それぞれの思い
キンッ――――と、鋭い音が響く。
鉄と鉄が、剣と剣とがぶつかる音・・・・私はこの音が嫌いだ。
私の世界では、剣と剣がぶつかるとき――――それは大抵、取り返しのつかないことが起きる前兆だ。
時には些細な意見の食い違い、時には大切な物の取り合い・・・・色々な思いがある。譲れないものがある。
そんな思想が交じり合い、人間たちは剣をふるう・・・・
本来ならば魔物に対して使うソレを、本来ならば身を護るためにあるソレを――――人間は、自分の欲に使ってしまう。
そして、ソレを使いすぎれば・・・・人間はやりすぎる。
取り返しがつかなくなる・・・・そして、後に気づくのだ――――
――――――自分は今、「人を殺した」のだと。
――――キンッ!
「~~~~~~~!」
「何言ってるか分かんねぇですよ・・・・!」
大方、何故私とここまで戦えるのかと、疑問に思っているころだろう。
それも当然だ、だって今私は――――ただの短剣一本で、相手の片手剣を圧倒しているのだから。
戦闘技術は全て兄から教わった。
魔法の使い方から罠の仕掛け方、簡単な剣の使い方と種類まで。
数多くの剣の中、まだ幼かった私に兄は短剣の使い方を教えた。
その短剣の使い方の中に・・・・真っ先に教わった剣技がある。
――――それは、小さい剣でも大きな剣を、大きな相手の攻撃を受け流すことが出来る技だ。
今思えば、魔物が蔓延るあの世界で、そんなものを真っ先に教えていた兄に疑問を抱くべきだった。
対人戦の技を・・・・そんな方法を知っていた兄を疑うべきだった。
――――キンッ!
「・・・・あなたも、妹を持っている一人の姉ですよね?」
「?~~~~~!」
やはりエルフは何を言っているか分からない。
おそらくこっちの声も、相手からしたら何を言っているかは分からないだろう・・・・けど、それでも――――!
「あなた・・・・恥ずかしくないんですか!?」
「!?」
突然の怒鳴り声に、エルフは一瞬驚いた表情をする。
たとえ言葉が通じなくても・・・・それでも感情を伝えることはできる。
ならば、せめてこの思いだけでも伝えたい・・・・いや、伝えなければいけない――――!
「妹さんをずっと一人で放置して!まだあんなに幼い子を無視して!家族はあなただけしかいないんですよ!?」
これは・・・・ただの憶測だ。
あの部屋で見た人形劇・・・・そこから思ったことを、考えたことをまとめて、登場人物であろうその姉に感情をぶつけているだけだ。
もしかしたらあれはただの物語なのかもしれない。作り話かもしれない・・・・だけど、それでも――――
「妹にあんな悲しい顔させて!あんたは恥ずかしくないのかって聞いてるんですよ!」
――――キンッ!と、剣がぶつかり合った瞬間、リンの剣を弾き飛ばして、フロワは距離をとる。
そして、妹であろうルリに指を指して――――
「まずは!あなたの妹に謝罪してください!で、その後たっぷりと愛情を注いでやってくださいよ!」
「・・・・!」
ルリを指さしたことにより、ようやく何を伝えたかったのかが分かったのか、リンは俯きながら苦虫を噛み潰したような顔をする。
キッ、と前を向き直し鷹と思うと、リンは剣に対して早口で何かを話しかけ始める。
「・・・・!?剣が・・・・」
――――――剣が形を変えていく。
柄の部分がグニャグニャと曲がったり尖ったりしていく。
その動きが止まると、剣は、まるで穴を空けられたかのように所々曲がった剣になる。
「・・・・流石に、そんな剣は相手をしたことはありませんよ」
しかし、容赦なくリンはこちらへと突撃してくる。
――――グッ!・・・・まずい、丸みがある分、剣を弾きにくい・・・・でも――――
「・・・・せいっ!」
「!」
剣を弾き返し、再び距離を取る。
「返せないほどではないですよ・・・・どれだけ兄に鍛えられたと思ってんですか」
しかし、それでも厳しいのは確か・・・・体力の消耗も激しい、長期戦は避けたほうがよさそうだ。
――――!
再びリンが剣に言葉をかける・・・・
「まずい・・・・!」
これ以上は剣を変化させてはいけない・・・・そう思い、相手への距離を詰める・・・・だが、
「・・・・ガッ・・・・!」
腹部に重い一撃が入る――――。
一瞬何が起きたのか分からなかったが、体が宙に浮きながら飛ばされるのを感じ、即座に理解する。
――――あぁ、今自分は蹴りを入れられたのだと。
判断を誤った。上手く罠にハメられた。
相手の剣の変化を見たせいで、慌ててしまった。
相手は剣でしか攻撃してこないと、勝手に思い込んでいた。
――――完全に、やられた。
「げほっ・・・・げほっ・・・・!」
咳きこみながら体を起こす。
腹部が痛い・・・・しかし骨は折れていない。
頭が痛い・・・・しかし思考はできる。
足が痛い・・・・しかし歩くことはできる。
全身が痛い・・・・しかしまだ動ける――――!
リンはゆっくりと詰め寄りながら、剣を元の形へと戻す。
そして、剣を振り下ろす――――!
――――キンッ!・・・・私は、この音がさらに嫌いになりそうだ。
体は痛いし、魔法は使えないし、剣は変化するし、なにより命が危ない・・・・
しかし、これは自分を護るために鳴らす音ではない・・・・そんな音は、必ず取り返しのつかないことが起きる。
――――それでも・・・・!
「私は戦わなければいけない!たとえそれが自己満足だとしても、私はこの子を救うと決めた!」
とある少年は言った、自分の人生は自分しか知りえないと。
――――自分の人生は自分しか知りえない・・・・だけど、それを知ろうとするのは悪くない。
そして、それを知った後に、何か行動しようとするのもまた悪いことではないのだ。
――――とある少年が、自分にしてくれたように。
「取り返しがつかなくとも、それが悪いことだとは限らない・・・・!ならばできるだけ、いい方向へ取り返しがつかない方が私は好きだ!」
剣を弾き、距離を取る――――
すると、リンは剣に話しかけ始め・・・・
「させませんよ!」
走り、距離を詰める・・・・すると、やはりリンは蹴りを入れる・・・・が、
「!?」
その蹴りは一歩届かず空を切る。
フロワが後方へと下がったのだ。
「二度目は喰らいませんよ!」
「~~~~~!」
上げたままの足をリンは戻そうとする。
しかし、フロワは当然その隙を逃さない。
「・・・・!?」
リンの視界が暗闇に染まる。
「・・・・ずっと疑問に思っていたんですよ、何故ここの騎士は鉄仮面を着けていないのかって」
フロワは、脱いだポンチョをリンの頭部に巻き付けながら言う。
「少なくとも私の世界では、防具を着けている人は、よほどのことがない限り、何かと戦う時は必ず仮面を着けていました・・・・しかし、この世界では誰一人としてそんなものは着けていない」
リンの体がプルプルと痙攣し始める。
しかし、構わずフロワは続ける。
「・・・・だから、頭部を隠すのは何かがあるからだと――――そう考えたのですが・・・・結果は想像以上でしたね」
リンは、抵抗もないままバタリと地面に倒れる。
その姿を見ると、フロワはポンチョをとって再び着る・・・・。
「・・・・宗教的な何かがあるか、はたまた偶然か・・・・何かしら理由はあると思っていましたが、結局その理由も分からなそうですね」
リンの手から落ちた剣を遠くへと蹴飛ばし、フロワは「はぁ」とため息を一つ・・・・。
「・・・・お姉ちゃんと、仲よくしてくださいね」
そう言って、ルリに笑いかけながら・・・・フロワは階段へと向かっていく。




