それぞれの思い 6
「・・・・どうしたんですか!大丈夫ですか?!」
やっとのことで元の階層に戻り、さっそく階段から聞こえるその声は、間違いなくフロワの声だ。
大方、ウィスの姿を見てパニックにでもなっているのだろう。
「・・・・あ、ラブさん!これどういうことですか?!」
フロワがこちらを見るなり近づいてくる。
「・・・・あぁ、ちょっとな・・・・階段を上るときにウィスを・・・・出血した少年を見ただろ?」
「えぇ・・・・確かに見ましたよ、しかしあの子はもう・・・・」
フロワは、後に続く言葉を話さない。
しかし悟ってしまう――――あの少年が、たった10年にも満たない年の少年・・・・ウィスが、勇敢な死を遂げたことを。
「・・・・でも、幸せそうな顔を――――していましたよ」
――――そのフロワの言葉を聞き、「そうか」とだけ答える。
「・・・・フロワ、すまなかった、あんな汚い手段で相手を倒して」
「・・・・それは私が許すとか、そういう話ではありません。しかし、少なくとも悪いと思っているという事が分かれば・・・・私は十分です!」
ニコッ、と優しく笑う少女の姿に――――やはり、あの子の姿がチラつく。
「・・・・とりあえず、これからはフードはしっかりつけろよ?何があるか分からないんだからな」
「は、はい!」
そう言って、ポンチョについているフードを被せてやると、フロワは返事をする。
――――ウィス、俺は今・・・・ちゃんとできているだろうか。
とても近い場所にいるはずなのに、どこか遠くへと行ってしまった一人の友人に、ラブは俯瞰的な思いを馳せる。
――――さて、これからどうしようか。
周りをグルッと見渡しても、上に続くような階段は無く。
ラブとフロワは、そこに立ち尽くすしかなかった。
・・・・本来は、マリーを脅すかなんかして情報を抜き出して・・・・それで現最強のもとへと行くつもりだったんだがな・・・・
しかし、マリーはすでに気絶、倒れ伏している。
起きるまで待つのも、相当時間が掛かるだろう。
「・・・・とりあえず、戻るか」
そういうと、フロワは同意して後を付いてくる。
下へと戻る階段を下ろうとすると、見えるのはウィスの亡骸―――――
「・・・・・・」
どこか幸せそうに見えるウィス・・・・その完全に脱力している体をゆっくりと持ち上げると、ラブは安定した床の上に置く。
「・・・・ラブさん?」
ポンチョを脱ぎ、ウィスの体を隠すようにかける。
「・・・・さ、戻るか」
そう言って、振り返ることはなく――――二人は階段を下っていく。
***
――――下へ行くと、真っ先に見えたのは倒れているリンの姿・・・・そして、そのリンの隣に寄り添っているルリだ。
「・・・・あれは?」
リンを指さし、フロワに聞く。
フロワは少し間をおいて、口を開く。
「顔を布で隠したんです・・・・ここのエルフは皆が鉄仮面を着けていなかったので、もしかしたらと思い・・・・」
そう答えたフロワに「なるほどな」と返すと、ゆっくりとルリの近くへ寄る。
「・・・・ちょっといいかな?」
相手の目線に合わせるようにしゃがみ、エルフ語で言葉をかける。
「・・・・!」
ルリはビクッと、怯えるような顔をしてこちらを見る。
・・・・怖いか、まあ当然だろう。
俺は少女の前で少女の仲間を倒し、その俺の仲間は少女の前で少女自身の姉を倒したのだ。
そんな俺を――――敵のことを怖がらないなんて、むしろ異常だ。
しかしルリは、怖がるような表情をするが一向に隠れたり退こうとはしない。
それどころか、立ち向かうかのような意思が見える。
――――なるほど、姉を庇っているつもりなのか。
手を広げ、リンに近づくことを許そうとしないルリに、笑顔を向けて落ち着いた声で話す。
「・・・・大丈夫だよ、君の姉をどうにかしようなんて考えていないから・・・・ただ、君の使う木を操る能力を貸してほしいんだ」
「・・・・な、なにをする気・・・・にゃ・・・・なん、ですか」
ルリは、唇を震わせながら話す。
言葉もその唇と同様に震えており、そうとう怯えていることが分かる。
――――まだ信用は足りないか・・・・幼いわりには凄い精神力だ。
幼くも、必死に抵抗するルリの対応に素直に関心していると――――
「・・・・大丈夫ですよ、私たちは敵じゃありません」
フロワが隣にしゃがみ込み、ルリの手を優しく包む。
そしてニコリと、微笑みかける。
「おねぇ・・・・さん・・・・?」
「お姉ちゃんをこんなにして・・・・ごめんね?でも、あなたがあの物語みたいに・・・・あんな悲しい思いをしてると思ったら、私、居ても立っても居られなくて・・・・」
「おねぇ・・・・さん・・・・」
――――当然、フロワの言葉など届いていない。
エルフ語と日本語、その言語の違いがあれば相手の言っていることなんて理解はできない。
だが――――感情は分かる。
もとより、人間は言語なしでコミュニケーションをしていたと言われている。
「目は口ほどにものをいう」なんて言葉があるほどに、人間は感情を読み取るのが、心情を知ろうとする能力が高いのだ。
・・・・それに
こんなに一生懸命に話しているフロワの言葉を・・・・一人の女の子の感情を、無視しようなんてことは思うはずがない。
「・・・・・・」
フロワをジッと見つめているルリ・・・・やはりどこか思うことがあるのか、言葉が通じなくとも何かを分かろうとしているのか、ルリは無言でフロワを見つめる。
「・・・・ルリ、もう一度頼みたい・・・・協力してくれないか?」
「・・・・本当に、何もしない・・・・?」
「あぁ――――約束する。俺はお前に・・・・いや、お前の姉を傷つけない」
「・・・・・・」
その言葉を聞き、ルリは再び無言になってしまう。
幼い少女に、難しい選択肢を与えているのは分かっている。
だが――――選んでもらわなければならない・・・・これは、ゲームの攻略のためとか、そういう問題ではない――――
ウィスの死が無駄ではないと、証明するためでもあるのだ。
「・・・・分かった」
「・・・・・・!」
「・・・・わたし、どうすればいい?」
ルリは、こちらを向いて聞く。
まだ信用されたわけではない、幼い少女はまだ震えて怯えている。
それでも――――少女の声に偽りはなく、本当に協力しようとしているのが分かる。
「・・・・ありがとう、じゃあお願いを言うよ?」
やはり優しく微笑みかけ、ルリに頼みごとを言う。
現最強を探すために・・・・ウィスの死を無駄にしないために、少女の力は必要不可欠なのだ――――。
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