彼らの位置
投稿が遅くなりながらもしっかりと見ていくれている皆様ありがとうございます!
ミハイロフ――――もとい、フロワの隠し事を聞いたあとは何事もなく夜を過ごし、その夜も終わりを告げて、朝を迎えようとしていた――――。
「・・・・ん・・・・朝ですか・・・・」
ゆっくりと藁の布団から起き上がり、周りを見渡す。
――――あれ?ラブさんは・・・・?
机を間に挟み、確かに向かいに寝ていたはずのラブの姿が見えず、若干の焦りを感じるが落ち着いて考える。
よく見ると、ラブの分のポンチョが一枚無くなっていた。
――――そうか、湖へ顔を洗いに行ったのかな?
そう思い、自分も顔を洗いに行こうと靴を履き、ポンチョを着て湖へ向かう。
少しだけ離れたその場所に行く途中に、会うはずのラブとすれ違うこともなく無事にたどり着いてしまう。
――――?湖にもいない・・・・気づかないうちに家に戻ったのかな?
顔を洗い、持ってきていたバケツに今日使う分の水を汲んで家に戻る。
しかし、やはりそこにもラブの姿はなく。ゆっくりとバケツを下ろし、考える。
――――町に行ったのかな?だけど何のために・・・・お金の入った袋はあるから服を買いに行ったわけではないはず・・・・。
徐々に焦りを感じ、直ぐに家を飛び出してラブを探し始める。
もしかして裏切られたのではないか?という疑問も何度も考えては考えていないふりをする。
絶体に信じたい。裏切られたくない。信じていたい人を信じられなくなっていく。
そうこうしているうちに町へたどり着き、ポンチョを着ているはずのラブを探す。
普段は話さないような街の住民に、ポンチョを着ている男を見なかったかと問い詰めていく。
しかし、そんな男は見なかったと。ポンチョを着ているような人も見かけなかったと言われ、さらに不安が増していく。
――――一体どこにいるんですか・・・・ラブさん!
まったく見当たらないその男の名を何度も頭の中で呼ぶ。
しかし、当たり前のように返事はなく、ただ時は過ぎていく。
そしてフロワも気づかない間に、いつの間にか町の外に出ていた。
――――まさか本当に・・・・見捨てられた・・・・?
ずっと考えようとしなかった状況にようやく焦点を当て、フロワは次第に絶望していく。
――――なぜ・・・・?何がいけなかったんだ?
そんな疑問すらも考えたくない。今はただ呆然としていたい。
――――しかし、そんな願いすら許さないと。一匹の獣の気配が徐々にフロワに近づく。
体長はフロワの3倍近く。鋭い牙と爪をもった――――一匹の狼だった。
「・・・・久々に見ましたよ・・・・魔物なんて・・・・」
狼はフロワを囲むように、ゆっくりと歩き始める。
どこから仕掛けようか、どう喰ってやろうか・・・・そう考えているのだろう。
――――まったく・・・・こんなにでかい魔物を見逃しているなんて・・・・勇者は何をしているんですかね・・・・。
狼は徐々にフロワとの距離をつめ、鋭く輝く爪で襲い掛かる――――!
「・・・さっさと消えてください――――」
フロワは狼が飛び込んでくると同時に、術式が書いてある紙を狼の前に出す。
その術式から氷の刃が勢いよく飛び出し、目の前にいる狼に直撃――――貫通する。
狼は鳴く余裕もなく、上半身と下半身とに真っ二つに引き裂かれ――――倒れる。
切られた肉は瞬間的に凍り、まるで最初からその物体であったかのように、隙間もなく氷という物体になり果てる。
・・・・やばい、魔法を使いすぎて意識が――――。
自分の体力ともいえる魔力を使いすぎたせいで、フロワはガクリと自分の体から力が抜けていくのを感じる。
体の重心は地面に向かい、ゆっくりと倒れていく――――。
しかし、体が地面に付くことはなく、代わりに背中には優しい手のぬくもりで溢れていることに気づく。
「・・・・よぉ、大丈夫かい?」
――――どうやら誰かに体を支えられているらしい。
朦朧とした意識の中、ゆっくりと瞼を開きその声の主を確認する――――。
――――――――その人物は、ラブだった。
自分がずっと探していた人物。
もう見つからないと思っていた人物。
すでに――――裏切ったと思っていた人物――――、
「こ、こんにちは――――」
どこにいたんだ?何をしていたんだ?
聞きたいことは山ほどあるはずなのに――――どうしてかその言葉を選んでしまう。
ようやく見つけられたという安心感に日常的なものを求めてしまったのだろうか。
それとも驚きすぎて、頭が混乱していたのだろうか。
しかし――――なんでもいいのだ。自分の声が伝われば、そこに話したい相手がいるのならば――――、
ラブは安堵しきったフロワの顔を見て、「・・・本当に大丈夫かよ」と声に出す。
「それにしても・・・魔法ってのはすごいな」
目の前にある氷像を前にして、ラブは改めて魔法の力を実感する。
――――自分の髪もこれだけ綺麗に染める技術・・・・魔法ってのはとんでもないな・・・・。
フロワをゆっくり地面に下ろし、氷像に触ろうとすると――――、
「・・・ラブさん・・・何故ここに?」
「あぁ・・・・実は隣町まで行っててな、勇者について聞き込みしてたんだよ」
「隣町・・・・!?あそこって結構距離ありますよね・・・・」
「あー・・・・実は昨日寝ずに町へ行ってたんだよ、昔から徹夜は得意でね」
あまり自慢にもならない自慢をしながら、ラブは話を続ける。
「それで、起きてる住民たちに勇者について聞き込み、隣の町でも勇者が活躍したって聞いて歩いて行ってたわけよ」
「・・・・なるほど、というかよく教えてくれましたね。そんな夜に・・・・」
「だってあいつら勇者のことになると目の色変えて話してくるんだもん。聞きたくない情報まで入ってきて大変だったよ」
本当に大変だったのか、町に行くよりも疲れたと言わんばかりにため息をつく。
「・・・・そういえば、悪かったな勝手に出ていって」
「・・・・別にいいですよ、そんなことより早速服を買いに行きましょうよ!」
そういってフロワは勢いよく立ち上がり、ポケットから袋を・・・・、
「あっ・・・・」
袋を出そうとして、そのポケットの中に袋が入っていないことに気づく。
あまりに慌てていたため、家に置きっぱなしにしてきてしまったのだ。
「・・・戻るか」
ラブはそのことを察したのか笑いをこらえながらそう言って家のほうへ歩き出す。
「ちょっと!おいて行かないで下さいよ!」
その後を続くフロワをしっかりと確認しながら、ラブは再び前を向いて歩く。
――――いつの間にかこのポジションが安定してきたな・・・・。
そんなことを思いながらも、どこか落ち着くその場所で、ゆっくりと歩き続ける。
◇◇◇
町の中心――――勇者の像が建つ噴水の前に二人は座り込み、ともに顔を伏せて落ち込む。
それも仕方あるまい――――何のために金を稼いだのか、服屋に入って早々に服は売り切れたといわれたのだ。
それも、行く店行く店全てだ。おかげでフロワは顔を真っ赤にして頬を膨らませて拗ねている。ラブもラブで、この先どうやって自分の情報を漏らさず戦えばいいんだと落ち込んでいた。
「なんですか買い占めって!一着ぐらい残してくれてもいいじゃないですか!」
「まったくだ・・・・あんなに買ってどうするんだよ・・・・」
それぞれ自分の目的が達成できなかったことに愚痴を言いつつ次にどうしようかを考える。
「・・・・おい、あんたらさっきから何してんだ?」
「・・・・あ、酒場の・・・・」
「――――あ?」
ずっとその様子を見ていたのか、依頼所の店主が何をしているかを聞く。フロワとは違い、初対面のラブは誰だ?と思いながらも、その言葉を出せないでいた。
フロワは立ち上がると店主と向き合って、ラブを差し置き会話を始める。
「何故店主がここに?」
「あぁ・・・・実は最近酒場としての売り上げが良くてな、客が一番来る夜に備えて食材を調達してんだよ」
「そうだったんですか・・・・」
「・・・・よかったら店で働かないか?金に困ってるなら職場が見つかるまででも俺の店で働くといいさ、寝床も食事もちゃんと与えてやるからよ」
店主はフロワがまた仕事がなくて困っているのかと考え、自分の店で働かないかと提案する。しかし、フロワはそんな店主の気遣いを悟り、「いえいえ、別にお金で困ってるんじゃなくて・・・・」と説明しようとする。店主は「お金に困ってるわけではない」という言葉を聞き、少しほっとしたような顔をすると「そうか」と返す。
いつも酒臭く、きつい言葉を言うような店主でも根は優しいのだ。それも自分の店で寝泊まりしてもいいと言い、職が見つかるまで居ていいと言うほどに。
「それじゃあ何をこんなところで突っ伏してんだ?」
「実は服を買おうと思ったのですが、全部売切れてて・・・・」
「あぁ・・・・なんでも勇者様が『次の戦いに火が必要だから燃料となるものを集めてくれ』って言ってたらしくてな、もう町中の服はその燃料となってると思うぞ」
――――またあいつかあああ~~~~~~~!!!
横で話を聞いていたラブは、原因が勇者だと知るに無性に腹が立ち、地団駄を踏み始める。
その光景を見たフロワがハッとして、ラブと店主お互いが初対面だということに気づく。
「あ、ラブさんこちら酒場の店主をしている・・・・えぇと・・・・」
名前を知らなかったらしく、フロワはラブに紹介しようとして見事に失敗してしまう。
店主も自分の名前を教えたことがないのを思い出し、自分からラブに対して話しかけてくる。
「俺はイシュタルだ・・・・ラブって言ったか?よろしくな」
そう言って手を出して握手を求めるイシュタルに、ラブもフロワ同様に立ち上がって向き合い「よろしく」と言って握手を交わす。
――――イシュタルか・・・・何故かは知らないが偽名を使っている・・・警戒はしておいて損はないか。
自分をイシュタルと偽る男から嘘を感じ取り、思わずよろしくできないなと感じてしまう。
「それにしても・・・・勇者様だかなんだか知らねえがよ、こんだけ好き勝手やっておいてなんで誰も文句を言わねえんだろうな・・・・こちとら燃料用とか言われて酒持ってかれたんだぞ?」
「・・・・むしろ、あんたは勇者に対して文句を言うんだな」
今までの町の人間は、柊がすること全てに肯定的で、まるで柊という神を崇めているかのように、誰一人として柊のすることに文句は言ってこなかった。
だが、このイシュタルと名乗る男は違う。どちらかというと勇者に対して否定的な意見をしている。そして自分と同様にこの町の住民に対して疑問を抱いている。
・・・・今のところ、否定的な意見を持つ人間に共通するのは偽名を使っている。というところか・・・・。
しかし、まだ相手の特徴を能力を把握しきれていない。これでミスがあったなんていうのは許されない・・・。それに、自分は今髪を染めてはいるものの服装は完全に日本人そのものだ。この格好を見られるのは詰みと同じだ・・・・。
「そうだ、服が欲しいなら店に来いよ。確かバカ息子の古着が残っているはずだ」
「!頂いてもいいんですか!?」
真っ先に反応したのはフロワだった。しかしイシュタルは今、「息子」の古着と言ったはずだが、大丈夫なのだろうか・・・・。どちらにしろ、女ということを隠しているフロワが貰えるのは男物の服だけだが・・・・。
ラブはイシュタルをじっくりと観察し、判断する。
――――なにか企んでるってのはなさそうだな・・・・。
だったら貰っておくのが得かと考え、ラブは返事を返す。
「なんなら金も払うよ、ぜひ受け取りたい」
「いや、金なんていいよ・・・・それに、たぶん坊主ぐらいのサイズはもう無いと思うぞ?」
その返答はラブに対してではなく、フロワに対してだった。
確かに、フロワは厚底靴を履いてもなおラブより身長が低く、その身長はおよそ中学生と同じかそれ以下、ラブと同じ服を着たりすることは不可能だと思える。
――――だけど、こいつって確か11歳の時に親を亡くしたんだよな・・・・でも話し方から結構前って感じだったし・・・・まさか今同い年って可能性もあるのか!?
何気に衝撃の事実を知り、ラブは静かに驚愕する。
そんなラブに気づかず、フロワは自分の着られる服がないということに落胆していた――――。
◇◇◇
――――とりあえず、こんなもんか・・・・。
クローゼットにかけてあった古着、茶色の色をした中世らしい服。それを着て鏡の前に立つ自分を見て、自己評価をする。髪を染めたということもあり、それなりに町の住民として馴染めているのではないだろうか。
「ラブさん、着替え終わりましたか?」
ラブのいる隣の部屋から、着替えが終わったかどうか確認の声が聞こえる。「大丈夫だ」と答えると、ゆっくりと扉は開かれ、そこにはフロワとその後ろに図体のでかいイシュタルが立っていた。
「――――おぉ!結構似合ってるじゃないですか!」
姿を見るなり褒めてくるフロワの言葉にお世辞の色はなく、心からそう思っていることを感じ取り、「おう、ありがと」と、感謝の意を述べる。そして、その後ろにいるイシュタルのほうに目線を向けると――――、
「イシュタルの爺さんも、ありがとな」
「・・・・その呼び方は気に入らんが・・・・まぁ似合ってるぞ」
古着と言えど、服をくれると言ってくれたイシュタルに対してもお礼を言うと、爺さん扱いされるのが嫌なのか「呼び方は気に入らない」と言い返してくる。しかし、それでも似合っていると感想を返してくれる。そんなツンデレじみたイシュタルに、もう一度お礼を言うと、脱いだ学生服を手に取り、その上にポンチョを被せて見えないようにしながら部屋を出る。
「んじゃ、俺達は行かせてもらうが・・・・本当に金はいいのか?」
「所詮古着だ、部屋の片づけができたと思えば得したようなもんだよ」
「そうか・・・・」とラブは答えると、最後までお礼を受け取ることはなかったイシュタルに心から感謝し、せめてものお礼の言葉を告げてゆっくりと階段を下りていく。
それに続くように、フロワも頭を下げ、お礼の言葉を言うとラブの後ろをついていく。
ラブ達は階段を下りきり、酒場の入り口の扉を開け、外に出ると、相も変わらず町は盛り上がっていた。
なんでも、勇者がまた偉業を達成したらしい。
「・・・・まったく、ここの住民は勇者大好きだな・・・・」
「昔はもっと落ち着きのある町だったんですけどね、こうなったのも勇者が来てからですよ・・・・」
なんでも勇者が絡んでくる町に、ラブは大きいため息を吐く。
結局、勇者が全部悪いんじゃね?と――――、
「・・・・ちょうど昼時か、目の前に屋台もあるし何か食っていこうぜ?」
「いいですね!私、外で物を買って食べるの久々です!」
屋台の店番をしている男に二人分の食べ物を頼み、それが出来上がるのを二人で待つ。
ふと、フロワの発言にラブは一つの疑問が頭に浮かぶ。
「そういえば、フロ・・・・ミハイロフは今までどうやって稼いでたんだ?」
思わず本名を言ってしまいそうになり、とっさに呼び名を偽名へと変更する。
フロワは少しばかり顔をしかめながらも問いに答えてくれる。
「私は『退治屋』をしていたんです。まぁ・・・・それも勇者のせいで出来なくなってきましたが・・・・」
「『退治屋』・・・・?」
「外に出る魔物――――いわば害獣を駆除する仕事です。基本的に依頼を受ければ誰でもできる、簡単であり危険な仕事でもあります」
『退治屋』という聞きなれない単語を聞き、考えているとフロワが説明をしてくれる。
魔物というの朝方フロワによって氷の塊になっていたモノだろう。あれを見る限り、確かに命の保障はされなさそうだ。
「まあ、それも勇者によって出来なくなっているわけですが・・・・」
「・・・・また勇者か・・・・?」
「えぇ、勇者が好き勝手やるもんですから、魔物の数が激減して依頼が減ってるんですよ」
「・・・・なるほどね・・・・」
つまり、勇者が勝手に魔物を倒したり色々しているせいで害獣は減り、必然的に町の人たちが魔物で困ることは無くなるから依頼も減ると・・・・とことん害悪だな勇者も・・・・。
そうこう話していると出来上がったらしく、肉と野菜をパンで挟んだ――――サンドイッチらしきものを二人分男が手渡す。
「サンドイッチか・・・・」
サンドイッチというにはあまりに日本製に近いそのサンドイッチに、どこか嫌なものを予感させる。
そしてその予感は生憎当たってしまったようで――――、
「お、よく知ってるねぇ!勇者様の国で流行っているらしくてね、取り入れてみたんだよ!」
――――やっぱりか・・・・。
もはや時代改変と捉えてもいいのではないのだろうか?勇者のあまりの身勝手な行動に、ラブはもはや呆れていた――――。