既知と未知
文化祭が終わり、日も落ちかけていたころ・・・
校門から出てきた二人は肩を落とし、揺らしながら無言で歩く。
『歌合戦』にて、戦いを繰り広げたショウとマリー、この二人は今・・・猛烈に落ち込んでいた。
「まさか文化祭実行委員は評価基準に含まれないとは・・・」
「まさか本名じゃないせいで評価されないとは・・・」
「「聞いてない!」」ですわ!」
天を仰ぎ、二人同時にそう叫ぶ。
ショウは自分が文化祭実行委員だということを、マリーは学校の生徒じゃなかったが故に、匿名を使うことになった自分を恨む。
「悪いなマリー・・・!まさか『勝負すらできない』なんてことに気付かなかった・・・!完全に盲点だった、俺のミスだ・・・!」
「いえ、ショウ・・・!悔やむことはありませんわ・・・!これはどうしようもなかったことですわ、仕方がありませんわ・・・!」
そう言って、マリーは励まそうとしてくれていたのだろう。しかし直後に自分の言った言葉に気が付き、お互いがさらに落ち込むことになってしまう。
――――とはいえ、いつまでも落ち込んではいられないよな・・・
顔を上げ、落ち込んでいるマリーの方を向く。
「・・・どうだマリー、あんな結果にはなったものの、最終的には楽しめたか・・・?」
――――それは一度、文化祭の時にもした質問。
確かに、最終的には勝負はお預け、というような形で終わってしまったが――――それでも、マリーが楽しんでくれたならば、俺は『それでもいい』と、心から言える。
マリーは落としていた肩を上げると、笑顔でこちらを向く。
「『楽しかった』ですわ!」
一度目と同じように――――いや、それ以上の笑顔でマリーは答える。
「そうか・・・よかったよ」
それだけを言って、進行方向へと顔を向けると、すでに駅が見えてきている。
そのすぐ近くには黒塗りの高級車が・・・
「あ、迎えが来てますわ!わざわざ駅の近くに停めているなんて・・・気が利きますわ!」
そういって、マリーはタッタッと車に近づいて運転手に話しかけている。
・・・まさか俺とマリーが話しながら帰ることを想定していたのか・・・?心底恐ろしいな。
気の利きすぎた麻里家の行動に、どれだけ自分のことやマリーのことを理解しているのか、そう思ってしまう。
「ショウ!あなたも乗っていきますわ!」
「お?いいのか?・・・じゃあお言葉に甘えさせて貰うよ」
そう言って、車の中に入るマリーに続き、自分も中に入る。
運転手の人から「どこまで行きましょうか?」と尋ねられたため、とりあえず自分の降りる駅までお願いする。
「そんなことよりショウ!ゲームしますわ!」
そういうと、どこからともなくマリーがゲーム機を二つ取り出し、片方をこちらへ差し出す。
「・・・よし、やるか!」
差し出されたゲームを受け取り、早速電源を点ける――――
・・・せっかくだ、『歌合戦』の憂さ晴らしでもしようじゃないか――――!
そしてショウは、画面の中へと意識を研ぎ澄ませる――――
***
「・・・これで丁度10勝目だな、最初の時よりは上手くなったじゃないか――――マリー」
「~~~~~~!」
ショウの画面にはWINという文字が、反対にマリーの画面にはLOSEという文字が表示される。
10戦10勝、ショウの勢いは止まることなく、何度も挑んでくるマリーを叩き潰す。
「どうして勝てませんの~~~~!」
そう言いながら、マリーは後ろに倒れこむ。
そんなマリーを見て、慰めるようにショウは語る――――
「本気の俺と戦えているんだ、むしろ誇るべきだと思うぞ?」
――――「俺と戦えるなんて上手いじゃないか!」と、煽っているようにしか聞こえない言葉を放ちながら。
「~~~~!ショウ!もう一度勝負ですわ!」
「・・・お言葉ですがお嬢様、そろそろ目的地へと到着します」
体勢を戻し、再び戦う意思を見せるマリーに、運転手が止めに入る。
外を見てみると――――どうやら、すでに駅近くまで来ていたようだ。
「・・・そうだな、キリも良いし、ここらで終わっておくか」
「・・・分かりましたわ、次は負けませんわ!」
「おう」とだけ言ってゲーム機をそっと閉じると、車が停車する――――駅に着いたようだ。
「じゃ、またな」
そう言って車を降りて扉を閉じると、窓が開いて「また、ですわ!」マリーが車の中から手を振っている。
手を振り返していると、車が発進してすぐに見えなくなってしまう。
――――さて、帰るか。
完全に見えなくなったところで、家へと向かい歩き始める。
家に帰ったら、とりあえずゲームだが・・・ピアノの練習のせいで疎かになっていた分を取り戻さないと――――・・・!?
頭の中で今日やる分のゲームを考えていると、後ろから叫び声が聞こえる。
しかし、その叫び声は明らかに、確かに、自分の名前を呼んでいた。
――――なんだ!?
そう思い、振り返った瞬間――――ブスリと腹部に何かが刺さる。
「ぐぁ!?」
衝撃でよろめきながら後ろへと下がる・・・しかし、意識が朦朧として地面に倒れてしまう。
熱い・・・まるで火を押し付けられているかのような感覚――――しかし、それが痛覚だということに気づくのに、さほど時間はいらなかった。
気づけば、腹のあたりにナイフが刺さっている。
何が起きた――――?あれは・・・ザンヤ・・・?
朦朧とする意識の中、見間違えるはずのないその顔・・・ザンヤの顔が目に映る。
なんでナイフなんか持ってんだよ・・・!
ひとまず逃げなければいけない、この出血・・・間違いなく死――――
這いながら、進もうと、逃げようとすると――――どこかで声がする。
『それは――――レギュレーション違反だよ』
――――なんだ・・・?レギュレーション・・・?
声のした方向・・・ザンヤの方向を見る。
そこに映っていたのは、ザンヤが悶え、苦しむ様だった。
「ぐ、ああああああああああ!」
まるで断末魔のように叫ぶザンヤの背後に、やはり見覚えのある顔が、姿が見える――――
ソラ・・・先輩・・・?――――本当に・・・どういうことなんだよ・・・
最後で最期の疑問すらも、そこに答える者はなく――――
――――ショウという存在は亡くなった。




