交渉と策略 2
サラに飛び掛かったフロワは、何か小さいものを手のひらにのせ、どこかへと去っていく。
そのフロワに、サラは驚いた表情をすると、「待ちなさい!」と言いながらフロワを追いかけ始める。
――――いったい、これはどういうことだ?
突然として起こったその出来事に、まったく理解が追いつけずに階段を下りる。
しかし、いずれにしても――――これはチャンスだ。
フロワを追いかけようと走るサラの後を追おうとするハルの腕を掴む。
「な、なんですかぁ?!」
「いいから黙って付いて来い!」
「て、あなたは・・・・!また私を辱めに来たんですk――――」
「誰も辱めた覚えなんてねぇよ!ついてきたら報酬はやるから!早くついて来い!」
「え?報酬・・・・へへぇ・・・・」
「報酬」と聞いて何を想像したのか、ハルは笑みを浮かべながら、体の力を抜いている。
そんなハルの腕を無理矢理に引っ張り、強引に階段を上らせて上へと向かう。
「・・・・!あれは・・・・」
フロワを追いかけていたサラは、ふと上を見てそういう。
その視線の先には、ハルの腕を引っ張り、階段を駆け上がるラブの姿。
「あの男、確か脱獄した・・・・ということは、あの男がハルを・・・・!」
サラは、フロワを追いかけるのをいったんやめると、来た道を戻り、階段へと向かう。
それに気づくと、フロワも来た道を戻って階段へと向かい、ラブたちを追うサラを追うような形となる。
「・・・・て、結構やばい状況になってないか?これ」
「えへへへへ・・・・えへ・・・・」
後ろをチラリと見て、迫りくるサラとフロワを確認して直感的にマズいと判断する。
しかし、そんな状況でもハルはへらへらと笑っていることから、間違いなく良からぬことを考えているのだろうと感じ取る。
――――とにかく、サラだけには捕まらないようにしないと。
そう思い、ひたすらに駆け上がっていると、二階層目に入るのが分かる。
そこにいるのは、「大丈夫」と言ってその場にジッとしていたルリだ。
「ルリ、付いてくるならついて来い!とにかくあいつから逃げないと――――」
その瞬間、二階層と一階層の狭間に木が生える。
それは、丁度サラとの間に発生し、まるで壁のような役割となっていた。
「・・・・これで、よかった?」
「お、おう・・・・」
あまりの衝撃――――とくに、ルリがこんなことをしてくれるとは思わなかったため、少し驚きながら返事をする。
「あ、ルリさんじゃないですかぁ」
「ハルちゃん・・・・久しぶり」
「久しぶりですぅ・・・・元気でしたかぁ?」
「うん・・・・元気」
やはりハルがリンの部下的立ち位置だからか、リンと姉妹の関係であるルリはハルと面識があるようで・・・・ルリは、知り合いに会って安心したのか、少し表情が明るくなっている。
「・・・・で、私はなんでここに来たんですかぁ?」
「・・・・実は手伝ってほしいことがあってな」
「手伝ってほしいことですかぁ?」
「あぁ、当然報酬は支払う・・・・いや、「話す」と言ったほうがいいか?」
そこまで言うと、ハルは何かを察してグイッと顔を近づける。
「も、ももももも・・・・もしかしてぇ・・・・!」
「あ、あぁ・・・・好きな話、ジャンル問わずなんでも話してやるよ」
「手伝いますぅ!なんでもお申し付けくださいぃ!」
ハルは嬉々としてその報酬内容を聞き、まだ手伝う内容すらも言っていないのに承諾をする。
こいつ――――俺にはもうバレたからって完全に開き直ってるな・・・・子供がいる前で恥ずかしいとは思わないのだろうか・・・・
そんなことを思いつつも決して言葉には出さず、その様子を眺める。
すると――――
「おい貴様!ハルに何をする気だ!」
と、木の壁の奥から声がする。
その声に反応し、木の壁の方向を見ると、
「この声・・・・サラお姉さまの声ですぅ」
と、ハルが言う。
「妹を取られたから慌ててるのか・・・・この木が変形させられて、サラが通ってくることはないのか?」
「大丈夫ですぅ、この木はちゃんと作られていますから、作った本人以外は変形させることは出来ません」
「・・・・というと?」
「私たちの作る木はぁ、子供が後から扱いやすいように、変形させやすいようにしてあったり、逆に勝手に変形されたりしないように、小難しく作られたりしているのですよぉ」
意気揚々と話すハルだが、「仕組みは?」と聞くと「よくわからないですぅ」と返す。
「それにしても・・・・大人でも変形が難しい木なんて、ルリちゃん凄いですぅ」
「ルリ、頑張って練習したもん・・・・!」
褒められてさらにテンションが上がったのか、ルリの声はだんだんと明るく、元気になっていく。
「・・・・ま、とりあえず・・・・あまり争いはしたくないしな、誤解は解いておくか」
叫ぶような声が聞こえてくる木の壁に、コンコンとノックをすると――――
「えーと、あんたの妹借りてくけど・・・・まあ、悪いようにはしないから安心してくれ」
と、壁に向かって話しかける。
すると、一度は静まり返るが・・・・再び怒鳴るような声が――――
「嘘をつかないでください!貴様は一度ハルを辱めているではないですか!」
・・・・・・何か、完全に誤解されている。
「えーっと・・・・ハル、お前、俺が脱獄したときになんて言い訳した?」
再びハルたちの方を向き、ハルに質問を投げかけると、ハルは左上の方向に顔を傾けて目線を向ける。
そうやって考えるような素振りをすると、
「あの時ですかぁ・・・・確かぁ、「男に滅茶苦茶にされて、脱獄を許してしまいました」ですかねぇ・・・・」
「明らかに誤解を招くだろ、その言い方は!」
このセリフとおまけに、脱獄したときのハルの顔は完全にアウトな表情だった。
そりゃあ姉が誤解するのも無理もない・・・・。
「・・・・とりあえず、俺は何もしてないし、これからも何もする気はないから!誤解はするなよ!」
そう木の壁の奥にいるはずのサラに言って、その場を離れる。
壁の奥からは、まだ何か話しているような声がするが、とりあえずは無視をして――――
「じゃ、上へ行くぞ・・・・手伝ってもらう内容は、向かいながら説明する」
そう言って、階段へと向かうのだ。




