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柊という男

学校という環境において、その男――――柊は、特筆すべき点もなく、いわゆる平凡だった。

その様子が現れたのは、柊が18の歳になったときだった。おそらく、受験や友人がいないがためのストレスだったのだろう。柊は自室という安全圏に閉じこもり――――確実に腐っていた。

いわゆる引きこもりというやつだ。そして、彼が1年という年を経た時――――なにが行動の糧となったのだろう。彼は自室の扉を開き、1年ぶりに私服を着て、コンビニへと向かっていた。

そしてその道中――――彼はトラックに轢かれたのだ。


***


目が覚めると――――そこは暗闇だった。

何もなく、風すら吹かない。しかし、一つだけ分かることがあった。

今自分は――――何かに座っている。ということだ



「やあ!調子はどうだい?」


突然目の前がスポットライトのようなもので照らされ、一人の少年のような人物が現れる。


――――なんだ?僕はトラックで轢かれたはず――――


「あぁ、確かに君は轢かれて――――死んでしまった」


――――!?考えていることを見破られた――――!?

いや、そんなことより――――やっぱり僕は・・・死んだのか・・・?ということは、ここは死後の世界・・・あの少年は神様?


「君の考えていることは全部聞こえてくるんだ、それにしても君には僕の姿が少年に見えるんだね」


「・・・どういうこと・・・ですか?」


ついに柊は口を開き、目の前の少年に問いを投げかける。

家族以外と話すのは、柊にとって中学以来だった。


「う~ん・・・簡単に言うと、僕は君たちの願いを叶えに来たんだよ!」


少年は腕を広げ、笑顔でそう言う。


「願いを・・・叶える・・・?」


「そう!前世で未練たらたらの君たちをここに呼んで、僕が願いを叶えたのちに別の世界へ送り込むって計画さ!」


「いわゆる――――」と少年は続ける。


「異世界転生ってやつさ!」


その言葉を聞いて柊は考える。


異世界転生――――ラノベなんかで今流行ってるアレか・・・

基本的に主人公が別の世界に転生して、無双やハーレムを築く・・・


柊は自分がその主人公になったつもりで妄想をする。魔物や盗賊をばったばったと切り倒し、無双する自分の姿を――――

そして、「少年の願いを叶える」という言葉を聞いて、それが現実的に可能だということに、柊は一つの結論にたどり着く。


そんなの――――最高じゃないか!


その感情を――――考えを聞いた少年は、ニッと笑うと「決まりだね」という。


「柊――――!君の願いは『無双をしてハーレムを築くこと』だね!その願い、確かに聞き届けよう!」


少年がそう言うと、床が光りだし、異世界転生が行われることが分かる。

しかし柊は――――


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「ん?なんだい?」


「あの・・・この体のままってことはできませんか?」


その言葉を聞いて、少年は「了解したよ!」というと床がさらに強い光を放ち始める。


「柊――――君のその願いを叶えるために一つの能力を渡そう――――!」


すると、頭の中にその能力の説明が流れ込む。


「能力の名前は『洗脳』、聞き方によっては悪い印象ががあるかもしれないけど、君の助けに必ずなるはずだ」


少年が言い終わり、あまりの眩しさに目を閉じる。

そして次に目を開けると――――そこは、緑に染まった広い草原だった。


***


――――結構広い町だな・・・


どこかしら洋風な建物が並び、その建物に住む住民たちの格好から、まるで中世のようなものを感じさせる。しかし、屋台などに書いてある文字は自分の国のものではない。それも当然だ、ここは異世界なのだから。


――――それにしても・・・


柊は回りを見て思う。自分の格好のおかしさに


気のせいか町の人たちの視線が痛い――――!早いところ服を買ってしまおう!


そう思い、服を売っている建物に入る――――が、


「帰りな!」


「で・・・でも・・・」


「こっちも生活があんだよ!帰りな!」


服を買おうと店に入ったのはよかったが、支払い時にお金を持ってないことを女店主に告げると途端に怒鳴られる。

その気迫に押しつぶされそうになり、もう出ていこうかと思ったとき、ふと柊は思いつく。


「――――あの・・・」


「なんだい!」


「て、店主さん!僕にこの服を譲ってください!」


そういって柊は、店主の前に自分が買おうとしていた服を出す。

その言葉を聞いた女店主は、「さっさと持っていきな、なんならここで着替えてから行くといい」とまで言ってくれる。

柊は「ありがとうございます!」と言うと、試着室に入り早速着替える。

上下の黒い服を着て、鏡の前で柊は思う。


――――ちょっと悪いことしちゃったかな?でも――――この能力・・・使える・・・!


そこからだった。柊が私欲のために能力を乱用し始めたのは――――


***


「柊さん!そっちに行きました!」


「任せろ!」


トカゲのような形をした、二足歩行の奇妙な生物。この世界では『魔物』と呼ばれているらしい。

その生物がこちらに来るという仲間の報告を受け、剣を構える。


「そこの魔物!動くな!」


その言葉を聞いたトカゲの生物は、ピタリと止まって動こうとしない。

そこに、柊の剣が振り下ろされ、生物は絶命する。最初は生物に傷をつけるというだけでも躊躇があったのに、今では簡単に命を奪い取るほど、柊は残酷になっていた。


「やりましたね!柊さん!」

「まぁ、あんたならこれぐらい余裕よね」


青髪と金髪の少女たちが柊に称賛の言葉をかける。


実に――――気分がいい。旅の道中で見つけた、貴族の少女たち。

「一緒に旅をしよう」と声をかければ付いてくる。自分に惚れこめと言えば従順な女へと早変わりだ。

――――しかし、もっと欲しい。


青髪の少女が魔法で傷をいやしているのを見て、ふと思いつく。


――――もし、魔法に制限をつけたら――――

術式を使わなければ魔法が使えないようにしたら――――?

術式というのは、魔法を使う時に場所を固定するために使う――――要するに、罠のようなものなのだ。

しかし、その術式なしでは魔法が使えないように錯覚させる。

そうすれば、自分だけが術式なしで魔法を使える。自分だけが優れている。

そんな光景を思い、柊は悪くないと考える。


「・・・町へ戻ったらやりたいことがあるんだけど・・・いいかな?」


「構いませんよ!」

「あんたがそういうなら・・・」


当然、自分の言うことを聞いてくれる二人は賛同してくれる。


「じゃあ・・・いこうか!」


そして、そんな状況になったとき皆に自分をこう呼ばせよう――――『勇者』と

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