盤戦
「――――――ん・・・・ん?」
机に突っ伏すように倒れた体を起こし、欠伸をしながら目を擦る。
・・・・・・そうか、このゲームをした後に寝たんだっけな。
「よぉ、起きたかよデカブツ」
「・・・・よおクソガキ、最高の目覚めだよ」
起きたところを見たウィスが、こちらへと話しかけるので対応をする。
ウィスは片手にコップを持っており、中には黒い液体が入っていた。
・・・・この匂い、コーヒーか。
「おめぇも飲むか?オイラが開発した最高の飲み物だ、目も冴えるぜ」
そういって、ウィスはコップを作るとこちらへ渡す。
しかし、その中身は空で何も入っていない。
「・・・・これ、中身空だぞ」
「そりゃあそうだ、そこにコップを置いて出っ張りを押せよ、そうすれば出てくるぜ」
そう言ってウィスが指さした先にあったのは、コーヒーメーカーと思われるものだ。
コーヒーメーカーにコップを置き、ボタンを押す。
すると、ジョロジョロと黒い液体が出てくる。
コーヒーが完全に出たのを確認し、コップを持ち上げて口へと運ぶ・・・・
「どうだ?結構うまいだろ」
「・・・・まあ美味いと言えば美味いな」
――――少なくとも、檻の中で手に入った水よりかは・・・・
「だが、この飲み物を作るには豆が必要だったはずだが・・・・どこから手に入れたんだ?」
「よく知ってんな・・・・豆はあの女どもの所から盗んできたんだよ、それを別の部屋で育ててんだ」
「・・・・なるほど、だが育てる意味はあるのか?別に「飲み物の入ったコップ」を作ればいいんじゃないのか?」
「・・・・この能力を見て、気味悪がられたら嫌だろ?」
「――――――」
昨日の夜、自分が考えたことを思い出す。
「ウィスはどこか、一人を拒んでいるように見える」と――――――
「・・・・そんな顔すんなよ」
「あ?――――ちょっ・・・・!」
ウィスに近づき、髪をわしゃわしゃとかき乱す。
気分を晴らすように、紛らわせるように。
「俺は人間を、生物を差別しようとは思わねえよ、だからお前のことも他のヤツらと同じように見てる。そこに差はない――――だから、せめて俺の前では好きにやれよ」
「・・・・確かにな」
笑ってそう答えるウィスを見て、自然と口元が緩む。
「確かにおめぇは、今までオイラが見てきた中で一番平等だ、だからこそ・・・・オイラはこの施設におめぇを入れたわけだが――――」
ウィスは、置かれた手をどけると、モニターのほうに歩き、空になったコップを机の上に置く。
そしてモニターの電源を点けながら話を続ける。
「だがよ――――おめぇは差別もしなければ、区別もしない・・・・違うか?」
諭すように、ウィスはそういう。
「区別」と「差別」というのは、似ているようで全く違うものでもある。
例えば性別――――男を女とは見ないし、女を男とは見ない。
それは「差別」ではなく、「区別」だ。
絶対的に違うものを「違う」という・・・それが「区別」だ。
根本的に同じだが、微妙に違うものを「違う」と言い切る・・・・それが「差別」だ。
俺はその「区別」と「差別」の違いすらも無くしていると――――ウィスは、そう言いたいのだろう。
「平等――――なんて言えば、聞こえはいいかもしれないが・・・・それは、人間を人間として見ていないのも一緒だ、植物を動物として見るのと、草を人間として見るのと・・・・そこに違いはない」
「・・・・・・」
「・・・・まあ、所詮クソガキの戯言だ、気にするのも気にしないのもおめぇ次第だ、ただ――――」
ウィスは振り返り、こちらと目を合わせると――――
「――――その生き方、オイラはおすすめしないぜ」
「・・・・・・」
返事をしないまま硬直していると、ウィスはモニターへと向き直る。
「おすすめしない」か・・・・
コップを口に付けて傾けるが、何の感触もしない。
底を見ると、すでにコーヒーは尽きていた。
「・・・・なあ」
「なんだ?」
ウィスに話しかけるが、ウィスはモニターに向かったまま、ずっと何かを触っている。
「お前さ・・・・この世界、壊してみたいと思わねえか?」
「・・・・何言ってんだおめぇ?」
問いかけに、ウィスは頭に疑問符を浮かべながら返事をする。
「・・・・壊すんだよ――――この世界を」
「・・・・くっ・・・・ギャハハハハハハ!」
ウィスは、バカにするかのような笑いをすると、やっとこちらを向く。
「おめぇ何言ってんだ?世界を壊す?そりゃあ難儀な話だ、悪くはないが――――どうやってやんだよ、そんなこと」
そう問いかけ返すウィスに、その言葉を待っていたと言うように、指を指す――――
指した場所は、モニターに映る大木――――エルフの町だ。
「あそこにいる王を討ち取る――――そして、ウィス・・・・お前が王になるんだよ」
「・・・・オイラが、王に・・・・?」
「あぁ――――」
「・・・・ギャハハハハハハ!」
ウィスは再び、腹を抱えて笑いだす。
「そりゃあいいね、オイラが王になっちまえばあの女どもも、地上にいる奴らも――――みぃんな、オイラのいう事を聞くってわけだ」
含みのある笑い方をしながら、ウィスはこちらをジッと見る。
「まあよ、王になるってのは難しくても・・・・それでも、俺とお前の頭脳があれば――――「王を討ち取る」程度なら、余裕だと思わねえか?」
「・・・・かもな、だけどよ――――そんなことをして何の意味があるんだ?それで下手に反感を買って殺されでもしたら・・・・」
「――――「何の意味がある」か・・・・」
顎に手を当てて考えてみる・・・・王になれるという確証もなく、王を討ち取ることさえ確証はない・・・・そんな戦いに、一体どんな意味があるのか――――
「・・・・いや、意味なんてないな」
「・・・・は?」
「意味なんてねぇよ、俺はあいつを倒す――――やる意味はお前次第なんじゃねえか?お前は・・・・何をしたいんだ?」
「・・・・・・・・オイラが何をしたいか?」
「あぁ、お前は・・・・このままでいいのか?一生を地下で過ごし、自分は何もせずに安全地帯で・・・・お前の言う「楽園」にずっといるだけだ、それで・・・・お前はいいのか?」
「オイラがいいのか・・・・?」
「・・・・・・・・お前は、「友達」を作って、遊びたいんじゃないのか?」
「――――――」
二人用のゲーム、数人分のエレベーター、何人かが入れそうなぐらいの部屋・・・・おそらく、無自覚で作っていたであろう複数人に対応できるこの施設・・・・そこから割り出されるのは、ウィスが今まで何を欲していたのか――――
今まで誰からも愛されず、必要とされず・・・・十年近く生きて欲するのは「友達」に違いないと――――
「・・・・・・・・そうか、オイラは・・・・友達が欲しかったのか」
「・・・・さあ?自分の欲しいものぐらい、自分で決めろよ」
「・・・・そうだな・・・・オイラ、友達がほしい!オイラは王になって、皆と友達になる!」
「――――――へえ、いい夢じゃん」
子供らしく笑うウィスに、優しく夢を肯定して――――
「・・・・じゃ、決まりだ」
お互いに顔を見合わせ、ニッと笑って――――
「打倒、王――――!」
そう言ってラブはモニターに映る森を見る――――
「・・・・まるで盤戦だな」
そう言ってウィスは、ゲラゲラと笑って――――
「じゃあ改めて――――ゲーム、スタートだ」
これが盤戦ならば・・・・ルールはもっと簡単に説明できる。
――――「王を倒せば勝ち」だ。




