないし。

 どの辺が世界一可愛いのか、ぜひお聞かせ願いたいのだけど……。

 学生時代男子からも女子からもいじめられていたこの見た目のどこに可愛い要素があるというのか。性格だってこの通り。優しくて気が利いて女子力が高い咲夜の方がうんと可愛いのにな……。

 咲夜は今、モデルの仕事をしている。

 高校生の頃にスカウトされて、それからずっと今まで続けているのだ。

 私はただの一般事務。お茶くみには向かない外見だから、専らパソコン業務だ。

 一応お父さんが社長だからお金持ちの部類に入るのだけど、お父さんはコネ入社とかそういうのを嫌っていたし、私もそうだったから、お父さんのことは伏せて仕事をしている。

 職場でちょっといいなと思う人がいても、なぜかすぐに辞めてしまう。運がないなぁ。まあ、私と付き合ってくれるとも思えないけれど……。


「お姉ちゃん! 駅前に新しいカフェができたの。一緒に行こう。そこのパンケーキ絶品だって!」

「で、でも……また太っちゃうし」

 モデルをやっている咲夜もそれは困るんじゃないかな。噂では体型維持は結構大変って聞いたけれど。

 私だってよく言えばぽっちゃり、悪く言えばデブだし。もうこれ以上太りたくないな。顔が悪いのは仕方ないとして、せめて体型だけはまともでいたい。

「お姉ちゃんはこのくらいが可愛いよ! もっと太ってもいいくらい」

「でも咲夜の仕事に影響出ない? それに、私といるところを撮られたら大変だよ?」

 昔、どこかの雑誌に“モデル咲夜の継姉は意地悪なブス”と書かれてイメージダウンしたことがあった。私はともかく、こんなにいい子の咲夜を傷つけるなんて許せない。私がそう言ったらお父さんはぎゅっと抱きしめてくれたっけ。

 咲夜のために怒ってくれてありがとうってことかなと思ったけど、お父さんも咲夜も、私の心配をしてくれた。

 なんて優しくて温かい人達なんだろう。お姉ちゃんは私が守る! なんて言われて嬉しかった記憶がある。でも咲夜はどっちかっていうと守ってあげたくなる系の女の子なんだけどね。男がほっとかない訳だ。

 そのあとその件はあっさり収束したけれど……お父さんが圧力をかけた?

 まさかね。


「お姉ちゃん……まだ、傷ついてる?」

「そんなまさか! 咲夜のことが心配ではあるけれど、私は平気だよ。だって本当のことしか書かれてなかったし」

「違う! お姉ちゃんは意地悪でもブスでもない! それに……私はお姉ちゃんのこと、本当のお姉ちゃんだって思ってる」

 なんて答えたらいいんだろう。

 私も? いや、そうかな。

「咲夜と違って、わ、私にはいいところなんてなくて、ずっと……色んな人達から、咲夜の邪魔になるから消えろって言われてきて……私も、本当にそうだなって思うし……。本当に、迷惑かけてない? 私、咲夜のお姉ちゃんでいていいの?」

 そこまで言うと咲夜が怖い顔になった。え、何か酷いことを言ってしまったのだろうか。私の悪い癖だ。無意識に人を傷つける。

「お姉ちゃん……そんなこと言ったの誰?」

「だ、誰って……ファンの人とか、雑誌の人とか……だ、誰だっていいでしょ? 本当のことを言われただけなんだから」

 咲夜の顔がますますムッとする。怒ってても可愛いな。……なんて、身内贔屓かな。

「わかった。自分で調べる。お姉ちゃんのこと、絶対に守ってみせるから。だから……こ、今夜……一緒に寝よう?」

 ね、寝る!?

 私も咲夜もいい大人だ。まあ男じゃないだけまだましだけど、それでもこの歳で添い寝……ええ……?

「なんか、寂しくて。最近嫌なことあったし……駄目かな?」

 私は咲夜の上目遣いに弱い。いや、古今東西、老若男女、咲夜の上目遣いに弱くない生き物なんていないだろうけれど。

 なんだかんだで私はそのままお風呂も一緒に入ってしまった。


*********


妹サイド


 だーれだ、世界一可愛いお姉ちゃんに変なことを吹き込んだバカは。

 あの日、お父さんが再婚すると聞いて、どんな碌でもない女なんだと疑ってかかった。でも新しくお母さんになる人は優しくて可愛くて、私はすぐに大好きになった。

 そして……顔合わせの時にその後ろからこそっと出てきた女の子に、私はひと目で恋をした。

 なんて可愛いんだろう。この世にこんなに可愛い女の子がいたなんて!

 ペラペラの安い服がよく似合う、年相応の女の子。ちょっぴり引っ込み思案だけど、それはいつも相手のことを考えているから。

 ピュアで、素直で、正直で、優しくて……そんな彼女を……新しいお姉ちゃんを、嫌いになんてなれなかった。

 お父さんが新しいお母さんにするように、深く重く執着した。

 可愛くおねだりしたら、一緒にお風呂に入ってくれた。可愛い。

 可愛くおねだりしたら、一緒に寝てくれた。可愛い。

 お姉ちゃんは「私がお姉ちゃんなんだから、しっかりしなきゃ」っていつも言っていた。可愛すぎる。

 私は昔から嫌な大人ばかり見てきた。強欲で、がめつくて、図太くて、腹黒い。そんな大人に対抗できるように、私もそれなりに力をつけた。

 演技力、美貌、地位、お金。使えるものは何でも使って生き延びた。

 そんな生活に、疲れていた。子供ながらに、世間に失望していた。

 でも、お姉ちゃんは違う。どれだけ苦しくても、どれだけつらくても、明るくて前向きで、優しくて、疑うことを知らない。

 散々ひもじい思いをしてきたのに、お金をあげると言ってもいらないと言う。

 たくさん家事をしてくれるのに、対価を払おうとすると「当たり前だから」とか、「私には勿体ないよ」とか言う。

 お母さんが贅沢な暮らしを嫌がるから、普通の生活をしていたのだけど、それでも社会勉強のためだからと部活の合間にアルバイトをしていたっけ。

 私がスカウトされた時、お姉ちゃんは私の好きなようにすればいいと言ってくれた。もしも私に嫌なことをされたら、助けるとも言っていた。

 私は可愛くておバカで、優しくて素直で、頑張り屋のお姉ちゃんが……

 好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでだーい好き。

 だから、不用意に近づくクズも、ブタも、虫も、みーんな、潰してやった。

 ある時は誘うふりをして。ある時はお金で釣って。ある時は破滅まで誘導して。

 私とお姉ちゃんの関係は秘密にしている。私のせいでお姉ちゃんが狙われたら嫌だから。

 それに、お姉ちゃんのことが大好きすぎて、お姉ちゃんじゃなくしてしまいたいから。

 お父さんがそれを許してくれないけれど、どんな手を使ってでも絶対にお姉ちゃんを手に入れてみせる。

 可愛い可愛いお姉ちゃんを、甘やかして、溶かして騙して、堕としてしまいたい。

 鎖で繋いで、私のベッドに閉じ込めたら、私だけを見てくれるかな。

 それもいいかもしれない。お姉ちゃんを見ていいのは私だけだし、お姉ちゃんが見ていいのも私だけだ。

 お金はたっぷりあるんだから、ずっとずっとふたりっきりでお部屋で遊びましょう。

 お姉ちゃんは誰かのものになんてなっちゃ駄目。お姉ちゃんは私だけを見ていればいいんだから。

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[一言] 排除型ヤンデレかぁ( ゜д゜ )
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