欠落した過程 2
――――――おかしい。
あれから歩き続けても、一向に部屋らしきものに辿り着く様子はなかった。その結果、何度も歩き続けるばかりで、ただ無駄に時間を消費するだけになっていた。
「・・・・なあ」
「はいぃ?」
後ろに付いて歩くハルに声をかけると、ハルは疲れ切った声で返事をする。
「おかしいと思わないか?」
「・・・・何がですかぁ?」
「空気だよ、これだけ上っているのに一向に薄くならない・・・・それどころか、気温も下がっている様子もない・・・・これはおかしいぞ」
そう言ってハルに共感を求めるが、ハルは何がおかしいのか分からないといった顔をしている。
「要するにぃ・・・・何が言いたいんですかぁ?」
「・・・・要するにだな、高度が変わっていない――つまり、俺たちは上へと進んでいない可能性があるってことだ」
「・・・・ということはぁ・・・・私たちは無駄に時間を浪費していたってことですかぁ?」
「・・・・その可能性が高いな」
「そんなぁ・・・・」
ハルは立ち止まると、その場に座りこみ、ぐったりとした様子でいる。
「お前らの木を動かす術で、俺たちにバレないように木の段数を増やすことは出来るのか?」
ハルと同じくその場に立ち止まって、後ろを向いて聞く。
その質問に、ハルは「うーん」と少しだけ考えると、
「主様ならそれぐらいできるんじゃないですかねぇ・・・・器用ですからぁ」
「・・・・そうか」
もはや器用のレベルなのかと言いたくなるのを抑えながら、最悪の展開に頭を抱える。
この螺旋階段が、まるで逆エスカレーターのように反対方向に動いているのなら・・・・それを俺たちにバレないようにやっていたとするならば・・・・。
それならば、高度を全く変えずに俺たちの足止めをすることができる・・・・?
「・・・・ハル、お前の力で上まで繋がる木を作ることは?」
「無理ですよぉ・・・・このあたりの木は主様の言う事しか聞かないんですからぁ・・・・それにぃ、そこまでやったら完全に反感買いますよぉ」
木が言うことを聞かないのもあるが、最もな理由として現最強の恨みを買うのが怖いというハルに、「そうか」とだけ言うと――――。
「じゃあ・・・・やるしかないか」
「?」
その場で足を伸ばしたりして準備運動を始めると、ハルは不思議そうにそれを眺める。
「ストレッチ・・・・ですかぁ?」
「まあ・・・・似たようなものではあるな」
下半身を重心的に準備運動をする。
一通りその行為が終わると、大体の距離を見て――――
「すぅぅぅぅぅぅ・・・・はぁぁぁぁぁぁ・・・・」
「・・・・えぇとぉ?一体何を――――」
深呼吸をしているとハルが話かける・・・・話しかけようとする――――が、その瞬間、床を思い切り蹴って階段を駆ける。
「ちょ、ちょっとぉ?!待ってくださいよぉ!」
ハルは後ろから慌てて付いて来ようとするが、その勢いに追いつくことはできず・・・・いや、進行方向と葉逆に加速する木の階段に追いつくことができずに・・・・。
「ちょ・・・・うわぁ!」
その場に倒れてしまい、そのまま階段と共に下へと下がっていてしまう。
――――これが、この階段の動きを操作しているのがあの現最強ならば、わざわざ俺の速度に合わせて動かしているというならば・・・・解決方法はある。
実に脳筋的思考だが・・・・その木の階段の動く速度よりも早く動けば、つまり走り続ければ、相手の情報処理能力を超えるほどの速さで動くことが出来るならば――――!
「動く階段も・・・・超えられる・・・・っ!」
そう言って、ただ辿り着くことだけを考えて、上を目指して走り続ける。
走る人間の速度に合わせるのだ、相当の操作技術が必要だろう。相当の集中力が必要だろう。だから超えられるそのはずだ・・・・!
そう自分に思い込ませるように走る・・・・走り続ける――――が・・・・。
「・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」
徐々にそのスピードは落ちていき、その速度に合わせるように階段のスピードも落ちていく。
そしてそれは、ついには完全に静止してしまう。
「・・・・くっそ!・・・・ダメか・・・・」
膝に手をつき、「ぜぇはぁ」と息を荒くしながら、自分の無力さに悔やむ。
「あ、置いていかないでくださいよぉ」
すると、後ろからそう呼ぶ声が・・・・。
「急に走り出したかと思ったらぁ、階段まで動き出すんですからぁ・・・・驚きましたよぉ」
「・・・・マジかよ」
後ろから駆けてきたハルの姿が見え、さらに絶望に落とされた気分になる。
あれだけ走っても、あれだけ落ちていったハルが追いつける距離ということに、自分のやったことの無意味さと儚さを思い知らされる。
――――ハルがこちらへ駆けてきたときに階段が動かなかったってことは・・・・完全に狙いは俺ってことか・・・・まぁそりゃそうか。
呼吸を整え、顔を上げて「ふぅ」と息を吐く。
さて――――どうしたものか・・・・一度戻る・・・・いや、現最強は準備をしたいだけだ、戻って余計な体力を使うぐらいならば待っていたほうが得策か?
「・・・・まったく、そんなに私の部屋に来たいの?」
「!?」
悩んでいると、聞こえたのはまさに今考えていた現最強の声だ。
その声はどこからか、この空間全てから聞こえるような感覚だった。
その声に反応するように、ハルは天を仰いで「主様ぁ」と呼ぶ。
「流石に疲れたよねぇ?一旦帰ったら?」
「断る、そんなことをしたらここまで来た意味も無くなるからな」
それはウィスの死を無意味にしない意味でも・・・・。
「来た意味もなくなる・・・・かぁ・・・・別にいいと思うけどなぁ、ほら、何事も経験が大事だって言うじゃない?結果よりも過程だよ、この経験を今は家に持って帰ろ?」
「何度も言うぞ、断る。過程というのは結果の連続だ、だったら俺は勝利という過程を、経験を持ち帰りたい」
「・・・・もう君と話すのも面倒くさくなってきちゃった・・・・どうせ帰る気もないみたいだしね・・・・」
現最強がそう言い終わると、真横の壁が・・・・木がズズズと動き出す。
「じゃあいいよ、来なよ・・・・私の部屋に・・・・今度はちゃんと部屋に招待するからさ」
そこに現れたのは、木の扉・・・・現最強の言葉から聞くに、その扉は部屋に繋がっているのだろう。
「・・・・・・」
現最強は信用できない、この扉が罠でないとは言い切れない・・・・だが、嘘は吐いていないという自分の直感と知識を信じて、その扉に手をかける。




