男の脱獄 5
やはり建物の影で座りこみ、何やら視察といいながら民家を訪ねるエルフたちを眺める。
一通りここの人たちは見てきたが、「元最強」が誰だか分からないな・・・・
それとも、やはりエルフの中にいるのか?
マリーは俺の世界の住民だから「元最強」、もとい「人生を奪われた者」のはずがない・・・・やはりあのエルフが「元最強」・・・・?ならば何故日本語を?それも能力か?
言語取得の能力・・・・そんなものがあるなら【回収】しておきたいが・・・・
今まで会って来た人物で、特徴的な人物に「元最強」かどうかを当てはめていくが、どうにも辻褄が合わない。
「そんなに深く考えなくてもいいと思うぜ?』
「な――――!?」
突然に声を掛けられ、驚いて体がのけぞってしまう。
まるで風のような声――――存在がないかのような声、どこかで聞いた声・・・・自分のことを神と呼ぶ、あのぬいぐるみと似たような、しかしどこか違うような声だ。
「お前・・・・誰だ・・・・?いつからそこにいた・・・・?」
その声の男は自分と同じような背丈・・・・あのぬいぐるみとは違い、しっかりと人間の形をしていた。
まるで学生服のように真っ黒な服を着て、異世界にあるあるな中世という時代には似合わないような黒髪・・・・まさに黒づくめという言葉が似合っていた。
ただ――――まったく気配が感じられないその男に、恐怖と近い感情を覚える。
「いつから、何故、そうじゃないんだよ・・・・僕は「ここにいる」その事実だけなんだよ』
「・・・・?何を言っているんだお前は?」
「さあ・・・・?僕も何を言いたいか分からない、だけど仕方がないだろ?世の中には分からないことだらけなんだから、妥協して生きていこうぜ?』
男はニカッと笑ってこちらを見る・・・・が、その目は無機物でも見るかのような、気味の悪い目だ。
「・・・・それよりも、何の用だ?俺が考え事していることを見抜きやがって」
「何の用、か・・・・正直言うと何にもないよ』
「は・・・・?」
「僕に過程なんてないんだよ、気まぐれ、なんとなく、そこにいたから、君に話しかけた・・・・ただ、僕が気まぐれでも、こうやって「人」に話しかけるのは珍しい・・・・君は、何者なんだろうね』
「・・・・さあな、「自分が何者か」なんていう哲学は、考えすぎて飽きたもんでな・・・・」
「確かに、「自分が何者か」なんていうのは難しい問題だね、考えすぎて問題に飽きてしまうのも仕方がない・・・・だけど――――』
男は言葉を溜めて言う――――
「案外、答えなんてすでに出ているのかもしれないよ?例えば――――この世界が『小説』だなんて、考えたことはないかい?』
・・・・シミュレーション仮説・・・・簡単に言ってしまえば、この世界が物語だと――全て作り物だと考える説のことだ。
それは何度も考えたことがある。
この世界はゲームで、自分以外は皆NPCなんじゃないか・・・・そんなことを考えたこともある。
その思想があったからこそ、自分は昔・・・・「この世界はゲームだ」なんてことを言ったのかもしれない。
「・・・・いーや、この世界はゲームだ、お前が言うような『小説』なんかじゃない。この世界はゲームだよ、それも・・・・超の付くような「クソゲー」だけどな!」
昔言った自分の言葉を肯定するように、ショウはそう言う。
「ゲーム・・・・君はこの世界が遊戯だと思っているのかい?』
「いーや、俺はゲームをプレイはするが・・・・遊んだことは一度もない」
「面白いねぇ・・・・』
男はその答えを聞くと、ニコニコしながら隣に腰を下ろす。
「君は・・・・あの個たちを見ていたのかい?』
「あぁそうだよ」
「ふーん・・・・まあ可愛い個ばっかりだもんね!』
「・・・・そうだな」
適当にその男に同調しておくと、男はニヤリと――――さっきまでのニコニコしたような笑顔ではなく、不気味な・・・・グロテスクな笑みを向ける。
「・・・・やっぱり、君はおかしいね・・・・普通の人ならそんな回答はしないよ』
――――確かに、ここの人たちはエルフに対して相当な怒りを持っている。
「かわいい」という言葉に同調するのは少しおかしかったか。
「俺はよそ者だからな、ここの人間と感性がずれているのは仕方がないぞ」
「・・・・やはり君は面白い、どこから来たんだい?』
「・・・・遠い東の町からだ」
「異世界人」だと言うわけにはいかず、あやふやで曖昧な回答を返す――――
・・・・その回答に対する返事がなく、無言のままで固まっている男に違和感を覚え、男の方へと顔を向ける――――
――――!?
・・・・そこにいた男は顔を引き攣らせ、驚いたような表情をしている。
――――そう、驚いたような顔・・・・その男に対して初めて見る、感情が分かる表情だ。
「・・・・そうか、君が『主人公』だったか』
男はぼそりと言うと、思い出したかのようにニコリとした表情に変わる。
「そうかそうか・・・・じゃあ仕方ない、仕方がないんだ』
「・・・・なあ、あまり言いたくはないんだが、その「仕方がない」って言うのやめてくれな――――」
話の途中で、その男はガバッと俺の頭を掴み、目と目を合わせる。
「君は何があったのかは分からないだろう、だけど――――僕には過程なんて必要ない、だから、君は「この能力を手に入れた」・・・・それだけが残る』
「お前何を言って・・・・!」
刹那――――意識の飛ぶ音がする・・・・
まるでゲームの途中に電源が落とされるような・・・・そんな気分だ。
男は頭から手を離し、ショウの体は地面へと叩きつけられる。
「・・・・俺は、勝つからな』
その男は天を仰ぎ、誰もいない空間にそう言う――――
まるで、この世界をただ傍観している者に告げるように――――




