欠落した過程 3
息を呑み、決心して扉を開くと、そこには何の変哲もない壁で囲われた小さな空間だった。
どうすればいいのか分からず、そのまま突っ立っていると――――、
「安心してその空間の中に入りなよ、気づけば僕の部屋だからさ」
どこからか聞こえる現最強の声に従い、空間の中に入る。
「あ、私も行きますぅ!」
すると、慌てた様子でハルもその空間に入ろうとする――――が、ハルの足が扉を超えようとした瞬間に、勢いよく扉が閉まってしまう。
「まあまあ、ハルちゃんも後でちゃんと来させてあげるから、慌てない慌てない」
そう現最強がなだめていると、目の前の扉が木で覆われてしまう。
「まずは――――君からだよ」
その言葉を聞き、瞬きをひとつした瞬間――――まさに瞬間移動でもしたかのように、気づけば小さな空間の中、部屋の前で佇んでいた。
「・・・・これは・・・・」
「面白いでしょう?これでも練習したんだよ?」
「――――!」
あまりの衝撃に驚き、自分の今いる小さな空間をグルッと見渡す。
すると、聞こえてくるのは現最強の声――――しかし、さっきと違うのは声の方向・・・・どこから、ではなく、今回ははっきりと前にいるということが、前から聞こえてくるというのが分かる。
「・・・・やっと辿りついたってことでいいのか?」
「あぁ――と、言っても・・・・私の力有り気だけどね」
部屋の奥、中央で堂々と・・・・しかし怠けるように椅子に座るのは現最強。
物が散乱し、掃除をした様子もない・・・・まるで台風が入ってきたかのような荒れ具合をした部屋だが、その現最強の佇まいは、そんなことすら感じさせないぐらい毅然としたものだった。
「さて――――」
状況が掴めたところで、敵の中枢部ともいえるラスボスの現最強の部屋に、小さな空間から出て足を踏み入れる。
そして現最強と顔を見合わせ――――、
「・・・・早速だが、その力を捨てる気は――――」
「ちょっと待ちなよ、まだ早いだろう?」
気合を入れなおし、いざ戦わんとするとするために【破棄】するかどうかの言葉を投げかけるが、それを遮られ、茶を濁される。
まだ早いと――――これ以上何があるというのだろうか。
「ほら、まだ観客が来ていないだろう?来なよ、ハルちゃん」
「はぁい!主様の部屋にお邪魔しますですぅ」
現最強が観客と言い、名前を呼ぶと、ハルが元気よく返事をして部屋に入ってくる。
「よしよし、これで観客は揃ったね――――まだ何人か足りないけど・・・・まぁいいや、始めるとしよう」
「・・・・じゃあ、早速始めよう――――と、言いたいところだが・・・・戦う気ないだろ、お前」
「あれ?気づいちゃったかぁ・・・・」
現最強はエヘヘヘ、と自分の後頭部を撫で、照れくさいかのような動きをする。
「・・・・ま、戦いなんて・・・・面倒くさいしね・・・・本当に――どうしてこんな面倒くさい役を貰っちゃったかなぁ」
「はぁ」と、現最強はため息を吐き、その戦う気のなさを、怠惰を見せつける。
「・・・・別に戦わないならそれでいい・・・・ただ、こちらの条件を呑んでくれればな」
「条件――――?そりゃあまた随分な・・・・」
やはり面倒くさそうに、現最強は椅子に自分の全体重を乗せて、まるで干されたように脱力する。
しかしチラリと目だけでこちらを見ると、
「まあいいや、話してみてよ・・・・話だけなら聞くよ?」
そう言って、耳を傾ける。
「・・・・じゃあ、条件1――――」
人差し指を天に向けて指し、「1」と、条件の数を見せる。
「まずは「力」の【破棄】・・・・これが守られないならこの話は無しだ」
これは当然の条件だ、本来の目的である「現最強の力の抑制」を達成するためにも、この条件だけは譲れない。
「ふーん・・・・続けて?」
「条件2――――」
現最強の言葉に反応するように、次は中指も立てて「2」と、表す。
「地下にいる男たちいただろ、あいつらの解放だ」
「地下にいる――?あぁ・・・・まあ、それぐらいならいいか・・・・続けて」
案外あっさりと承諾してくれる現最強に、「条件3」と言って、次は薬指も上げる。
「ここの周辺にある町――――まあ村だな、その村の人間との共存・・・・もちろん、解放した男たち含めてだ」
この条件は、「差別をなくしたい」というウィスの思いから――――とりあえずまずは共存から・・・・そうすればエルフと人間との境目なんて無くなり、差別なんてのも無くなるだろう。ウィスも報われるだろう。もちろん簡単ではないと思う・・・・しかし、どれほどの年月が掛かろうが、ウィスの思いが消えるわけではない――――だから、この条件も絶対だ。
3つ目の条件を言い終わり、「以上だ」と言って条件の説明を終える。
「・・・・どうだ、この3つさえ守ってくれれば戦わずにすむ。もちろん、断るなら問答無用で戦闘開始だ」
「うーん・・・・そうだね・・・・」
そう言って考える素振りをしている現最強には、さっきまでのぐうたらしていた面影はなく――――むしろ、そんな気楽そうな顔ではなく、曇ったような表情だった。何か触れてはいけない深刻な部分に触れてしまったような、そんな表情だった。
「・・・・その条件じゃあ、ちょっと無理だね」
「・・・・一応理由を聞いておこう・・・・どうしてだ?」
「・・・・そうだなぁ・・・・」
現最強は天を仰ぎ、少し間を置くと――――、
「・・・・昔話をしよう」
そう言って、こちらに顔を向ける――――にこやかに笑う現最強のその顔は、しかし楽観的なものではないと、そう告げていた。




