盤上の戦士
「どうも、主から事情は聴いております――――私がこの6階層目のお相手を担当させていただきます・・・・ロラと申します」
「そりゃあどうも・・・・」
階段を上がり、最初に対峙するのはロラと名乗るエルフ――――
彼女は鉄の鎧で身を包み、頭からは綺麗な金色の髪をなびかせている。
丁寧に名を名乗り、お辞儀する彼女だが、警戒は決して怠らない。
ロラはどこからか木の枝を取り出すと、それにぼそぼそと話しかける。
木の枝は形を変え、鋭く尖った槍へと変形する。
「では――――参ります・・・・!」
そう言って、槍を持ったままこちらへと突撃してくる。
「・・・・ロラ、止まれ!」
「・・・・!」
槍を突き刺そうとする彼女は、俺とウィスの目の前でピタリと止まる。
「くらえよ・・・・!」
後ろに隠し持っていたスタンガンを、ロラの首元に突き出す――――
「グッ・・・・!」
それをまともに喰らったロラは、そのまま脱力し、床に倒れる。
「安心しろよ、死ぬことはねぇから」
倒れたロラにそう言うウィスだが、ロラは喋ることすらままならず、そのままピクピクと指先だけが動くだけだ。
「簡単な説明だけで作れるのもそうだが・・・・殺さず無力化できる丁度いい電力を短時間で作れるとか・・・・本当に、お前は天才だよ」
「ケッ、そんなことより次に行こうぜ、まだまだ先は長いんだからよ」
「そうだな・・・・」
ウィスにそう言われ、階段のある方向へと向かう。
もし、このステージとやらの階層が、変形する前の改装と同じならば・・・・頂上までの残りの階層は3階層。
つまり、頂上まではあと2人倒さなければいけない・・・・ということになるのだろうか。
中ボスと言われる部下たちが2人、そしてラスボスの「不老不死」の女・・・・盤戦で言うところの王であり、現最強と思われるエルフ。
「・・・・不老不死、どう攻略しようか」
「おめぇがさっき使った奇妙な技はダメなのか?」
「あー・・・・あれは使い勝手が難しくてな」
現最強をどう倒そうか・・・・未だ6階層だが、最終的には戦わなければいけない相手と、どう戦うか考えるラブにウィスは提案する。
ウィスのいう「奇妙な技」というのは、さっきロラに対して使った【洗脳】のことだろう。
最初の異世界でヒイラギから奪った【洗脳】・・・・今回はロラが自分から名乗ったため使えたが、あのエルフが自分から名乗るとは思えない。
それに、【洗脳】を使ったとしても倒せる保証はない――――そうなると【破棄】を使うか【回収】を使わなければいけないのだが・・・・【破棄】を使うには相手の了承がいるし、【回収】を使うには相手の能力を当てなければいけない。
・・・・ま、とりあえずは次の戦いに集中するか。
階段が近づき、すでに上れる位置にあるのに気づき、思考を切り替える。
すると――――
「ラブさーーーーん!」
「!・・・・フロワ」
後ろから声がしたため振り返る。
自分を呼ぶ声の主は、ポンチョを着てフードを被っている・・・・まるで自分と同じような格好をした少女、フロワだ。
「どうしてここに?」
「「どうして」じゃありませんよ!急にあんな穴を開けて入ってきたと思ったら、次は木が勝手に変形したりして・・・・こっちは脳の処理が追いつきませんよ!」
「お、おう・・・・すまん」
フロワは顔を膨らませ、こちらに向かって大声で言う。
どうやら、たいそうご立腹のようだ。
「・・・・で、どうやって上ってきたんだよ、あそこは車を壁にしたはずだから上れないはずだが?」
「木が変形しているのは上だけじゃないんです。下も同じですよ・・・・ただ、あのエルフの大群はラブさんを追いかけようとはしていませんでしたが・・・・」
――――追いかけてこない・・・・ということは、あの現最強がそう命令したのか?
車という壁があってもなお、危険を冒して追いかけようとするエルフたちが諦めたとは考えられない・・・・
「お、おい・・・・あいつは何を言ってるんだ?」
そう言うのは、後ろから服を引っ張って興味津々な顔で目を輝かせる少年――――ウィス。
「あぁそうか、お前は日本語分からなかったな」
「日本語・・・・?!なんだそれ、詳しく聞かせろ!」
「・・・・って!ラブさん!その子は誰ですか!」
二人に挟まれ、質問攻めを受ける。
ウィスは日本語という別言語に、フロワはウィスという見ず知らずの少年に興味を持って――――
「えぇっと・・・・まずフロワ、こいつはウィス・・・・「力を持つもの」の討伐を手伝ってもらってる」
フロワに対し日本語でそう言うと、次はウィスの方を向く。
「ウィス・・・・こいつはフロワだ、俺の仲間で同じ言葉を使う人間だ、日本語については・・・・まあ、この戦いが終わった後にでも」
「おう!約束だからな!」
ウィスにエルフ語でそう言うと、新しい言語を知るのが楽しみらしく、とてもはしゃいでいる。
「・・・・ラブさん、その言葉・・・・」
「ん?あぁ、完全に取得したぞ――――この世界の言語」
「さすが・・・・というか、どうやって?」
「そりゃあ本を大量に送ってくれたからな、あれだけ資料があれば余裕だ」
「いや、本を読んだからって・・・・そんな簡単にできるわけ・・・・」
「あとは、適当な言葉を言って反応を見たりして意味を確認したりとか・・・・まあ色々方法はあったよ」
――――それでも、フロワは納得のいかない顔をする。
確かにやろうと思えば、言語の解読ぐらいできるのかもしれない・・・・しかし、それでも早すぎると――――フロワは、完璧にエルフ語を使いこなすラブに、疑問を抱く。
「・・・・それよりよぉデカブツゥ~!おめぇ、誰にでも区別しないのかと思ったら、案外そうでもねぇじゃねぇかよぉ~!」
「・・・・?何を言ってるんだ?お前は」
「おいおい、誤魔化さなくたっていいぜ?オイラは分かってるからよ、おめぇのあいつを見る目・・・・完全に色気づいてるぜ――――――!?」
そう言って茶化すウィスだが――――その言葉は口に出してはいけないと、すぐに察する。
「・・・・そんなんじゃねぇよ」
――――そういうラブの顔・・・・何か、触れてはいけない何かに触れてしまったような表情・・・・。
さっきまでの態度とは違い、何か重苦しい雰囲気を漂わせるラブに――――
確実に、この話題だけは避けなければいけないと、ウィスは直感で感じ取る。
「・・・・ま、さっきお前が言った通り、まだまだ先は長い・・・・次、行こうぜ」
「お、おう・・・・」
そう言って、階段を上ろうとするラブにさっきまでの雰囲気はなく――――
まるで、全てが幻覚だったと思わせられる。
しかし、確かに見たあの顔を――――ウィスはしっかりと脳裏に焼き付けて・・・・




