あの日の天才は 6
ショウたちが撃ち終わり、立ち去るのを確認すると、「忙しいのにありがとうな!」と、次の店番の生徒がお礼を言いながら準備を始める。「全然構わないよ」と、笑顔で返し、店番を任せることにする。
――――と、いっても特に行く当てもなく、とりあえず学校を回ってみることにする。
サプライズのピアノ演奏までにはまだ時間があるし、歌合戦で自分が歌うのも、大体サプライズの少し前ぐらいだった。
・・・さて、どうしたものか。
「あの・・・!」
「・・・ん?」
ひたすらに歩いていると、後ろから声を掛けられ、振り向く。
そこに立っていたのは、自分よりもいくらか身長が低い女子生徒だった。
――――一年だろうか?見ない顔だ。
「ザンヤ先輩・・・ですよね?これ、一年生の子から『渡してください』って頼まれて・・・」
そう言うと、その生徒は右手に持っていた紙を、こちらへ差し出してくる。
四つ折りになった紙を広げると、『お願いがあります。ここに来てください』となにやら場所と時間が書いてある。
――――ここは体育倉庫か・・・?『お願い』というのが引っ掛かるが・・・時間的にはそろそろ、今は特に何もないからな・・・行ってみるか。
わざわざ届けてくれた生徒に、お礼を言うと、足早に記載された場所へと向かう――――
***
体育倉庫、古くから使われているためか、はたまた外にあるためか、その倉庫は錆びついて開きづらくなっている。
――――本当に、こんなところで何をしようと言うんだ?
開きっぱなしになっている扉から中へと入り、周りを見て人を探すが、人の影どころか気配すらも感じられない。
なんだ?いたずらか・・・?それとも差出人がまだ来ていないだけか。
あまりの物静けさに、「はぁ」とため息をついて、近くにあったマットレスへと腰を下ろす。
誰もいないようだが、とりあえずは待ってみることにしよう。どちらにしろ、ここに長居はできないがな。
予定が書かれている紙を確認し、ゆっくりとしている時間しているはあまりないことを悟る。
・・・せめて何か食べておくべきだったな、空腹でおなかが鳴りそうだ。
どうやら差出人もおらず、来るような気配もないので、とりあえず何か食べようと立ち上がる――――すると、ガラララララと突如扉が閉まる。
――――なんだ!?
閉められた扉から、南京錠で鍵をかけるような音がし、とても嫌な予感が脳裏に過る。
――――まさか・・・!
閉められた扉に近づき、開こうとするがビクともしない。
扉の向こう側から、なにやら声が聞こえたため、静かに耳を傾ける――――
「本当に体育倉庫開いてたな」
「どうせ教師のミスだろ?まあ事前に気づけて良かったよ、あの一年には感謝しないとな」
――――あの一年・・・!?この手紙の差出人か・・・?まさか、ハメられた!?
元からおかしなところはあった、何故体育倉庫なのか、何故鍵が開いているのか、何故――――
「おい!誰かここから出してくれ!」
中から大声で呼びかけるが、返事がない。すでにどこかへと行ってしまったらしい。
――――クソ!いったい誰がこんなことを・・・?!
その発言の直後、とある人物が思い浮かぶ。
『俺』が不幸になって喜ぶ人間、『俺』に対して恨みのある人間・・・
心当たりがある人物が一人だけいた、それは――――ショウだ。
「またあいつかよ!ふざけるな!」
転がっているボールを思い切り蹴飛ばし、怒りを発散させる。
まだ決まったわけではない、しかし・・・そいつとしか、ショウ以外とは、とても思えなかった。
***
ガタンガタンと揺れ動く電車の中、やはりその男は怒っていた。
自分を陥れたあの男に、自分を惨めだと思わせるあの男に・・・
ショウ・・・ショウ・・・!
頭の中で何度も同じ名前を呼ぶ、まるで呪い殺すかのように、何度も何度も・・・
――――電車が止まり、自分が降りる駅へと着く。
駅から出て、半無意識的にその男は帰路を辿り始める。
しばらく歩き続け、もう家まであと少しというところ・・・
――――!
――――それは、幸か不幸か・・・帰宅途中に目に入ったその人物、何度も何度も呼び続けた人物――――
「愛川・・・!ショオオオオオオオオオオ!」
何故ここにいるのか、そんな疑問はどうでもよかった。
ただ『ショウ』という人物がそこに、確かに存在する・・・たったそれだけで、ザンヤの中で何かが切れた。
気づけば、その男の手は・・・真っ赤に染まっていた。




