交渉と策略 4
地面に倒れているリンを見て、ハルは呼びかける。
「・・・・いや、確かにリンも倒れてるが・・・・こっちはいいのか?」
そう言って、同じく倒れているもう一人のエルフ・・・・網に掛かったエルフを指さす。
ハルはそのエルフをチラリと見て確認するが、気にする様子もなくリンに再度呼びかける。
「リンさん!どうしてこんな目に・・・・ハッ!さては――――」
「手は出してないからな?」
お約束のように言葉を続けるハルに、お前の想像しているようなことはしていないと、先に言う。
「というか、こんなところにいたんですねぇ・・・・主から止められているにも関わらず、慌てて階段を上っていくもんですからぁ・・・・」
――――――なるほど、大体の状況が掴めてきた。
止められているにも関わらず階段を上ったリン・・・・そして、フロワを追いかけて上ってきたルリ・・・・
慌てていた、という証言から、おそらくリンは階段を上っていくルリを見たのだろう。そして、それを止めに行くために追いかけていたら俺達に出会った――――
フロワは俺達を、ルリはフロワを、それを見たリンはルリを追いかけて・・・・なるほど、なかなかややこしい状況になっていたわけだ。
「しかし、これは妙ですねぇ・・・・たかが人間が私たちの弱点を知っているなんてぇ・・・・」
「弱点・・・・もしかして顔を布で覆ったことか?」
フロワが言っていた倒し方と、ハルのいう弱点という言葉に関連性があると見て、そのことに関係があるかとハルに問う。
すると、その言葉を聞いたハルは目を光らせてこちらを凝視する――――
「顔を・・・・額を隠したんですかぁ・・・・?」
そう言うハルの声は、先程まで話していた声とは違い、低く、若干のくぐもった声だった。
その声色から妙な緊迫感が伝わり、「何か問題があったのか?」と聞く。
ハルは少し考えるような素振りを見せて、リンの額に自分の手を置く・・・・そして、しばらくするとこちらを向いて――――
「・・・・そうですねぇ、結構まずいですねぇ」
「まずいって・・・・何が?」
「・・・・私たちはぁ、木を変形させるのに膨大なエネルギーを消費するんですよぉ・・・・そのエネルギーっていうのが私たちの体を巡っているわけですがぁ、額の・・・・丁度真ん中あたりはエネルギーが固まってい て、そこを何かで覆ったり刺激を与えられるとぉ・・・・エネルギーは体を操るような機能も持っているので、身体機能が上手く機能しなかったりしてですねぇ・・・・」
上手く説明しようと言葉を選びながら話すハルに、概ねの趣旨は分かったと、説明を止める。
「とりあえずぅ・・・・このままだとリンさん、死にますねぇ・・・・せめてエネルギーの動きを変えられたとか、不足しているとかだったら良かったんですがねぇ・・・・額は完全にエネルギーの動きが停止してしまうんですよぉ」
エネルギーの停止・・・・それは、体を動かすエネルギーの停止・・・・つまり、心肺機能の停止も意味する。
呼吸はできず、脈は動かず、手や足すらも動かない。
そこに待ち受けるのは――――どうしようもない死だけだ。
「・・・・それって――――」
「どうにかできないの?!」
言葉を遮り、ハルに向かって叫ぶように言うのは、今まで口を閉じていたルリだ。
「どうにかですかぁ・・・・」
「お願い!私に出来ることは何でもするから!お姉ちゃんを・・・・!」
ルリは表情を強張らせ、慌てふためく様子で、助けを求めるようにハルに言う。
その様子を見たハルは「うーん・・・・」と考え込んでいる。
――――本当に、姉妹と言うのは凄いものだ・・・・初めて二人を見たのは取り調べの時――――なにやら口論をしていた姿だ。
あの短時間で口論を始めてしまうぐらいだ、そうとうお互いのことが気に食わなかったのだろう。
しかし――――そんな仲の悪そうな二人の間にも、確かに愛情というのはあったようで・・・・。
姉は妹を追いかけるために、主とやらに止められていたにも関わらず階段を上った。
妹は、そんな姉を助けるために必死に頼み込んでいる――――自分を犠牲にしてもいいからと。
「――――」
「お願い・・・・!お姉ちゃんを・・・・助けて・・・・!」
必死に頼み込むルリの姿を見て、ハルはため息を吐くと・・・・
「・・・・仕方ありませんねぇ!」
そう言って、ルリに近寄って頭をガッシリ掴む。
「文句は無しですからねぇ?」
「・・・・へ?」
そう言ってハルはルリの顔に自分の顔を近づける。
今から何が起こるのかが予想がつかないルリは、頭に?を浮かべる。しかし、そんなことはお構いなしにハルはさらにルリに顔を近づけると――――
唇を重ね、口づけをした――――――。




