盤上の戦士 4
「貴様ら・・・・!何をしている・・・・!」
「よう・・・・リン」
鬼のような形相をしているリンは、まるで犬のように歯を見せて敵意を示す。
「何故貴様らが、ルリと共にいるんだ!」
「ルリ・・・・?」
聞き覚えのない名前に、疑問を浮かべていると・・・・
「おね・・・・ちゃん・・・・」
「お姉ちゃん・・・・?」
幼エルフが、リンを見るなりそう呟く。
――――なるほど、姉妹ってことか。
「ラブさん・・・・あの方は何と?」
「表情みりゃわかんだろ、妹盗られて激おこだ」
エルフ語が分からないフロワは、相手に聞こえないように俺に言う。
それにしてもマズい状況だ、流石にこれ以上やりあうのはキツイ・・・・話し合いでなんとかするか、それでダメだったら【洗脳】で一発KOでも狙ってみるか。
「・・・・ラブさん、断られるのを承知で言います。ここは私に任せてください」
「・・・・!」
リンを見つめながら、フロワはそういう。
「・・・・お前は今、魔法を使えないはずだろ」
「魔法がなくても戦える方法を学んでいます。ナイフも持っていますし、お願いします・・・・私のためにも、この子のためにも・・・・」
頭を下げて、フロワは頼みに頼む。
自分だけではなく、これはこの子の・・・・ルリのためでもあるのだと。
「・・・・わかった、じゃあ俺達は先に行くからな」
「・・・・!はい!」
フロワは承諾されたことを喜び、嬉しそうな顔で勢いよく返事をする。
「何を話している・・・・!」
そう言うのはリン。
リンは木の枝を取り出すと、枝に話しかけ始める。
枝は太く伸びると、まるで剣のような形となる。
「・・・・気を付けろよ」
「はい!」
それだけのやり取りをすると、ウィスに「行くぞ」と声をかける。
ウィスはそれに従い、後ろから付いてくる。
「・・・・あいつは任せることにしたのか?」
「あぁ、俺達の体力も限界だったしな」
正直、あそこであの提案を出されたのは好都合だったかもしれない。
「・・・・それだけじゃないだろ」
ウィスは、まるで見透かしたようにそういう。
・・・・それだけではない、当然だ――――あんな顔で、あんな目で見られたら俺は・・・・
「・・・・俺は、ダメだなぁ」
天を仰ぎ、乾いた声でそういう。
そんな言葉に、ウィスは不思議がりながらも聞かずにいてくれる。
気づけば9階層はすぐそこに・・・・
***
「・・・・早かったね」
「そりゃあ仲間にキレられてまで突っ走ってきたからな」
金髪をなびかせながら、9階層目にてあぐらをかいているのは「王」――――倒すべき相手、ラスボスだ。
「まったく、まだ準備段階なんだから・・・・もう少し遅く来てほしいなぁ」
「準備なら済ませておかなかったお前のせいだ、俺は悪くない」
愚痴を垂れるエルフに対し、自分は悪くないと、言い切ると・・・・
「・・・・そうだね、確かに私が悪いかもね」
そう言って、エルフは自分の非を認める。
「じゃあ、その準備を間に合わせるから・・・・延長戦といこう」
そう言って、そのエルフはズズズと木の床と一体化していく。
「!・・・・待て!」
呼び止める声も叶わず、エルフはすでにどこかへと消えてしまう。
「・・・・くそっ!」
床を叩き嘆いても、返って来るのは自分の声だけだ。
そんなところに、さっきから無言でいるウィスが近づいてくる。
「・・・・なあ、オイラさっきから考えたんだ」
「・・・・なんだよ」
「おめぇは、あの女と仲直りしてきたほうがいい・・・・あいつはオイラが倒すからさ」
「・・・・!?なんで、急にそんなこと・・・・」
振り向き、ウィスの方を見る・・・・
どうして今更そんなことを、どうして・・・・その疑問の答えは、自分で分かっている。
だが、どうしても自分のプライドがそれを許さない。
「・・・・仲間ってのはさ、おめぇが思ってるよりも軽いもんなんだよ。すぐに仲間になったと思えば、すぐにいなくなって・・・・友情を育めたと思っていたら、欠点ばかりを見せていただけで・・・・」
「・・・・何が言いたいんだよ」
「・・・・仲間ってのは軽いんだ、だからさ――――おめぇには失ってもらいたくねぇんだよ、おめぇが唯一区別しない相手を・・・・区別できない相手を・・・・」
ウィスは知っている。人間の醜いところを・・・・自分だけが安心したいと思う人間の自分勝手さを、わずかこの歳にして知っている。
ウィスは知っている。世界の理不尽さを・・・・ただ種族が違うだけで畏怖されることを、わずかこの歳にして知っている。
だからこそ・・・・ウィスは言う――――そんなものは、出来るだけ知らないほうがいいと。そんな寂しいことは、せめて聞くだけでいいと。
ウィスは言う・・・・二度と手に入らないかもしれないものを、少しの歪で壊れるモノを、決して手放すなと。仲間は簡単にいなくなるが、代わりはない。と――――
だけど――――俺は言う、すぐ壊れるからこそ、そんなものは見たくないと、壊れた部分なんて見たくないと、目を背けたいという。
だが、それが意味のないことだと自分で分かっているからこそ・・・・よほど吐き気がする。
「頼むからさ、この戦いが終わったらでもいいからさ、あの女に・・・・謝罪してくれねぇか?たとえおめぇが正しかったとしても、あの女が間違ったとしても・・・・それでも、仕方がないと割り切ってくれねぇか?」
たとえ正しくても、妥協して謝れば・・・・大切な物は失わずに済む。
「・・・・仕方がないわけではない、これは俺が招いたことだから対処もできた・・・・だから、仕方がないことはない」
だけど、それでも――――
「今は、謝っておいたほうが都合がいいから・・・・そんな理由で謝るとするよ」
「・・・・あぁ、それでいい」
――――最善の道を選んだだけ。
自分の非は認めない。
あくまでも、そっちのほうが楽だから選ぶ・・・・
だが、それでも・・・・それでもいい、ウィスはそう言って――――
「・・・・ここで、何をしているんですの?」
「――――!?」
声が聞こえた方向へと目を向ける。
その声は聞いたことのある声だ。
「・・・・マリー」
「・・・・あなたたち、何をしているんですの?」
その声はどこか怒りのこもった声で、どこか恨めしい声で。
ただ、どこか悲しそうな声で――――




