表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

みんなの前で歌うのは恥ずかしい

冬の童話2019 の企画内イベントより


歌が上手なコマドリさんのおはなしです。

ここは、逆さ虹の森です。


遠い昔、この森に逆さまな虹が架かりました。毎年、冬の1番寒い日になると逆さまの虹が架かる森は、いつの間にか、逆さ虹の森と呼ばれるようになりました。


逆さ虹の森に冬の季節がやってきました。森の動物たちは、1番寒い日に架かる逆さまの虹をお祝いするために準備をしています。


でも、コマドリさんは1人でドングリ池にいます。

歌が上手なコマドリさんは、逆さ虹のお祝いに歌ってほしいとみんなからお願いされています。みんなに歌が上手だと言われて断れなかったコマドリさんは、練習をすると言ってドングリ池まで来たのでした。

ドングリ池を眺めながら、コマドリさんは、ため息を吐きます。コマドリさんは、みんなの前で歌う自信がありませんでした。


「みんなの前で歌うなんてわたしには、出来ない」


と、コマドリさんはつぶやくと、近くに落ちていたどんぐりを池に投げます。


「誰か、わたしと代わってくれないかしら」


もう一度、どんぐりを拾って池に投げました。みんなの前で歌うことを考えただけで、コマドリさんは胸を締め付けられるような気がします。

コマドリさんは、うつむいてため息をつきました。


「ぼくが、代わってあげるよ」


誰かがコマドリさんに話しかけます。でも、コマドリさんの周りには誰もいません。横を見ても、後ろを見ても誰もいないのでコマドリさんは、驚きました。


「ふふふ。ぼくは、誰にも見えないんだよ」


声が聞こえるのに本当に誰もいません。誰にも見えないのにみんなの前で歌うことができるとは思えません。声の主は、どこかに隠れていると思ったコマドリさんは言いました。


「みんなの前に出られないのに、歌を歌えるわけないでしょう」


隠れている声の持ち主は、みんなの前で歌うのが恥ずかしいコマドリさんと同じで、恥ずかしくて姿を見せないのだとコマドリさんは思いました。


「ぼくにだって歌は歌えるよ」


そう言うと、声の持ち主は歌い出しました。でも、とってもへたっぴ。ギーギー、ガーガーとひどい声です。聞いていられないコマドリさんは、耳をふさいでしまいました。


「どうだい。立派だろう」


声が言います。とってもへたっぴなのにすごく誇らしげです。


「いいえ。あなたのは歌じゃない」


コマドリさんは、声の持ち主に文句を言いました。だって、わめいているだけなんですもの。


「わたしがお手本を見せてあげる」


そう言うと、コマドリさんは胸を張って、大きく息を吸って、歌い始めます。

サワサワ、チロチロとせせらぎのように歌うコマドリさんのきれいな声が響きます。


「ぼくも、負けられないよ。こうかな」


コマドリさんが歌うのに合わせて、声の持ち主は歌います。ガラガラ、ゴロゴロと聞こえる歌声にコマドリさんは歌うのを止めます。でも、さっきより少しだけよくなったかもしれません。


「違う。こうやって歌うの」


コマドリさんは、さっきよりも大きな声で。ソロソロ、カラカラと風が凪ぐように歌います。そうするとまた、姿を見せない声の主はカサカサ、トロトロと歌います。

今度は、コマドリさんがカランコロ、カランコロロと鈴がなるように歌います。声の持ち主は、コマドリさんに負けないようにと、コロロン、カララと歌います。

コマドリさんは、姿のない声の主の歌がどんどん上手になっていくので楽しくなってきました。コマドリさんは時間を忘れておもいっきり声を出して歌いました。




コロロン、ラララ、ルルルルルとコマドリさんの歌声が響きます。

どれだけの時間がたったでしょう。気が付くと歌っているのは、コマドリさん1人だけでした。あの声の持ち主はどこへ行ったのでしょうか。


「おーい、どこへ行ったの」


コマドリさんは、姿のない声の主に声を掛けます。


「ふふふ。これで大丈夫だね」


と声が聞こえると、風が吹きました。

もう、コマドリさんはみんなの前で歌うのが恥ずかしとは思っていませんでした。おもいっきり歌ったからでしょうか。いいえ、隠れていた誰かが勇気をくれてのです。コマドリさんはそう思うことにしました。


もう、日が暮れます。みんなのところへ帰らないといけません。でも、その前に。


「逆さ虹のお祝いが、無事に終わりますように」


とお願いをして、コマドリさんは、どんぐりを池に投げました。



偉い人も、すごい人も、大人になっても、誰だって人前に出るのは恥ずかしい。

でも、勇気を出して踏み出せば、背中を押してくれる人がいる。


そんな思い込めました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ